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「初代の成功で、僕は会社を辞めるつもりだった」鈴木修会長が語ったジムニーの起源

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「初代の成功で、僕は会社を辞めるつもりだった」鈴木修会長が語ったジムニーの起源

1970年に誕生したジムニー。今年で50周年を迎える。そんなジムニーには、原型と呼べるクルマがある。それが、ホープスターON型だ。そのクルマについて鈴木 修会長は当時、「富士山の8合目まで登れる」と聞いた。そしてテスト風景を映像で見た鈴木会長は、「まるでセミが木の幹をよちよち登るように…」と称している。そして、「俺はアメリカで赤字を出して肩身が狭かったけど、ジムニーで倍ぐらい取り返した。これで会社には借りはない。それを機に僕は正直、会社を辞めようかと思った」…。そんな衝撃の事実が今明かされる。

※下記内容は、「新型ジムニー完全ファイル」(2018年発行 八重洲出版)に掲載したインタビュー記事を基にしています。記事内容の時系列も当時のまま掲載しております点、ご了承ください

ソウルレッドにマシーングレー!? 1本300円のマツダ宣材用ボールペン誕生秘話を追う【前編】

〈文と写真=三好秀昌〉

ーーーーーーーーーーーーーーーーー
ホープの小野定良、スズキの鈴木 修

鈴木 修会長のイメージというと、テレビニュースの記者会見などで、的外れな質問をした記者を諭しつつ怒っている怖い人、というイメージである。ところが今、目の前にいるご本人はややイメージが違う。まさか、とは思ったが、どうもスズキ広報が言っていたのは事実のようだ。

「会長はすごく人見知りですから、最初はあまり話をされないと思いますよ」

貫禄がある人と対峙して、その相手が黙してしゃべらない、インタビュアーとしてこんな恐ろしいことはない。流れが変わったのは、こちらがホープ自動車の故・小野定良氏の話をしたときだった。

三好:こちらにうかがう数日前に、小野さんの息子さん(当時、株式会社ホープ代表取締役、小野良文)とお会いしてきました。

(それまでソファに深く腰掛けていた会長が、ガバッと身を乗り出して)

会長:俺のことなんか言ってたか?

三好:葬儀のときにありがたいお手紙をいただいた、と。

会長:そうなんだよ。どうしても抜けられずに、葬儀に行けなかった。

三好:先代ともども、大変感謝しているとも、おっしゃっていました。

会長:感謝するのはこっちだよ。

三好:会長が小野さんから、のちにジムニーになるホープスターON型の図面を譲ってもらったんですよね。

会長:そう、俺がもらってきた。

三好:その辺のお話を、詳しくお聞かせください。

会長:昭和42年(1967年)に、俺はアメリカから帰ってきた。そして東京駐在になった。じつはアメリカで赤字を出しちゃって、会社からは「仕事しなくていいから東京でじっとしてろ」と。で、飲んで遊んでばっかりいた(笑)。そのころに、ホープ自動車の小野定良さんと出会った。この人はすごい人で、仕事から酒、遊びと、何から何までいろんなことを教わった(笑)。

三好:そのなかで、のちのジムニーとなるホープスターON型の話になるんですね?

会長:そう、あるとき小野さんが、「360ccの四輪駆動車で富士山の8合目まで登れる」という。そのときまだ俺は四輪駆動というものがなんだかわかってなかった。タイヤが4つ付いてるんだから、自動車は全部四輪駆動だと思ってた。そうじゃないというのはずいぶんあとになって知った(笑)。

三好:クルマで富士登山はユニークですね。

会長:おもしろい話だと思った。四輪駆動で8合目まで。でもそんなことできるのかなと。冬になって、11月ごろだったかな? そんな話は嘘だと思っていたら、本当に富士山にON型で登るという。

三好:ついに決行ですね。

会長:俺は寒いのはイヤだから、麓の温泉で酒を飲んでいるよ、と(笑)。

三好:じゃあ、実際には見ていない?

会長:うん。でもその様子を8ミリ(カメラ)で撮影していた。あとから映写で見ると、セミが木の幹をちょこちょこ上がっていくように、360ccのクルマが富士山をゆっくりゆっくり登っていた。それで初めて四輪駆動の意味を知った。そうか、4つのタイヤが回るとこんなに強いんだと。

三好:ただの4つのタイヤではなかったわけですね。

会長:当時、ホープ自動車はこのクルマを熊本県の阿蘇山とか群馬県の赤城山の麓のお医者さんに売ってたんだな。

三好:悪路の往診用ですね。

会長:あのころ小野さんは、ON型をうちのキャリイの倍以上で売っていた。

三好:4WDとはいえ倍ですか!

まわりには理解されなかったプロジェクト

会長:そして販売だけでなく、いろいろと苦労されていた。

三好:と、いいますと?

会長:ON型は他社さんからエンジンを買ってきて載っけて売っていた。なんでもフロントボンネットをもっと下げたいのだけれど、エアクリーナーが上にあったからそれができないんだという。エンジンのレイアウトを変えるには社内で大勢から承認のハンコをもらわなければならなかったそうだ。

三好:それは大変ですね。

会長:ホープ自動車も、待っていられるほど体力もなかったんだよな。

三好:時間も余裕もないわけですね。

会長:そんなのなら私んとこでやれば? こんなことじゃ小野さん、潰れちゃうよと声をかけた。それで当時の鈴木俊三社長に、おもしろいクルマがあるから設計図を買い取りたいと言ってオッケーしてもらった。

三好:そんな経緯があったんですね。

会長:ホープ自動車は当時、横浜に会社があったもんだから、そこを訪ねていって、「小野さん、これを僕んとこに売らねーか」と。特許は何もないというから、その一切を買い取ったわけだ。

三好:苦労はなかったんですか?

会長:設計者を呼んで、早速作る計画をしたんだが、うちの連中、「これは1年で150台ぐらいしか売れない」と言う。技術屋さんというのは、下の者が作ったのはけなすからね。これはいわゆるジープみたいなもので、ボディを見たら鈑金モノのアールがない。みんな角型。そしてドアの取り付けでもなんでも外からボルト。ミリタリールックというやつです。

三好:今のクルマ作りとはまったく違いますね。

会長:あとでわかったことは、鉄板を持ってきてポンポンとたたくとこうなる。アールプレスの型じゃできないわけだ。ジープはもともと戦争に使うから、加工を考えていなかった。プレスの型をつくったら、コストが高くなる。だから、ON型と同じくミリタリールックのままいけばいい。こういう作り方ならコストもかからない。1年に300台売れれば御の字、元は取れる。でもね、俺は1カ月に300台売れる!と思った。

三好:まわりはそう思わなかった?

会長:そりゃもう。でも、なんとか会社を言いくるめてとにかく作った。

三好:ON型から、いよいよジムニーになるんですね。

ジムニーという車名はどうやって生まれた?

会長:当時のデザイナーに、名前は何にしようか? ジープみたいな名前で考えろと言った。佐々木くんだったかな? 彼が考えてきたのは、ジープのミニなので、ジムニーはどうですか?と。それはいい!と決めた。

三好:これは売れそうだと思った一番の根拠は何だったんですか?

会長:それはね、小野さんがおもしろいものを見せてくれたからだ。小野さんは当時セダンタイプの乗用車に乗っていた。それを溝みたいなところに落っことすんだ。そして、「修さん、見なさい」と。

三好:デモンストレーションですね。

会長:その乗用車を、360ccの4WDがロープ1本でグーッと引っ張り出すんだよ。あのころは、雪国に行くと道端に1m、2m落ちているクルマがいっぱいあった。このクルマなら、引っ張り出せる。こんなに小さなクルマでもこれだけのけん引力があるというのは驚いた。だからウチで売ろうと思った。

三好:息子さんの話では、「会長がときどきエンジンを届けてくれてた」と先代から聞いたと言ってました。なんでもエンジンがなくて困ると言ったら、工場の片隅に転がってたから持ってきたよ、と(笑)。

会長:うんうん、そんなこともあったかな。

三好:ON型にもスズキのエンジンが入ってるですか?

会長:それはね、設計書の買取のときの条件で、それ相応の対価と、エンジンを20基ぐらい現物支給するという契約もあった。だからON型は、最初のころは他社さんのエンジン、最後のほうはスズキエンジン。現物支給(笑)。

三好:だいぶ、自由な時代ですね。クルマが同じなのに突然、エンジンのメーカーが変わっちゃう(笑)。

会長:そうだね。

三好:ON型を生み出した小野さんの人となりはいかがでしたか? ほかに作ったクルマのメカニズム(燃焼室は1つなのに、ピストンは大小2つある1気筒2ピストンエンジン。高トルクが得られるという)を見ても、とてもユニークなものが多いです。

初代の成功で「会社を辞めようと思った」

会長:それはすごいアイデアマンだった。成功したらすばらしかっただろうね。

三好:もし歯車が噛み合っていたら、ホープ自動車はホンダみたいな会社に?

会長:僕もそう思う。商魂も、技術もすごかった。けれども、3輪トラックもヨソにやられちゃった。金があれば量産してどこにも負けない自信はあった、とおっしゃっていた。そして今回は、修さんにやられちゃったと(笑)。

三好:やはり会長はスズキ車のなかでもジムニーには思い入れが強いですか?

会長:そりゃそうです。売れないと言われたから、型の償却を年間300台、5年1500台で計算した。ところが俺の予想どおり、1カ月に300台売れたんだ。

スズキ広報:なんと初年度6500台売れたんですよ。2年目が5600台。

三好:辞めなくてよかったですね(笑)。

会長:うん、ジムニーが発売されてから小野さんと会った。「スズキが引き継いでくれてジムニーになったが、私(小野さん)が生み出したやつが世に出てくれてよかった」とおっしゃってくれた。「でも、世に広めたのは僕ですよ(笑)」と、お互いの自慢話で一杯やりました。

三好:いい思い出ですね。

会長:という昔の話でね。よろしくね。

【解説】ON型を生んだホープ自動車とは

軽四輪駆動のパイオニア、ホープスターON型。三菱製空冷2サイクル2気筒21馬力エンジンとLo-Hi2段切り替え式のトランスファーに4速MTを組み合わせ、軽自動車ながらジープと同じ16インチという大径タイヤを装着。まさにキャッチコピーどおりの「不整地用万能車」であった。

鈴木 修会長インタビューにも出てくるが、その後エンジンの安定供給に苦労し、量産を断念。スズキにすべてを移管してジムニーとして生まれ変わったのである。

ON型の時代に富士登山を敢行し、性能も折り紙つきであった。それ以上に今の時代ならこういうコマーシャル的発想もあるのだろうが、約50年前にこういうド派手なパフォーマンスを思いつくホープ自動車の小野定良氏という人となりに興味が湧く。

というのも、ON型で究極のアイデアを具現化する以前にも、軽規格の3輪車ブームを作り出しているからだ。自社で作る部品と他社製品の流用で信頼性と開発スピードを上げるという柔軟な考えのともに軽オート3輪市場を開拓。また凝りに凝ったダブルピストンエンジンを生み出している。

当時のライバル、ダイハツ ミゼットが12馬力、マツダK360が11馬力という時代に15馬力を発生! ライバルよりも25%も高出力だ。といっても10数馬力で比較してもわかりづらい。300馬力に例えると420馬力も出ている計算になる。圧倒的である!

オイラはこのエンジンが搭載されたSM型という軽3輪車に試乗したことがある。確かにトルクフルで乗りやすいと感じた。またフルシンクロの3速ミッションというのも当時としては驚異的だったようだ。当時のホープスターの軽3輪車は丈夫だったらしい。他社がオートバイの延長線で作っていたのに対して小野氏は3輪のクルマという視点で作っていたのだから、その出来栄えの差ははっきりしている。

当時、ダイハツ ミゼットを超える完成度の軽3輪車が完成していた事実、4WDのON型を出したあと、タラレバではあるが、その後の量産車に搭載予定の提携先からのエンジンが不良品でなければ…。なんだかホンダのようなユニークな自動車メーカーが日本にもう一つ存在したのではないか、と想像してしまうのである。

【あとがき】2人の出会いが奇跡を生んだ

このインタビューはもうしばらく前に行った。オイラが360cc軽自動車の本を出し、たまたま会長が目を通してくれたことで、ジムニー創世記の話をうかがいに浜松に出かけたのだった。いい掲載機会がないままここまで来てしまったが、新型ジムニーの門出に際し、まさにこのときのために温めていたような気さえする。

”人見知り”の鈴木 修会長は気遣いの方で、興に入ると持ち前のサービス精神からか、とてもここでは書けないです、という話までおもしろおかしく話してくださった。

小野定良さんはアイデアマンと言われたが、360ccの軽4WDに商機と勝機を見出したところなどは、アイデアマン2人が出会った奇跡がジムニーを生み出したとオイラは考えるのである。

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