マニアック評価vol.674
「駆けぬける歓び」を深掘りvol.1
BMWZ1のデビューが1989年だというから、BMWが爽快なロードスターの歴史を紡ぎ始めて随分と長い月日が経過した。
ZFに見る次世代運転支援技術 レベル2プラスとはなんだ【上海モーターショー 2019】
新型Z4へ膨らむ期待
30万台という記録的ヒット作品となったZ3は、僕が大人になりかけていた頃の作品だったから、記憶に深く刻まれている。続くZ8はジェームス・ボンドが激しいカーチェイスを演じた。
そしてZ4。先代は6年間で11万台を販売。BMWにとってオープントトップ前提のロードスターは、ラインアップの中になくてはならない存在なのである。それゆえに、約2年の沈黙を経て誕生した新型Z4への期待は大きい。
時にトヨタは、Z4をベースにスープラをデビューさせることが決定している。すでにそのプロトタイプの試乗を済ませていることもあり、Z4をドライブするというその日は僕にとって特別な日になった。
「スープラのようにスパルタンなのかなぁ」「鈍重に成り下がっていないでくれよ」
こんなにワクワクと心踊らせて試乗会場に向かったのも久しぶりのことである。その日の箱根もよく晴れていた。
すでに同じブラットフォームとエンジンを搭載するスープラで予備知識があったとはいえ、試乗会場で整然と並び僕を出迎えてくれたZ4は、予想より伸びやかな印象を受けた。
というのも道理で、先代との比較では、全幅が75mm拡大、全高が15mm高くなっていながらも、全長は85mm伸びているのである。しかもスープラのような筋肉隆々なマッチョを誇張したデザインではなく、前後にスムースなラインが散りばめられていることもあり、スリークな印象を抱いた。これこそZ4らしさであろう。
紳士でありつつ、牙も持つ
実際にステアリングを握り、ドライブしなければ、都会を穏やかにクルーズするためのアーパンロードスターの雰囲気が漂う。牙は気配すら覗かせていない。事前に知らされていた。ニュルブルクリンクで7分55秒を記録したことや、そもそもスパルタンなスープラとDNAを共にする二卵性双生児であることなど微塵もうかがわせぬジェントルな空気感に包まれているのだ。
実際に走らせても、基本的には紳士的な立ち居振る舞いである。試乗したM40iの、フロントに搭載する直列6気筒3.0Lツインターボエンジンは最大出力340ps/5000rpm、最大トルク500Nm/1600rpm~4500rpmを絞り出す。
エンジンに不満があろうはずがない。BMW伝家の宝刀シルキー6は、滑らかにパワーを嵩上げしていくだけでなく、ターボチャージャーのデメリットに感じさせないほどレスポンスが整っている。低回転トルクの厚みでターボの存在が確認できるだけなのだ。
8速ATとの連携も見事である。回転計の針はメーター上でバシバシと踊り、それぞれ所定の位置でシュタッと止まる。まるで指揮者が振るタクトがスパッと決まるようである。
ハンドリングも同様に、激しい音楽に踊らされるようになる。穏やかな気持ちでクルーズしている限り、Z4は紳士的に穏やかな性格に止まってくれているのに、ひとたび鞭を入れシルキー6を高回転域にクギ付けにすれば、コーナーのいなしや挙動の収束は攻撃的に転じるのだ。
新型Z4は、フロントトレッドが100mmも延長されている。リヤトレッドは+75mmだ。それでいて、ホイールベースは−25mm。ワイドスタンスになっていながら前後に短い。それゆえ、ダイナミックな旋回特性になった。ステアリング応答性は、あるいはどこまでも無限にアンダーステアが訪れないのではないかと思えるほどシャープなのだ。
そそられるオープンスポーツカーへの想い
M40iには、場面場面で減衰力をコントロールするアダプティブMスポーツサスペンションが組み込まれている。これが乗り心地とロールをバランスさせている。路面の突き上げをいなしながらもロール感がないのはこれが効いているからだ。バリアブルスポーツステアリングも同様に、乗り心地を悪化させずに、ハンドリングを豊かにしている。Mスポーツディファレンシャルは、リヤタイヤの駆動に左右差を生むことで、切れ味と安定性を両立してくれている。
というように、プラットフォームで潜在的にスポーツ度を高めていながらも、数々の電子デバイスがそれを加勢するのである。紳士的でありながら、時には驚くほどの攻撃的な表情をみせるのはそんなカラクリがあったからなのである。
新型Z4を至近距離で見ていたら、また僕のオープンカー魂が踊らされているように気になった。(文:木下隆之/写真:小河原認)
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