クルマ好きなら一度は憧れたことがあるだろうスーパーカー。その黎明期から現代までをたどる連載企画。第19回は「マセラティ カムシン」だ。
マセラティ カムシン(1973-1982年)
スポーツカーはもちろんのこと、他のジャンルのクルマでも2シーター モデルの販売は難しいものだ。高級スポーツカー メーカーの老舗ともいえるマセラティですら、その例外ではなかった。
【くるま問答】トヨタ2000GTのサイドにある四角い部分には、いったい何が入っているのか?
1973年のパリ モーターショーで、2シーターのギブリの後継モデルとなる2+2の高級スポーツクーペ「カムシン」を発表する。その車名はマセラティ伝統の「風」シリーズのひとつで、エジプトの砂漠地帯に吹き荒れる熱く激しい季節風に由来する。
その前身は1972年のトリノ モーターショーでベルトーネのブースに展示されたように、カムシンのデザインはそれまでのジョルジェット・ジウジアーロではなく、ベルトーネに在籍していた鬼才マルチェロ・ガンディーニの手になるものだった。
ウエッジシェイプのスタイリングという点では共通だが、ギブリのような優雅なイメージではなく、エッジの効いたシャープなものに一新された。デザイン上の特徴としては、運転席側にオフセットしたボンネット上の横長アウトレット(したがって左右対称ではない)と、後方視界を拡大するガラス製のリアパネルをテールランプの間に採用したことだった。
駆動系はギブリから継承したコンベンショナルなFR方式を採用した。ホイールベースはギブリと同じ2550mmだったが、全長を190mm短縮して前後のオーバーハングを切り詰め、慣性低減を図って運動性能の向上を目指している。
フロントに搭載されたパワーユニットは、ギブリ SSと同じ5Lの90度V8 DOHCで、最高出力は320ps、最大トルクは49kgmを発生した。とくに大排気量エンジンならではの49kgmという大トルクが持ち味で、1700kgと当時のスポーツカーとしては重めな車体だが、0→100km/h加速は7.3秒、最高速度は275km/hというパフォーマンスを発揮した。
ただ、当時のマセラティはシトロエンの傘下にあり、同社が得意(特異?)とする高圧油圧システムを、ブレーキ/クラッチ/パワステ/リトラクタブル式ヘッドランプなどの作動に使用していた。それゆえ、このシステムの不具合が多発し、これがカムシンのネックになってしまった。さらに、第一次オイルショックの余波も受け、約430台で生産を終了した。
マセラティ カムシン 主要諸元
●全長×全幅×全高:4400×1800×1140mm
●ホイールベース:2550mm
●重量:1700kg
●エンジン種類:90度V8 DOHC
●排気量:4930cc
●最高出力:320ps/5500rpm
●最大トルク:49.0kgm/4000rpm
●燃料タンク容量:90L
●駆動方式:FR
●トランスミッション:5速MT
●タイヤサイズ:215/70VR15
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