やはり窓が多いとお値段も高い? VWマイクロバスの世界
昨今ではクラシックカー市場における定番人気商品となった感もある、フォルクスワーゲンの初代「タイプ2」、通称ワーゲンバス。なかでも「サンバ」のニックネームで呼ばれるマイクロバスは、国際マーケットにおける取り引き状況に対して、つねに業界の目が注がれています。今回AMWでは、2024年3月1日にRMサザビーズ北米本社がフロリダ州マイアミ近郊の町、コーラルゲーブルズにある歴史的なビルトモア・ホテルを会場として開催した「MIAMI 2024」オークションに、タイプ2のなかでも最も珍重される「23ウインドウ」が出品されたことに注目。そのモデル概要と、オークション結果についてお伝えします。
「ワーゲンバス」の価格は「窓の数」に比例する!? 約600万円で落札されたVW「タイプ2」が予想よりも安かった理由とは
初代タイプ2のなかでも、もっとも珍重される「23ウインドウ」とは?
現在では「T7」と呼ばれる第7世代へと進化し、仕向け地によっては「トランスポーター」の名で呼ばれてきたVWの商用バン/ワゴンは、1950年にデビューした「T1」こと初代「タイプ2」まで起源をさかのぼることができる。
西ドイツ復興を担う商工業からファミリーユースまで、さまざまな用途に対応する多種多様なモデルへと発展した初代タイプ2は、タイプ1(ビートル)用のプラットフォーム式シャシーを延長。「Lieferwagen(リーファーヴァーゲン:デリバリーバン)」または「Kastenwagen(カステンヴァーゲン:箱型バン)」と呼ばれるパネルバンのほか、取り外し可能な座席と簡素ながら内装トリムも与えられた乗用貨物兼用の「Kombi(コンビ:ワゴン)」、後部が荷台となる「Pritschenwagen(プリッチェンヴァーゲン:平床トラック)」などのボディを組み合わせた。
また、多人数乗用バージョンの「Kleinbus(クラインブス:マイクロバス)」は、のちに「サンバ」の愛称のもと、アメリカ合衆国をはじめとする海外マーケットでも高い人気を得るなど、タイプ2シリーズ全体で「Bulli(ブリー:ブルドッグの意)」の愛称で親しまれることになった。
そしてT1マイクロバスのなかでも、時期やグレードに応じて複数のバリエーションが生産されたものの、現在のエンスージアストが最も望ましいとするバージョンは、間違いなく「23ウインドウ」モデル。ガラス張りの「温室」を囲む窓ガラスの数からその名が付けられたものである。
「ウインドウの数が価格に比例する」ともいわれる初代タイプ2のマーケット市況にあって、最高峰の23ウインドウモデルが、最も支持者の多いことで知られるアメリカのマーケットにおいていかなる評価を受けるのか……? とても興味深いオークションとなったのだ。
オリジナルを可能な限り残したレストア
今回RMサザビーズ「MIAMI 2024」オークションに出品された1961年式23ウインドウ デラックス マイクロバスは、初期型として注目に値する1台。1961年は、小さく魅力的なテールライト/方向指示器が採用された最終のモデルイヤーだった。
前オーナーの証言によると、もともとはマサチューセッツ州ビヴァリーに本拠を構えるVW正規代理店「ネイサン・B.タッカー・フォルクスワーゲン」社を介して、一族が経営する配管器具メーカーの遺産を受け継ぐとともに、太平洋諸島の探検でも知られた冒険家、コーネリアス・V・クレーンに販売されたという。
クレーン氏とその家族は、ニューイングランド各地でこのマイクロバスを楽しんだとされるが、旅の足となっているとき以外は、ビヴァリー市ダンバース川河口にあるチョート島のクレーン家所有地に保管されていたとのことである。
しかし、コーネリアス・V・クレーンがこのクルマを楽しめた期間は短いものだった。1962年に、ファーストオーナーである彼は逝去してしまうのだ。それでも数年後、このT1マイクロバスは熱狂的なファンの手に渡ることになり、そののちも好意的な所有者たちのもとで大切に保管されてきたとのことである。
そして、今回のオークション出品者である現オーナーがこのクルマを手に入れる直前に、カリフォルニア州フラートンの名門レストアラー「WCCR(ウェストコースト・クラシック・レストレーション)」社によって2年間の歳月をかけたレストアが施され、ボディワークは「シーリングワックス・レッド」と「ライト・ベージュ・グレー」という、T1サンバとしてはとりわけ印象的な2トーンを可能な限り維持するように補修ペイントが施された。
このレストアは素晴らしいレベルで仕上げられ、美しい塗装とオリジナルそっくりのオーバースプレーが部分的に施され、下まわりには黒のアンダーコートと酸化レッドのプライマーが塗られた。
また、純正オリジナルのグラブハンドルとハードウェアは美しい艶を見せ、ダッシュボードにはオリジナルの「タッカー」ディーラーによるシフトパターン表示デカールさえ貼られたままというオリジナリティを誇っている。
これまでに施されたレストアの領収書も添付されたこのT1マイクロバスは、使い古された言葉を使うなら、まさにアイコニックなモデル。ひとつの時代を象徴し、たとえばサウスビーチをクルージングするときには、誰もが笑顔になってしまうクルマ。
RMサザビーズ北米本社が、そんな謳い文句とともに設定したエスティメート(推定落札価格)は、15万ドル~20万ドル。これは、2010年代中盤以降の23ウインドウとしては妥当なものだったはずながら、実際に競売が始まってみると予想外にビッド(入札)が進まず、最終的にはエスティメート下限を大きく割り込む11万2000ドル。つまり日本円に換算すると、約1700万円で落札されることになった。
このハンマープライスは、円安の続く現在の為替レートにおいて、われわれ日本人にはけっこうな高値にも映るだろう。でも数年前までの相場ならば、エスティメートくらいの価格が順当だったはずである。
ただ、この1カ月ほど前、2024年2月にパリで開催された「アールキュリアル」オークションにて、近い条件の「23ウインドウ」が9万1784ユーロ、約1500万円で落札されている事例も合わせて考えると、どうやらT1サンバの世界市場は沈静傾向にあるとみるべきなのかもしれない。
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みんなのコメント
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