トビラの向こう、いや、ほんの布1枚に隠された盛り上がりのあちら側に私たちの知らない世界がある。
そのクルマは東京・青山一丁目にあるアストンマーティン正規ディーラーの駐車場にひっそりとたたずんでいた。光によってグリーンが入っているようにも見える黒色のボディ、その中央に走る蛍光ライム・グリーンのレーシング・ストライプ、そして21インチの巨大なホイール。2ドア・クーペのように見えるけれど、そうではない。リアに大人がふたり乗れるシートを備えた、世界でも最も美しい4ドア・スポーツカー、ラピードの最終進化形ともいえるAMRである。
自動車メーカーになった男──想像力が全ての夢を叶えてくれる。第13回
【主要諸元】全長×全幅×全高:5019×1929×1350mm、ホイールベース2989mm、車両重量1990kg、乗車定員4名、エンジン5935ccV型12気筒DOHC(603ps/7000rpm、630Nm/7000rpm)、トランスミッション8AT、駆動方式RWD、タイヤサイズ、フロント245/35ZR21 リア295/30ZR21、価格3089万2684円(OP含まず)。タイヤはミシュラン社製。サイズはフロント245/35ZR21 リア295/30ZR21。ボディ各所には専用のカーボンパーツがあしらわれる。AMRは、アストンマーティンがモータースポーツから得た技術とインスピレーションによって製作する、アストンマーティンのレースの血統を色濃く反映した特別なモデルに与えられるブランドとして創設された。その記念すべき第1弾がラピードAMRで、2017年のジュネーブ・ショーでコンセプト・カーが発表されると、ほとんどそのまま生産に移された。ただし、その数、たったの210台。その1台が東京のど真ん中に潜んでおり、それは間もなく幸運なオウナーのもとに届けられる。
スッカフプレートはAMRのロゴ入り。自然吸気の6.0リッターV型12気筒エンジンは、ラピードSの最高出力560psから603psへと高められている。V12を目覚めさせただけで、駐車場内に野獣の咆哮が轟く。630Nmのトルクは変わらぬまま、最高出力の発生回転を6650rpmから7000rpmへと上積みすることで得ている。
ストッピング・パワーは、ブレーキにカーボン・セラミックのディスクを標準装備することで対応している。
グリルは由緒正しい格子型から、レーシィな餅網型になり、前後左右に空力的付加物を備える。
搭載するエンジンは5935ccV型12気筒DOHC(603ps/7000rpm、630Nm/7000rpm)。残り数台! まだ買えます!内装も見逃せない。フロントにはカーボン・ファイバー製のバケット型シートが用いられ、ボディ色に合わせた色合いのレザーとアルカンターラで覆われている。
ウッドパネルの代わりにカーボンを使ったインテリア。トランスミッションは8AT。ギア・セレクターはスウィッチタイプ。メーターはアナログ。上質なレザーを使ったステアリング・ホイールはパドルシフト付き。ラピードAMRはおそらく最後の6.0リッターV型12気筒自然吸気を搭載する4ドア・スポーツカーとなる。それはいま、ここにあるからなんら不思議ではないけれど、じつはすでに生産が終了している。なくなって初めて、ぽっかり穴が空いたような、「××ロス」と最近では呼ばれる思いにとらわれることになるかもしれない。
ラピードのボディに電気モーターと電池を搭載したラピードEを限定で155台つくったのち、アストンマーティンは次期4ドア・モデルの電動化へと舵を切ろうとしている。最高速度330km/h、0—100km/h加速4.4秒を主張する、6.0リッターV型12気筒自然吸気エンジンを搭載する4ドア・クーペは、少なくとも今後しばらくあらわれそうにない。
シートはヘッドレスト一体型のバケットタイプ。フロントは電動調整式。バング&オルフセンのプレミアムサウンド・システム付き。リアシートもヘッドレスト一体型。リアシートのセンターコンソールはカップホルダー付き。積載性に優れるラゲッジルーム。足に使って4ドア4人乗りの実用性の高さを味わうもよし、コレクターズ・アイテムとして30年封印するもよし。カーボン・パーツにセラミック・ブレーキを標準装備する12気筒モデルである。3089万円はお値打ちだ。
国内のアストンマーティン愛好家の耳にはすでに届いていることだろうけれど、そうではないマニア体質のかたがたに筆者が得た情報をこっそりお伝えしておきたい。
じつは英国本社にごく少数、行き先の決まっていないラピードAMRが日本行きを切望しているという。彼の地では時代遅れの産物と考えられている、と筆者は推測する。残り物には福がある。真の目利きにとって、チャンス到来とはいえまいか。
文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)
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