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ゴードン・マーレー、「天才デザイナー」と呼ばれるまでの軌跡 新本社を訪問

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ゴードン・マーレー、「天才デザイナー」と呼ばれるまでの軌跡 新本社を訪問

もくじ

ー 「天才デザイナー」、ゴードン・マーレー
ー ミンバグ 意外な誕生ストーリー
ー 実用優先 それがかえって見た目をよくする
ー ミンバグ 実際にドライブしてみると?
ー ゴードン・マーレーの花形「作品」 5選

ただのキットカー会社ではない英ウエストフィールド社に学ぶ 「お金の稼ぎ方」とは

「天才デザイナー」、ゴードン・マーレー

午前10時、サリー州の道路を行きかうクルマはお決まりのグレーか白のフォード、ヴォグゾール、BMWなどなど。昨今の英国のクルマはみな似たり寄ったりだ。

例外は、歯をむき出して笑うちょっとおかしなふたりの男が乗った小さい箱型の黄色いクルマ。英国の道では40年以上も目にしなかった超貴重な作品だ。

助手席に座っている背の高い男がF1の設計者の巨匠、ゴードン・マーレーだ。数多くのワールド・チャンピオンシップと50余りのグランプリ優勝のあと、1990年代に彼は公道を走るスーパーカーのデザインへと進路を変え、次いで価格が安く軽量だがパフォーマンスは最高のクルマ作りに向かう。

ステアリングを握っているのはわたしだ。われわれはギルドフォード郊外のダンスフォールド離着陸場の周辺にできたマーレーの新しい本社に向かっている。

小さくて驚くべきこのクルマは今朝の主役。ミンバグをボルトとナットで再現したクルマだ。ミンバグとはマーレーが英国で最初に作ったクルマである。

マーレーは今までの仕事の記録と図面を几帳面に保存しており、誇張なしに全自動車界における自分の場所をしっかりと自覚している。

半世紀にわたりカーデザインを続けてきたマーレーは、新たに発表した少量生産の会社「ゴードン・マーレー・オートモーティブ」の本社をダンスフォールドに新設した。そこでは、彼が50年間に生みだしたクルマのほとんどが展示されるそうだ。

マーレーによると設計したのは70台、そのうち58台が制作され、40台が展示される。多額の費用がかかること、そのほとんどが希少品であることを考えると驚くべき数だ。

マーレーは慎重な言い回しでこれは単なる懐古趣味ではないと指摘する。しいて言うなら彼の最近のデザインは関連性と影響力を増しているのだ。

なぜならそのデザインは、彼の新しいTVRグリフィスや最近のアフリカ向けトラック「OX」の土台になっている高度に効率的で、単純に洗練された「iストリーム」のコンセプトに則っているから。

それでも今日の主人公ミンバグは必要に迫られて製作されたというのだから、好奇心をくすぐられずにはいられない。

ミンバグ 意外な誕生ストーリー

すでに南アフリカでT1を製作しレースにも出場していたマーレーは1960年代の終わりに英国にきたが、当時はほとんど金を持っていなかった。

まともなクルマが買えないマーレーは、同じ境遇の友達とともに自分で設計、製作することにした。4台を製作し(2台は友人と自分用、残り2台は販売用)、2台の販売で得た利益で自分たちのクルマの費用を賄う計画だった。そしてそれが上手くいった。

作業所はヒースロー空港の敷地内にある古い掘立小屋。「コンセントがひとつに電球が1個でしたね」とマーレーは回想する。

「それでも、毎日が楽しく、飛行機の騒音にもすぐ慣れました。最初のボーイング747ジャンボの着陸を見に表に飛びだしたのを覚えています。心躍る体験でした」

ミンバグはミニ・ベースで、したがって横置きのFFレイアウトだ。献体となったクルマはミニのバン。これを選んだ理由は、33ps/838ccのAシリーズエンジンを積んだランニング・ギアが実質本位だったこと、テールライトの形が好ましかったこと、それに1970年代にはバンが一般的だったことだという。

GMDのデザイン本社とプロトタイプ・センターが残っているシャルフォードに話を戻すと、われわれはボードルームで1時間半の間、模範的に整った48年前の設計図面を鑑賞していた。1970年6月のミンバグの誕生につながる設計図だ。

図面には手書きで、フラット・パネルを5枚の8フィート×4フィート(2.4×1.2m)の標準鉄板から切りだす方法が書いてある(マーレーは金がなかったので、複雑な形状はハナから諦めなければならなかった)。

この時点でわたしは、これは文字通り最初のマーレーiストリームカーだと思い至った。

スクエア・セクションのスチール・チューブの溶接フレームには(高コストで場所も食うスペースフレームはわざと使っていない)、接着されたフラットなスチール・パネルを取り付け、強度を生みだすとともに最大限のインテリア・スペースを稼ぎだす。

軽量化にも大きく貢献している。

実用優先 それがかえって見た目をよくする

今日、iストリームカーがスチール・チューブの骨組みの中にコンポジット・パネルを使って強度を生みだしているのと全く同じだ。

1970年、重量僅か500kg、ふつうのミニより少なくとも100kgは軽く、25cmも低くて広くて驚くほどスポーティな小型車が誕生した。

軽量化のおかげで、ベース・エンジンでもどんなミニよりも速く、標準のプログレッシブ・レートのラバー・サスペンションでも、スポーティで優れたハンドリングを実現した。

シートをより低く後寄りにセッティングしたことで、ミニのフロント・ヘビーな重量配分が打ち消され、結果、アンダーステアは軽くロールは少なくなった。さらに、標準のドラム・ブレーキでもブレーキングは格段に向上した。

すべてのパネルと前後のスクリーンがフラットであるため、20年前のモビリティ作品であるにも拘わらず、ミンバグの外観は驚くほどファンキーである。

四角いボディとコルビューのバケット・シートによる低くて優れたドライビング・ポジションとはちょっとふしぎだ。

リアには、開閉可能な見取り窓のついた金属製のキャノピーと取り外し可能なキャンバス・ルーフがついている。ボンネットはフラットパネルできちんと成形されており、丸いヘッドライトが2灯装着されている。とても大きなライトなので、その時代らしいシンプルで小生意気な感じになっている。

ミンバグは断然、スタイルより機能優先のクルマであるが、背が低くて全体バランスの良さは見た目にもあらわれる。

「ミンバグは驚くほど実用的です」とマーレーは言う。「われわれは3年間、毎日ミンバグを使いました。こいつでスコットランドにも遊びに行きましたよ」

しかし本当に面白いのは、このクルマが今日でもよく走ることだ。ここにあるのは、マーレーが持っていた設計図をもとにナットとボルトで製作したレプリカだ。

ただし昔と異なり、エンジンはトルキーな100psの1380cc、変速機はミニの「スパゲッティ・レバー」に代わってリモート・ギアチェンジ、フロント・ブレーキはディスクでタイヤも現代のものだ。そう、スポーツ・エグゾーストも。

運転するとどうだろう?

ミンバグ 実際にドライブしてみると?

運転するとクルマが実際より大きく感じられる。

ルーミーなコックピット、低くて広いドライビング・ポジション、サポートが素晴らしいシート、それに恐ろしいほどの視界の良さのせいだろう。

ふつうの小型車のコックピットに見られる妥協はほとんどない。これを作ったのは身長196cmの大男であることを忘れないでほしい。

パワーは乗車した状態でも1トン当たり152psである。それでも全体としては小さい。車線は広く感じられるが、クルマが狭いのだ。そのため、カーブごとに昔スタイルのライン取りをするようになる。それに2000rpmからでも最大トルクが得られる。

何より素晴らしいのは、このクルマが懐かしいリア・ドライブのバランスを持っていることだ。重量配分がミニよりずっといいから乗り心地も硬くない。バンプもきちんと吸収するし、コーナーでのロールもわかりやすい。

しかし、ターンインは適切でシャープ。グリップも印象的だ。なかなかアンダーステアにはならないし、ミドルコーナーでスロットルオフにしてもミニ十八番の急なオーバーステアも起こらない。ハードなドライビングでも同様だ。

このミンバグのレプリカは珍しいだけの、巨匠デザイナーの数ある作品のひとつに過ぎないかもしれない。白状しよう、わたしもそう思っていた。

しかし朝のダンスフォールドで、この小さくて奇妙なクルマにたくさんの能力が隠されていること、40余年にわたりコンセプトを支えてきた理論が今でも立派に通用することがわかった。なるほどゴードン・マーレーのクルマに対する流儀はシンプルだ。

ゴードン・マーレーの花形「作品」 5選

ブラバムBT46B「ファンカー」(1978)

ブラバム・オーナーのバーニー・エクレストンからチーフ・デザイナーに指名された31歳のマーレーは、一方向の思考にとらわれないスタンスを認められ、この過激なF1カーを設計した。

アルファの水平対向12気筒エンジンを搭載し、リアにファンをマウントしている。名目上は冷却のためだが、もうひとつの目的はダウンフォースを大幅に増すことであり、これでロータスのグラウンド・エフェクトカーに対抗した。

1度レースに出場し、優勝して、すぐに引退した。

ライトカー・カンパニー・ロケット(1991)

極端に軽量で小さいロードカーを偏愛するマーレーは、レーシング・ドライバーのクリス・クラフトと共に設立した会社でシングル・シート・レーサーのようにクラシックなタンデム2座のスポーツカーを設計した。

バイクのように軽い「ロケット」は、ヤマハ製のバイク用1ℓエンジンを搭載し、167psの最高出力と230km/hの最高速度を誇る。

マクラーレンF1(1992)

すべてのスーパーカーを葬り去るスーパーカーと宣伝された軽量コンパクトのカーボンファイバー製3シーターは、改良されたBMW製6.1ℓV12エンジンを搭載し、390km/hの最高速度をたたき出す怪物だ。

可能な限り最高のマテリアル(例えば、エンジンベイは熱遮蔽のため金箔が貼り付けられている)を使ったF1は、新車価格で£630,000(9500万円)。

当時としては桁違いに高価だったが、今ではその何倍もの価値がある。

T25とT27(2010)

マーレーの小さなガソリン車T25(とその電動版T27)は、iストリーム・プロセスを採用して高い剛性、効率的な構造、優れたスペース効率を実現した。

柔軟性のない鉄板プレス作業は製造工程からほとんど排除されてしまった。T25は改良されたスマートのパワープラントを使い、3人が乗車可能。ラゲッジスペースも確保されている。

ヤマハ・スポーツ・ライド・コンセプト(2015)

エクステリアデザインは彼ではないようだが、このヤマハ・スポーツ・コンセプトの土台はiストリームの原則で設計されており、ヨーロッパでの製造も検討中だ。

約150psの1リッター・エンジンを搭載したこのクルマは、新しいマーレー・オートモーティブ・マニュファクチャリング・カンパニーで検討されているモデルの手がかりとなる。

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