オーリスの後継モデルとして2018年6月に発売されたトヨタの新たなCセグメント5ドアハッチバック、カローラスポーツ。同車には発売2ヵ月後、シフトチェンジ時の回転合わせを自動で行う「iMT」を採り入れた新開発の6速MTを搭載したモデルが、1.2Lガソリンターボ車に追加されている。その最上級グレード「G“Z”」に、一般道および高速道路で試乗した。REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu)PHOTO●遠藤正賢/トヨタ自動車
そのデザインやパッケージング、シャシー性能に関しては、ハイブリッド車の「G“Z”」についてレポートした下記の記事に詳しいが、前衛的かつ機能的でクオリティの高い内外装、そしてほぼ非の打ち所がない乗り心地やハンドリングには改めて圧倒される。
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これらの点においては今回試乗したガソリンターボ車もまったく変わらず。もっと言えば、このクラスの永遠のベンチマーク、フォルクスワーゲン・ゴルフと比較しても遜色ないか、項目によってはむしろ上回ってさえいるだろう。
なお、今回のテスト車両は、上記記事のハイブリッド車と同じ、225/40R18 88WのダンロップSPスポーツMAXX050を装着。電子制御ダンパー「リニアソレノイドAVS」は選択されていないものの、赤×黒コンビの本革+ウルトラスエード表皮スポーツシートにシートヒーター、電動ランバーサポート、ナビ、RCTAやBSMなどの予防安全装備など、77万213円分のオプションを追加した、総計315万7013円の仕様となっていた。
となると必然的に、新開発6速MTの感触と、それに組み合わされる8NR-FTS型1.2L直4直噴ターボエンジンとの相性に、注目すべきポイントは絞られる。
トルク容量280Nmの新開発6速MTはケースやハブの薄肉化により、従来型より重量を7kg軽い40kgに軽量化。またリバース用シャフトを追加するなど全長短縮も図っており、同じく24mm短い372mmとした。
同時に、シフトアップ・ダウン時ともエンジン回転を自動で合わせる「iMT」を採用。ドライブモードセレクトで「SPORT」を選択すると、このiMTが自動的に起動する。なお、クラッチ操作に応じて発進時にエンジン出力を高める発進アシスト機能は、全ドライブモードで作動するようになっている。
また8NR-FTSは、カローラスポーツの前身にあたる二代目オーリスの後期型(2015年4月~)でデビュー。その後C-HRにも設定されているダウンサイジングターボユニットだ。
水冷シリンダーヘッド一体型エキゾーストマニホールドとシングルスクロールターボチャージャーの採用に加え、連続可変バルブタイミング機構「VVT-iW」でアトキンソンサイクル化することで、最大熱効率36%を達成している。スペックはCVT車用と変わらず、6速MTと組み合わされるのはこれが国内初となる。
さて実際のフィーリングだが、まず6速MTは、見事なまでに従来のトヨタ製FF車用MTと変わらない。シフト、クラッチともストロークは長く操作力も軽いのだが、動きはスムーズで節度感もあり、誰にでも操作しやすいものとなっている。
ただしアクセルペダルとブレーキペダルの間隔が離れており、お世辞にもヒール&トーがしやすいレイアウトとは言い難い。これならば「SPORT」モード以外の時も「iMT」が使えるようにしてほしいものだ。…根本的にはペダルレイアウトの見直しがマストなのだが。
だが最大の問題は、エンジンである。8NR-FTSは、CVTと組み合わされた2代目オーリスとC-HR、どちらに試乗した時も、抱いた印象は「とにかくダルい」、この一言に尽きた。だが本当の素性は、こんな一言では済まされないものだったことを、当たり前だが自動的に変速しない6速MTとの組み合わせで、今回初めて思い知らされた。
「とにかくダルい」という印象は、トルク伝達効率の高いMTをもってしても、残念ながら根本的には変わらないのだが、エンジン回転が2000rpm以下の領域では、例えギヤが1速に入っていてもその傾向が顕著になる。
これが最大トルク185Nmの発生が始まる1500rpmを下回るとより一層悪化して、アクセルペダルを踏み込んでも、ドライブモードを問わずほぼ無反応。だが2000rpm付近で急激にトルクが立ち上がり…といってもそれでようやく過不足ないレベルで、ここからある程度意図した通りの加速が得られるようになるのだ。
だからクラッチを労ろうと、最低限のアクセルオンでクラッチをミートし発進しようとすると、あまりの出足の悪さに辟易させられることになる。正直に白状すれば、前述の発進アシスト機能の存在を、筆者は試乗後にカタログを熟読して初めて知った。
また、ドライブモードは「ECO」「NORMAL」「SPORT」の3段階あるのだが、「ECO」モード時のアクセルレスポンスが悪いことはトヨタ車の常としても、「NORMAL」でもその傾向がほとんど変わらないのは初めてのケースと言えよう。そしてトヨタ車に限らずレスポンスが過敏になりがちな「SPORT」モードでようやく普通のクルマの「NORMAL」、過不足ないレスポンスが、2000rpm以上の回転域で得られるようになる。
ただし、スムーズな加速が得られるのは、最大トルク185Nmが発生する4000rpmまで。それ以上高回転まで引っ張っても、トルクが急激に落ち込むためパワー、つまり速度も上昇せず、吹け上がりもみるみるうちに鈍化する。レブリミットの6200rpmまで無理して引っ張っても、ノイジーではないものの官能的なサウンドは味わえないので、NVHや燃費、耐久性の観点からも、早めにシフトアップした方が賢明だ。
……と言いたいところだが、6速MTのギヤ比が全体的に高くワイドなため、あまり早めにシフトアップするとトルクバンドを外しやすく、クラッチをミートした瞬間に加速がもたつきやすいのもこれまたいただけない。そこでシフトダウンしようとブリッピングしてもほとんど回転は上昇しないため、「iMT」が作動する「SPORT」以外では回転が合っていない状態で無理矢理ギヤを叩き込み、クラッチをミートせざるを得なくなる。
つまり、「SPORT」モードでエンジン回転が2000~4000rpmの間に収まっている時以外はまるでドライバーの意のままにならない、「煮ても焼いても食えない」パワートレイン、そういうことだ。
これでは一体、何のためのMTなのか。スポーティカーとしてのMTではなく、カローラスポーツが主戦場とする欧州市場向けの、あくまで低コストな実用車としてのMTということを考慮してもなお、余りにもドライバビリティを欠いている。
もっと言えば、ホンダ・シビックと同様に、パーキングブレーキがCVT車と同じく電動式なのも疑問が残る。サイドターンが不可能になるのは言うに及ばず、サイドレバー式に対して坂道発進時のコントロール性が少なからず悪化するのも、好ましくないと言わざるを得ない。
だが、MT車にもかかわらず予防安全パッケージ「トヨタセーフティセンス」が標準装備され、ステアリング制御機能付きLDWや、30km/h以上で作動するACCが実装されていることは、大いに高く評価したい。MT車であってもこれらが実装されることで、事故や疲労を防止・軽減できるからだ。
国内新車販売に占めるAT車の比率が9割を遥かに上回る状況において、敢えてMT車、それも新開発のものを設定したトヨタの英断は、本当に素晴らしいことだと思う。だが肝心の走りがこれでは、AT車以上に「クルマとクルマの運転はつまらなく面倒なもの」という印象をドライバーに植え付けかねない。この新しい6速MTに組み合わされるエンジンだけでも、早急かつ抜本的に変更・改善されることを切に願う。
【Specifications】
<トヨタ・カローラスポーツG“Z”ターボガソリン車(FF・6速MT)>
全長×全幅×全高:4375×1790×1460mm ホイールベース:2640mm 車両重量:1330kg エンジン形式:直列4気筒DOHC16バルブ直噴ターボ 排気量:1196cc ボア×ストローク:71.5×74.5mm 圧縮比:10.0 最高出力:85kW(116ps)/5200-5600rpm 最大トルク:185Nm(18.9kgm)/1500-4000rpm WLTC複合モード燃費:15.8km/L 車両価格:238万6800円
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