イタリアのデザイン工房、イタルデザインが手がけた「日産GT-R50byイタルデザイン」が話題になったが、過去を遡ると海外デザイナーやデザイン会社が手がけた日本車の作品は数多い。
そこで、これまで海外デザイナーが手がけた、美しい日本車を6台選出。そのクルマをデザインしたのはどんな人物だったのか、モータージャーナリストの清水草一氏が解説する。
これぞ日本を代表する「大人のセダン」 WRX S4にトップグレード新設定!!
文/清水草一
写真/ベストカー編集部、トヨタ、日産、ホンダ、スバル、三菱、Italdesign Giugiaro
■スバルアルシオーネSVX/ジョルジェット・ジウジアーロ
かつて私は、国産車にはカッコ悪いデザインが多すぎることを嘆き、「日本人はデザインが苦手なんだから、デザインは外注に出せ! イタリア人にやらせろ!」などと、単純なことを吼えていた。
が、仲間内での綿密な分業のもと、漆の重ね塗りのごとく、ひとつづつ作業を積み重ねてく日本人の感性からして、デザインだけが縁もゆかりもない雲上界から降りてくることには強い反発があり、なかなか難しいようだ。
かつ、現代は安全性確保との超複雑な関連もあって、今や自動車デザインは社内で行うのがアタリマエ。社外デザイナーやカロッツェリアは使わないのが、世界の定番となった。
が、それでもこれまでにかなりの数、外国人デザイナーがデザインした国産車が発売されている。
それらは玉石混交で、「外国人にデザインさせればカッコよくなる」なんて単純なものではないことがわかるが、それらをいくつか紹介していこう。
真っ先に挙げたのが、アルシオーネSVXは、史上最高の自動車デザイナーとの誉れ高い、ジョルジェット・ジウジアーロ氏(1938年、イタリア・ガレッシオ生まれ)によるデザインである。
見た瞬間誰もが、「これが本当に市販車なのか!?」と目を疑った。最大の特徴は、分割されて一部のみが開くサイドウィンドウだが、これはサイドガラスがルーフ部まで回り込む構造のためである。
もうちょっとウィンドウ開閉部を大きくすることもできただろうが、あえて美しくわかりやすく分割することで、見るものに強いインパクトと、スペシャル感を与えることに成功している。
フォルム全体としては、サイドラインを二重構造として、サイドウィンドウの一部の下段まで広げることで、側方視界を確保しつつ、複層的な美しさを実現している。
アルシオーネSVXは、販売的には大失敗に終わったが、デザイン的には現在も超名作として語り継がれている。まさにジウジアーロ氏の面目躍如だが、彼のデザインコンセプトを本気で実現した当時のスバル技術陣の奮闘にも、深い敬意を表したい。
■オリジナルデザインはリトラクタブルヘッドライトだった!
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■いすゞ117スポーツ(後の117クーペ)
ジウジアーロ氏はこのほかに、いすゞ117クーペと初代ピアッツァ、日産の初代マーチ、ダイハツの初代ムーヴ、トヨタの初代アリストのデザインも手がけている。
※いすゞ117クーペの特選中古車はこちら。
■アッソ・ディ・フィオーリ(後のピアッツァ)
117クーペとピアッツァは、SVXと並ぶ傑作で、今でも光り輝いているが、初代マーチは見るからに凡庸で、どこでどう間違ってこうなったのか? と思わざるを得ない。
初代ムーヴも、「これがジウジアーロ? 嘘だろ」という感じだ。初代アリストは決して悪くないが、傑作というほどではない。
クルマというのは、デザインスケッチがtどんなに優れていても、それをどこまで具現化するかにかかっているのだと思い知らされる。
ちなみにイタルデザインは2010年にVW傘下に入っているが、2015年、ピエヒ会長やチーフデザイナー、ワルター・デ・シルヴァがVWが離れた時を同じくして、ジウジーロは保有株式を売却し、経営から退いた。現在は息子のファブリツィオ氏と新たに立ち上げたGFGスタイルという会社で、デザイナーとして活躍している。
※※いすゞピアッツァの特選中古車はこちら。
■初代マーチ
■初代ヴィッツ/ソリティス・コヴォス
初代ヴィッツは、当時トヨタに在籍していたギリシャ人デザイナー、ソティリス・コヴォスの作品。
初代ヴィッツが登場した時は、「これはトヨタの革命だ!」と打ち震えた。コロンとしたワンモーションのフォルムは、シンプルでいながら斬新で美しかった。インテリアも同じテイストで仕上げられ、安っぽさを逆に魅力に変えるセンスが光っていた。
こんな先進的なデザインを持つコンパクトカーが、カローラに迫るほど多く売れたのは、日本市場の革命だった。
それまで日本では、「カッコいい大衆車はあまり売れない」というジンクスがあった。理由は「目立ちすぎるから」。が、ヴィッツの大ヒットは、日本でもカッコいい大衆車が主流になれる良き前例となった。
コボス氏はその後、最終型ソアラ(レクサスSC430)のデザイン原案も手掛けた。ヴィッツと同じくワンモーションフォルムで、サイドラインにヴィッツとの共通点を見ることもできる。
北米では概して好評だったが、日本人にはどこか大味に見え、鳴かず飛ばずで終わった。あんこは少量なら甘くておいしいが、デカすぎるとくどく感じる……みたいなことだろうか。
いずれにせよ、デザインの好みには、国民性も大いに関係するのである。
※トヨタヴィッツの特選中古車はこちら。
■スバルR1、R2/アンドレアス・ザパティナス
■スバルR2
■スバルR1
※スバルR1の特選中古車はこちら。
※スバルR2の特選中古車はこちら。
スバルの問題作、R1、R2。販売的には目を覆うばかりの大失敗だったが、デザイン的には大変な意欲作で、特にR1に関して、故・前澤義雄氏(元日産チーフデザイナー)が絶賛したことは忘れられない。
この2台をデザインした人物こそ、アンドレアス・ザパティナス氏(1957年、ギリシャ・アテネ生まれ)である。
ザパティナス氏は、フィアットでバルケッタのデザインにかかわったのち、師であるクリス・バングルを追ってBMWへ。その後フィアットに復帰。そして2002年、スバルのチーフデザイナーにヘッドハンティングされた。
彼が真っ先にやったことは、「スプレッドウインググリル」の採用だったと言われる(諸説あり)。ブランドには統一イメージが必要だというのは、当時徐々に常識になりつつあった。
2003年にR2が、2004年にはR1が発売。どちらも欧州車的な凝縮感が強いフォルムを持ち、フロントにはスプレッドウインググリルが輝いていたが、室内はライバルに比べるとケタはずれに狭く、軽としては驚くべきデザイン優先。
「今後はこういう軽を求める客も増えるはず」との目算だったが、非常に少数派に過ぎなかった。結局大惨敗を喫して、ともに2010年、生産中止となった。
ザパティナス氏は、北米で販売された「トライベッカ」のデザインも行ったが、その鮮烈なフォルムは、スバルに落ちてきた隕石のような異質さで、R1/R2同様、根付くことはなかった。
また、B9スクランブラーという意欲的な作品も発表するも市販化することはなく、トライベッカも販売不振……。2006年にスバルを退社し、のちにスプレッドウインググリルも廃止されたのでした。諸行無常……。
■スバルB11スクランブラー
■日産410ブルーバード/ピニンファリーナ
ピニンファリーナといえば、フェラーリのデザインで世界一有名なカロッツェリアだが、日本車のデザインもいくつか手掛けている。
代表的なのは、1963年発売の2代目ブルーバード(410系)だ。初代に比べると明らかにモダンかつヨーロピアンな、美しい曲線を持っていたが、尻下がりのデザインが国内では大不評。ハイブロウすぎて、当時の日本人には理解できなかったのだ。
あまりの不評により、マイナーチェンジでは尻下がりのラインを修正する屈辱を味わった。
この失敗が尾を引いたのか、その後市販化されたピニンファリーナ・デザインの国産車は、思ったより少ない。
シティカブリオレは、ベースのシティの改修にすぎないし、パジェロピニンは、パジェロイオの欧州向け生産をピニンファリーナが担当していたことから、エクステリアの加飾部をリデザインしたにすぎない。
ホンダとの関係も深く、NSXの前身といわれるHP-Xコンセプトはピニンファリーナの作品。惜しまれるのは、ホンダのコンセプトモデル「アルジェント・ヴィーヴォ」だ。これは大変に美しい2シーターオープンスポーツで、いま見ても慄然とする。
同じ1995年に発表されたSSMではなく、仮にこちらがS2000のデザインベースになっていたら……と、夢想せずにはいられない。
■ホンダHP-Xコンセプト
■ホンダ・アルジェントヴィーヴォ
■2代目スバルレガシィ/オリビエ・ブーレイ
歴代レガシィのなかでも、佳作的な存在の2代目。このデザインをまとめたのは、当時スバルのチーフデザイナーだったオリビエ・ブーレイ氏(1957年8月9日生まれ、フランス出身)である。
ブーレイ氏は、PSAプジョー・シトロエンやポルシェを経てメルセデス入りしたデザイナーだが、1989年にスバルに移籍し、3年間在職。日本の自動車メーカーで初のチーフデザイナーとなる。その間にリリースしたのが2代目レガシィなのだ。
2代目レガシィのデザインには、奇を衒ったような部分はないが、ヘッドライトとグリルの関係が奥深く端正で、全体にバランスのいいデザインだった。
ブーレイ氏はその後、メルセデスに戻ったが、三菱自工のダイムラー傘下入りと同時に三菱のデザイン部門のトップとして赴任。ブランド統一デザインとして、グランディスに代表される「ブーレイ顔」を導入した。
ところがこれは大不評。2004年には、早くもダイムラーが三菱との縁を切ったこともあり、ブーレイ氏もメルセデスに戻り、ブーレイ顔は三菱の負の遺産となった。
■三菱グランディス
グランディスのデザインを見ると、決してブーレイ顔が悪かったわけではないことがわかるが、既存モデル(ランサーなど)も無理にブーレイ顔に仕立てたことで、猛烈なブスになるモデルが続出、それがブーレイ顔全体の不評となって三菱の黒歴史となってしまったのでした。
こうして見ると、ジウジアーロ氏やピニンファリーナを除くと、国産車をデザインした外国人は、社内にいたケースが多い。
現在はグローバル化の時代で、国産メーカーも人材がグローバル化している。もはや自動車デザインにおいて、「これは日本人作、あっちは外国人作」というような色分けは不可能になってきた。もうそういう時代じゃないのだ。
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