ホンダS660が2022年3月で生産終了となるのは既報の通りである。このニュースを耳にした際、筆者は環境性能や安全性能といったクルマに要求される要素が増える一方の現代において、販売台数が多いものではないスポーツカーを継続するのは本当に大変というのを改めて痛感した。
そんなことを考えながら現行日本車を見ると、オリジナルボディを持つスポーツカーとしてほぼ空白期間なく長年存続しているのは、日産フェアレディZ(4代目と5代目の間に2年近くの空白期間はあったが、これはノーカウントとしていいだろう)とマツダロードスターの2台だけである。
という背景もあり、当記事では筆者がベストなロードスターと確信し、欲しいクルマリストから消えないNR-Aグレードに久しぶりに乗り、ロードスターが30年以上存続している理由などを考えてみた。
文/永田恵一、写真/西尾タクト、MAZDA
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■ロードスターNR-Aってどんなクルマ?
2015年登場の4代目ロードスター。走る楽しみを追求した贅沢なモデルだ
2015年に登場した4代目モデルとなるロードスター(以下NDロードスター)は、初代モデルの楽しさを2010年代になっても存続すべく「守るために変えていく」をコンセプトに開発された。
そのためエンジンは基本設計こそ既存のマツダのガソリンエンジンと共通ながら専用チューンとなるものを搭載し、クルマの土台となるFRのプラットフォームは軽量化のためもあり新設計、6速MTも新設計というスポーツカーらしい贅沢なモデルである。
日本仕様のNDロードスターは大きく1.5リッターエンジンを搭載するソフトトップと、2リッターエンジンを搭載する電動タルガトップとなるRFに分かれ、前者は昔ながらのロードスターらしさ、後者はより幅広い層向けという魅力やキャラクターを持つ。
今回取材に使ったソフトトップのNR-Aは、ナンバー付ロードスターによるワンメイクレースのベース車というマニアックな存在だ。
そのため装備内容はベーシックグレードなSグレードに準じており、エアコンなどの基本的な快適装備は装着されるものの、地図ソフトのSDカードを入れればカーナビとしても使えるマツダコネクトがないなど、シンプルではある。
その代わりレースを含めたサーキットでの使用で有利なよう、車高調整機能付きのビルシュタインダンパー、大径化された前後のブレーキローター、大容量ラジエーターといった装備が付く。
それでいて価格はSグレードの260万1500円に対し約15万円高の275万5500円と、加わる内容とそう使うかはともかくとして「公式なレースに出れる」という資格を得られるというのを考えると、それだけで魅力ある存在だ。
なお、今回取材に使ったNR-Aはマツダの広報車両ながら、ロールバーやフルバケットシート&4点式シートベルト、ブレーキパッドといったパーティーレース出場に必要な装備(おおよそ50万円分)がほぼ装着されているというさらにマニアックな仕様である。
そのため、クルマの性格もありモデル自体は2015年登場の初期モデルのままで、走行距離も3万9000km台とそれなりに伸びていた。
■ロードスターNR-Aって乗るとどう?
中でもワンメイクレース仕様として設定されたNR-Aグレードはシンプル・イズ・ベストを体現している
広報車両ながら最新モデルではない初期モデルかつ使い込んだロードスターNR-Aだったが、やはり筆者が新車時に感じた「ベストなNDロードスターはこれ」という結論は変わらなかった。ロードスターNR-Aの魅力を部分ごとに挙げていくと
●ハンドリング&乗り心地
あまりそういう意見はなかったようだが、筆者はソフトトップのNDロードスターの初期モデルのハンドリングと乗り心地に強い不満を持っていた。
具体的にはベーシックなSグレードは柔らかすぎというか動きが大きすぎなのに加えその割に乗り心地が快適な訳ではない。
標準的なビルシュタインダンパーが付くRSグレードは硬すぎ、量販グレードのスペシャルパッケージは悪い意味でSグレートとRSグレードの中間、それぞれステアリングの中立付近の落ち着きがなく過剰に気を使わされる、といった具合だった。
NR-Aはそういった不満が車高調整機能付きビルシュタインダンパーを大きな要素に見事に改善されており、とにかくハンドル操作に対して忠実にクルマが動いてくれる。
それでいて乗り心地も公道だと硬めには感じるものの不快感は皆無で、例えるならちょっと前のポルシェボクスターのような印象である。なおNR-A以外のロードスターも年々改良され前述した不満は解消されているが、それでも「乗って一番楽しいNDロードスターはNR-A」という筆者の結論は変わらなかった。
●動力性能関係
1.5リッターのNAエンジンを搭載するNDロードスターはそれほど速い車ではないが、エンジンはスタートから扱いやすく、レッドゾーンまで淀みなくよく回る。
さらに6速MTもショートストロークかつどのギアもスコスコと入り、絶対的な動力性能がそれほどではないゆえに公道での常識的な範囲でもアクセルを深く踏めることも含め運転に没頭できる。
1.5リッターNAエンジンはパワフルとはいえないが、だからこそ思い通りに車を操り、速く走ることができた時の喜びはひとしおだ
この点はNR-AがNDロードスターに加わった時から筆者は前期型のトヨタ86に乗っており、「公道での楽しさはNR-Aの勝ち」(86にもパワーがある分クローズドコースならドリフト走行に持ち込みやすいなど、ロードスターとは別の楽しさがある)と感じていたが、それは今乗ってもまったく変わらなかった。
それだけにクルマ自体も改良されている最新のNR-Aが「さらに楽しいクルマに違いない」というのは容易に想像できる。
なお、燃費は初期モデルのNR-Aにはなぜか燃費計が付いておらず(何年か前のNR-Aからは加わっている)、満タン法になるが高速道路、ワインディングロード、渋滞のある市街地も含め300kmほど走って16km/L台と、楽しんだ区間があったのも考えれば望外レベルだった。
●使い勝手
NDロードスター自体はラゲッジスペースにコンパクトオープン2シーターと考えればまずまずの荷物が入るのに加え、キャビンにもグローブボックスがない以外は収納も多いので、2人までであれば大きな問題はないだろう。
NR-Aはマツダコネクトが付かないのでカーナビがないが、この点もスマートフォンやタブレットを使えばカバーできる。
取材に使ったパーティーレース仕様のNR-Aという観点では、シートがフルバケットになっていることによりポジションが低くなっているので雰囲気に加え、ペダルの操作性も大幅に良くなっている。
ロードスターはどうせ仮眠のためのリクライニングはできないだけに、フルバケットシートへの交換はロードスター全体に勧めたいカスタマイズだ。
ロールバーに関してはサイドバーの装着により、特に狭いところでの乗降性が劣悪になっているが、これはパーティーレース仕様にするならやむを得ないところだ。
■ロードスターはなぜ長年存続できるのか?
初代の登場は1989年。実に30年以上にわたって愛され続けている
最終的な結論は「一定数売れているから」となるのだが、一定数売れている理由などを考えてみると
●コンセプトの分かりやすさ、不変で普遍的な楽しさがある
スポーツカーのような趣味性の高いクルマは法規に代表されるその時代に求められる要素さえクリアしていれば、コンセプトが必ずしも新しい必要もない。
ということを考えると、ロードスターが初代モデルから一貫している「庶民が買える価格(NR-Aを除くNDロードスターはちょっと高い気もするが)で2人までなら実用的にも使える、乗って楽しいコンパクトオープン2シーター」というコンセプトが、ライバル車がないのもあり一定数の人に受け入れられるのもよく分かる。
●いろんな楽しみ方ができる
ロードスターはレースを含めた「走る」というオーソドックスな楽しみ方にはじまり(特に初代と2代目ならタイヤも小さく、クルマもシンプルなので特に安上がりだ)、手を加える、オーナー同士の人付き合いを楽しむ、オープンカーということもあり服装にも気を使うなど、いろいろな楽しみ方ができる点も大きな魅力だ。
●存続するための努力も続けられている
当然ながら自動車メーカーは営利企業だけに赤字になるようなモデルを続けることはできず、ロードスターも特に2005年登場の3代目モデル以降は初代と2代目モデルほどは売れなくなっている。
ロードスターはその状況下で生産台数や収益の確保のため、3代目モデルではRX-8の共用化、NDでは終了してしまったがフィアット&アバルト124スパイダーとの協業に加え、歴代特別仕様をチョコチョコと設定していることもロードスター拡販の後押しとなっている。
ということをマツダは歯を食いしばりながら行いロードスターを存続しているから、ロードスターはスバルのステーションワゴン、ランドクルーザーやジムニーといった本格クロカンSUVのようにロードスターというブランドになっているという、書くのは簡単だけどやるのはとてつもなく大変なことをしているという話である。
■まとめ
ユーザーの愛情とマツダの企業努力でロードスターは存続している。これからもマツダには頑張ってほしいところだ
2050年のカーボンニュートラルに向けた電動化やCAFE(企業別平均燃費基準)など、2025年あたりの登場と思われる次期ロードスター(NE型?)の開発は非常に難しいと思われるが、何とかロードスターの歴史が途切れないようマツダには頑張ってほしいところだ。
それだけに短期間ながら2代目ロードスターオーナーだった時期があり、現在トヨタ86に乗っている筆者は次期86&BRZも気にはなっているが、登場時から頭から離れないNDロードスターNR-Aを何らかの形で一度自分のものにすることを毎日のように考えている日々となっている。
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