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素晴らしいの一言 アストン マーティン・ヴァンテージ・マニュアルに試乗

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素晴らしいの一言 アストン マーティン・ヴァンテージ・マニュアルに試乗

AMG製4.0L V8ツインターボに初のMT

text:Simon Davis(サイモン・デイビス)

【画像】アストン マーティン・ヴァンテージ 全81枚

translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)


新しいアストン マーティン・ヴァンテージが発表されたのは2017年。トランスミッション・トンネルの前方に空間があまり残されていなかったことが、取材に来ていた記者の関心を集めた。

「マニュアルのシフトノブはどこに取り付けるのでしょうか?」 質問が飛ぶ中、経営トップのアンディ・パーマーの答えは「はい」でも「いいえ」でもない、とても微妙なものだった。

発言の行間から汲み取るに、アストン マーティンはヴァンテージへ当初MTを採用する計画はなく、どこかの時点で対応することになったのではないだろうか。パーマーの回答に対して、アストン マーティンの広報チームは特に慌てる様子もなかった。

それから2年後、MT版のヴァンテージがやってきた。まずはヴァンテージの概要と、これまでのATモデルとの違いを確認してみよう。

もちろんトランスミッションはZF社製の8速ATから換装されている。搭載されるグラジアーノ社製の7速マニュアルは、以前のヴァンテージV12 Sに採用されていたものと同じ。

メルセデスAMG製の4.0L V8ツインターボエンジンにMTが組み合わされるのは初めて。ATからMTへ載せ替えることで、最大トルクが犠牲になっている。

トランスミッションを保護するために、ATで69.6kg-mある最大トルクは、63.6kg-mに抑えられた。1速と2速ではさらに制限が掛かるが、トラックモードを選択すれば63.6kg-mを引き出せるという。最高出力は510psで変わらない。

機械的変更で70kgの軽量化

ATモデルに搭載されるクラッチベースのトルクベクタリング機能付きアクティブEデフは、コンベンショナルな機械式リミテッド・スリップデフに変更。これらの機械的変化で車重は70kgもATモデルより軽くなっている。

前後の重量配分も変化。われわれが昨年テストしたATモデルの場合、49:51でややリアの方が重かったが、MTではフロントに掛かる重さの方が増えているという。

サスペンションも最適化されている。リアは、スプリングレートがやや下げられる一方で、アンチロールバーは若干強化。ダンパーもフロントとリアともに、手が加えられた。

電動パワーステアリングのソフトも書き換えられ、ヒール&トウでの変速が可能なように、ブレーキブースターも調整を受けている。そこまで積極的に操作したくない場合でも、シフトダウン時にエンジンの回転数を合わせてくれるレブマッチング機能が付く。

アストン マーティンのチーフエンジニア、マット・ベッカーは、サスペンションのチューニングによって、ドライバーがより遊べるヴァンテージになったと話している。実際に全力で遊ぶには、サーキットへ行く必要はあるけれど。

今回はドイツ郊外の狭い一般道での試乗となった。だが、コンパクトなアストン マーティンは、トラクション・コントロールを効かせた状態でも、間違いなくエネルギッシュなクルマだった。

引き締められたサスペンション

アクセルペダルを少し強めに踏むだけで、リアは簡単にラインから外れスライドし始める。その挙動は穏やかで、漸進的。落ち着きがあり、不安ではなく興奮を誘う。

ステアリングは操舵時の重さもレシオの設定も、しっかり詰められている。ロックトゥロックは2.3回転で、過敏すぎず神経質過ぎず、レスポンスも程よく素早い。カウンターを当てた時の抵抗感も好印象だ。

恐らくポルシェ911の方が、情報量や不安感のなさでは上をいく。操縦性の精度や全体的なバランスでも優れているとはいえ、ヴァンテージも充分に引けを取らない。

乗り心地はやや引き締められた。舗装が荒れていたりツギハギだらけの区間では、落ち着かない乗り心地になり、路面の影響をしっかりと受ける。それでも、滑らかな高速道路などでは、運転が不快にならないだけの柔軟性はしっかり確保されている。

そのぶん、ヴァンテージのコーナリングはフラットでスムーズ。腕を試されるような曲がりくねった道を、クルマと一体になって流れるようにドライブできる。英国に持ち帰ってしっかり確かめたいところだ。

そして新たに獲得したマニュアル・トランスミッションは素晴らしいの一言。1速がHパターンの外に位置するドッグレッグ・レイアウトの操作には少しの習熟も必要だが、それだけの価値はある。

V8エンジンをダイレクトに味わえる

AMG製のV8エンジンとの組み合わせによって、緻密で有機的なメカニズムをダイレクトに味わえるだけでなく、珠玉のエンジンの実力を引き出すことができる。放たれるサウンドやパワー感との一体感とも、とてもよくマッチしている。

手のひらにしっくり馴染むシフトノブを掴み、一切の引っ掛かりもなく上下左右に動かす。ドライバーの意志のままに、強力なパワーを決定的に操れる。

外れた場所にある1速から2速へシフトアップする時は、ニュートラルに戻りたがる癖がある。だが低速トルクのおかげで、何の不都合もなく2速発進を許容してくれる。他のMTよりも、操作する達成感は大きい。

ベッカーも「ドッグレッグ・レイアウトには慣れが必要ですが、それを自在に操るというプロセス自体が、満足感を付加していると思います」 と話していた。

エンジンもファンタスティック。ATほど速く走れないとしても、0-100km/h加速は4.0秒。まだ充分に速い。MTなら一般道でエンジンの力を存分に味わえないという、煮え切らない気持ちも湧きにくい。

運転免許にレッドカードが出ることなく、低いギアを使ってエンジンをしっかり楽しむことができる。怒り狂ったようなバリトン・ノイズも気持ちを高ぶらせてくれる。

今のところ、MTで手に入るスーパースポーツは、限定モデルのヴァンテージAMRだけ。生産台数は200台のみで、価格は14万9995ポンド(2099万円)から。2020年4月になれば、ヴァンテージのマニュアルが発売となるが、AMRと同じスペックではない。

ヴァンテージに求められる真の姿

AMR仕様の場合、専用のボディトリム・パーツと、感触の良いカーボン・ブレーキが付いてくる。だが今回試乗したクルマには、ややこしいが、この2つが付いていた。ベースモデルの価格はまだ公表されていない。ATが12万900ポンド(1692万円)位だから、その前後に収まることを期待したい。

ハイパワーなエンジンをMTで走らせるには、コストも必要になる。アストン マーティンはMTを選択するドライバーはごく一部だと考えており、他のモデルへの搭載は考えていないという。価格にプレミアが上乗せされる可能性もあるが、3万ポンド(420万円)も上がることはないだろう。

価格は置いておいて、筆者としてはヴァンテージのマニュアルは垂涎の1台だ。ATのヴァンテージも素晴らしいクルマだが、マニュアルの直接に操作する充足感が、ヴァンテージの喜びの次元を拡張させた。

アストン マーティン・ヴァンテージに求められる、真の姿だといっていいだろう。

アストン マーティン・ヴァンテージ・マニュアルのスペック

価格:14万9995ポンド(2099万円・AMR)
全長:4465mm
全幅:1942mm
全高:1273mm
最高速度:313km/h
0-100km/h加速:4.0秒
燃費:-
CO2排出量:-
乾燥重量:1620kg(予想)
パワートレイン:V型8気筒3982ccツイン・ターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:510ps/6000rpm
最大トルク:63.6kg-m/2000-5000rpm
ギアボックス:7速マニュアル

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