アルピナのフラグシップモデル「アルピナB7」に田中誠司が試乗した。ベースとなるBMW「7シリーズ」との違いはいかに?
今なお希少なアルピナ
世の中に数ある自動車メーカーの中でも、BMWは“好き”とか“趣味”の対象となることの多い、色気のあるブランドである。その“好き”がやがて高じた先に行き着く、ふたつの終着点がBMW MとBMWアルピナだ。
いずれも、ただでさえ高価格・高性能なBMWに特別速いエンジンとそれを受け止められる足まわり、そしてそのエクスクルーシブネスに相応しい内外装を与えられている。
BMW MはBMWグループのなかにあって、社内では“サブブランド”と呼ばれている。いっぽうのBMWアルピナは、「アルピナ ブルカルト ボーフェンジーペンGmbH+Co. KG」という、独立した法人により運営される独立した自動車メーカーである。
そう聴くと、アルピナというのはMと比べればよりアウトサイダー的であるようにも思えるが、実はBMWとアルピナが関係を持ち始めたのはMの源流であるBMWモータースポーツ社の設立(1972年)より早い。1960年代半ばに遡る。
アルピナはキャブレターやクランクシャフトなど、BMWを高性能化し、レースを戦うために必要なチューニング部品をディーラーやエンドユーザーに供給するほか、自ら「2002」や「3.0CSL」といったBMWで欧州ツーリングカー選手権にエントリー、1970年代に幾度も年間王座を獲得することでその名声を確立した。
その後オイルショックの影響によってモータースポーツが下火になり始めた1970年代後半、BMWは初代「3シリーズ」の投入などにより“スポーツセダンのメーカー”として成長を遂げていく。ここへ、それらのBMWをベースとするさらに速いセダンを投入したのがアルピナだった。
特製のピストンやクランクシャフトを組み込んでターボチャージャーを装着したエンジンに、その大出力を受け止められるサスペンションやエアロパーツを組み合わせるのが彼らの主なメニュー。1978年にはアルピナ「B7ターボ」が最高出力300psを達成し、“世界最速セダン”の座を手中に収めた。
アルピナはBMWと密接な関係を続けつつ、1983年にはドイツ自動車登録局から自動車メーカーとして認定を得るに至った。その生産手順はモデルにより2パターンが存在し、ひとつは旧来どおりBMWから納入されたホワイトボディに、職人の手で組み立てられた高性能エンジンや専用セッティングの足まわりなど、独自の部品を自社の工場で組み付けるというもので、現在もB7はこの方法で生産される。
もうひとつのパターンは、アルピナ専用パーツをBMWの工場に納入し、特別な生産ラインで組み立てるという流れで、3シリーズやドイツ国外で生産されるXモデルはこの新しい手法をとる。現在、アルピナの年間生産台数は1500~1700台と、ディーゼル車やXモデルの人気で15年前に比べれば倍増しているが、2019年にBMWブランドのクルマが約218万台作られたのと比較すれば、いまもきわめて希少なモデルなのである。
0-100km/h、3.6秒!
今回試乗した2020年モデルの「アルピナB7」について、内外装や装備の概要はこちらの記事(https://www.gqjapan.jp/car/news/20190627/alpina-b7-news)も参考にしていただきたい。本稿ではメカニカルな部分を主に紹介していく。
4.4リッターV型8気筒ツインターボ・ガソリン・エンジンは、「750Li」用ユニットをベースにする。排気量はそのままではあるが、大型タービンを備えるターボチャージャーとステンレス・スチール製のアルピナ・スポーツ・エキゾーストシステムなどで高出力化を図りつつ、独自の大容量インタークーラーで冷却性能を高め、最高出力は608ps、最大トルクは800Nmを絞り出す。
おなじ7シリーズのロングボディに排気量6.6リッターのV型12気筒エンジンを搭載するBMW M(正確にはMパフォーマンス オートモービル)のフラッグシップ、「M760Li」の609ps/850Nmにあとわずかに迫る数値だ。むろんそこには忖度とか大人の事情があるのだろうが、アルピナは大人のクルマなのだから、それでいい。
2019年までのモデルに比べ、より大径のターボチャージャーを採用することで、これまで3000rpmから5000rpmまで保たれていた最大トルク800Nmを、2000rpmから5000rpmまで続けて発揮できるようになった。これにより、静止状態から100km/hに到達するのに必要な時間は、4.2秒から3.6秒へ短縮されたとメーカーは主張する。0-100km/hで4秒を切れば、スーパーカーと呼んでまったく差し支えない加速性能である。
凝ったメカニズム
全長5.3m近く、車重は2.2トンに迫る巨体にそのような加速をもたらす怪物級のマッスルカーであるにもかかわらず、アルピナB7の室内は優雅そのもの。とりわけ華やかな雰囲気を醸し出すのは、艷やかな「ミルテ・ウッド」と呼ばれるアルピナ独特のウッドトリムである。
外観のアルピナ・ブルーもしくはアルピナ・グリーンと、この赤く光るパネルの組み合わせがもたらす視覚刺激は、アルピナを経験したことのある者たちに、これから始まる甘美な体験を強く想起させる強烈なヴィジュアル・アイデンティティだ。
コクピットにはリム内側にブルーとグリーンのスティッチを施し、スポーク裏側にギア選択のボタンを置いた「アルピナ・スウィッチトロニック」専用のステアリング・ホイールと、すべてアナログからデジタル表示に代わってしまったものの、依然アルピナ専用のデザインをもつメーターパネルが眼前に配される。
ほかのBMWと変わりないクランキング音を経てエンジンが目を覚ます。このアルピナB7で特徴的なのは、直噴とバルブトロニックとターボを組み合わせた、かなり凝った構造にもかかわらず、まったくそれを意識させない柔らかなサウンドと手応えだ。街を走り出すと、焚き火の炎がゆらめくような穏やかな息吹とともに、安心して身を委ねられる分厚いトルクが身体を押し出してくれる。
電子制御ダンパーにカメラで路面の起伏を読み取る「ロード・プレビュー機能」を組み合わせたフル・エアサスペンションは、乗り心地への配慮からランフラット式を採用していないミシュラン・パイロット・スポーツ4Sおよび、20インチもしくは21インチの鍛造ホイールに合わせて、アルピナ独自の味付けが施されている。つまり608psを受け止める高度なタイヤグリップを実現しながら、可能な限り軽く作って路面からの衝撃を抑えようというわけだ。
BMWも含め一般的な量販モデルの場合、消費者の要望に応えつつ部品供給上のリスクにも備えるため、ホイールのサイズやデザインは数多用意されており、タイヤの銘柄も3種類ほど設定される。これらを組み合わせた多数の仕様で要求される性能を、限られた種類のサスペンションで実現しようとすると開発に多大な手間と費用を要するし、すべての仕様でベストなバランスを得ることは不可能である。このためアルピナは、昔から標準装着タイヤをミシュラン製に絞り、かつ車種ごとに1~2種類のホイール・サイズだけを設定することで、コンプリート・カーらしい優れたバランスの実現に集中するのだ。
果たせるかな、コンフォート・モードで走り出したアルピナB7の乗り心地は、まるで風のない湖上を滑るようにゆったりしていて、V8ユニットは控えめなバックグラウンド コーラスを奏でることに専心しているようだ。フロント:255/35ZR21 98Y、リヤ:295/30ZR21 102Yというワイドタイヤゆえのロードノイズだけが現実世界とのつながりをかすかに意識させる。
ゴージャスなリアシート
左右独立式レイアウトのリアシートにも触れておきたい。ナッパレザーにキルティングスティッチとパーフォレーション加工を施した試乗車のシート表皮はBMWインディビジュアル、つまりさまざまなカスタマイゼーションが可能なものだ。
リクライニングや前席バックレストから展開されるオットマン、マッサージ機能、日差しを遮るサンシェードなどはすべて電動で、乗員それぞれが空調やシート温度をコントロールでき、専用のモニターも配備される。
身の丈2m近いエグゼクティブも長距離移動でゆったり寛げることがドイツの最高級セダンの必須条件ゆえ、筆者(身長172cm)がポジションを合わせた運転席の後ろの席に座った場合、ひざ前には31cmの空間が残る。
大柄な人には最高のおもてなしに違いないが、座面が高くてクッションもあまり沈みこまないため、日本人の女性で軽くて小柄な人の場合は、かえって落ち着かないと思うかもしれない。その場合は5シリーズをベースにほぼ同じV8ユニットを搭載する「アルピナB5」をあわせて検討するとよさそうだ。
自動車の世界を見下ろす“最高峰”
こんな滑らかさにいつまでも浸っていたいと思いつつ、眼前に広がるオープンロードに向けて右足で鞭を入れる。V8ビターボが放つサウンドのトーン自体はエンジン スピードに合わせて高まっていくのだが、そのボリュームの増加よりも速いピッチで車速が上昇していく感覚だ。
カタログに記された出力特性図が示すとおり、強大かつ徹底的にフラットなトルクが5000rpmまで保たれる。5000からうえへ、レヴ・カウンターは6400rpm前後まで淡々と回転を上げ、そこまで回ってからシフトアップしていく。レスポンスは瞬時だけれど、常に上品な振る舞いが保たれていて、よくも悪くも、スペックが示すほど“速いクルマ”であると感じさせないのが特徴である。
ペースを速めた際のフットワークには、これもアルピナが独自にセッティングを施した4輪操舵の“インテグレイテッド・アクティブ・ステアリング”が効果を発揮する。コンフォート・モードではひらひらという軽快感を、スポーツ・モードではどっしりとした安定感を得られるほか、ステアリングを大きく切り込むタイトコーナーでは後輪が前輪と逆位相に切れることでクイックに曲がり、大柄なボディサイズを意識させない。
ドライビング・パフォーマンス・コントロールを“スポーツ プラス”に設定すると、前後のエア・サスペンションが車高を15mm低く落とし、ネガティブキャンバーも強まることで、よりハードな走行に備えた体勢となる。とくに前後方向の姿勢変化が削られ、路面の状況も逐一伝わってくるため、速さを追求するにはよい設定なのだが、私ならサーキットでのタイムトライアルや、パパラッチか暗殺者に追われてとにかく逃げたいときにしか使わないだろう。穏やかな姿勢変化と路面の起伏を飲み込むように走るスポーツ モードのまま、紳士的な範囲でペースを上げるほうが、このアルピナB7には相応しいと思うからだ。
スーパースポーツカーに比肩する動力性能と、サーキット走行も苦にしない操縦性を保ちつつ、洗練性、高級感、高品質にも隅々まで徹する。アルピナの哲学を最も高い水準で結実させたのがアルピナB7である。サイズ的にも価格的にも個人オーナーには縁の薄いモデルとはいえ、自動車の世界を見下ろす“最高峰”のひとつとして、いつまでも燦然と輝いていてほしい。
文・田中誠司 写真・安井宏充(Weekend.)
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