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池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後【第1回 特別対談:清水草一(前編)】

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池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後【第1回 特別対談:清水草一(前編)】

『サーキットの狼II モデナの剣』誕生秘話:前編

1975年から1979年にかけて週刊少年ジャンプで連載された『サーキットの狼』は自動車漫画の草分け的存在であり、瞬く間に空前の「スーパーカーブーム」を巻き起こした。

池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後【第1回 特別対談:清水草一(前編)】

そして『サーキットの狼』連載終了から10年後、今度は週刊プレイボーイで『サーキットの狼II モデナの剣』の連載が始まることになる。ちょうどその頃、時代はバブルの真っ只中。国内外から魅力的なスポーツカーが百花繚乱の体を成し、『サーキットの狼II モデナの剣』の連載は新たな読者層を獲得すると共に、初代『サーキットの狼』に夢中になった10年前の子供たちを再びスーパーカーの世界へと引き戻したのである。

第二章として始まった『サーキットの狼II モデナの剣』、実はその成立には自動車評論家として活躍する清水草一氏が大きく関わっていた。今や「大乗フェラーリ教 教祖」として知られる清水氏と、同作品の作者である池沢早人師先生の関係とは何か?

取材のタイミングでちょうど開催されていた、池沢先生の原画展「サーキットの狼 2019 展~漫画家池沢早人師デビュー50周年記念~」の会場にお集まり頂き、『サーキットの狼II モデナの剣』誕生の秘密を伺ってみた。

担当配置換えが生んだ『サーキットの狼』第二章

1989年から1995年までの6年間に渡り週刊プレイボーイで連載された『サーキットの狼II モデナの剣』。その作者である池沢先生と、同作品の担当編集者であったという清水氏だが、その関係は今もなお続いているという。

清水草一(以下、清水):先生、ご無沙汰しております。こうしてお合いするのは1年半振りですかね? 当時は本当にお世話になりました。先生がいなければ今の清水草一は存在しなかったと思っています。

池沢早人師(以下、池沢):もう、そんなになるかな? 確か今乗っているフェラーリ328を手に入れたときに取材がてらウチに来たんだよね。付き合いが長いせいなのか久しぶりな感じが全くしないなあ。そう考えると、シミちゃん(編注:池沢先生が清水氏を呼ぶ愛称)との付き合いは30年以上になるんだね。モータージャーナリスト・清水草一としての活躍は、編集者時代から知っているボクとしては嬉しい限りだよ。

清水:元々の出逢いはボクが集英社に入社して3年目の頃、グラビア担当から先生が連載していたゴルフ漫画『ビートショット』の担当になり、それからのお付き合いですから約32年になります。当時の池沢先生は原稿を描くのが早くて助かりました。超過密スケジュールの週刊誌連載なのに原稿が遅れたことはありませんからね。

池沢:ボクはね、誰よりも筆が早いのが売り。『サーキットの狼』を連載していた当時も原稿の締め切りを遅らせたことは無かった。だって、早く原稿を仕上げて週末は箱根や伊豆にドライブに行きたかったからね(笑)。

清水:先生とはボクがゴルフ漫画の担当編集者になったことが出逢いのきっかけでしたが、その数年後には池沢先生に「クルマの漫画を描きませんか!」ってお願いしてしまった。自分もクルマが好きで、池沢先生にはクルマに関する漫画を描いてもらいたかった・・・というのが本音です。実は先生に相談する前、編集長に「池沢先生に『サーキットの狼』をもう一度描いてもらいたんです」と提案したら即答でOKをもらいました。当時の先生はゴルフに夢中でしたが、必ずクルマ漫画を描いてくださると勝手に信じていました。

池沢:正直な話、『サーキットの狼』の連載が終わって10年経っていたけど、クルマを題材にした漫画に関しては完全燃焼したと思っていたし、趣味で始めたゴルフが楽しくて仕方なかったんだよね。でも、シミちゃんから新たな連載の話をもらった時、冷静になって周りを見たら時代はバブルのど真ん中で、街中にはベンツやBMWが日本車のように走りまわっていたし、日本車でもニッサンGT-Rの復活やホンダNSXが出る頃で、クルマ業界がダイナミックに動いている時代だった。だから話をもらった時はものすごく嬉しかったことを今でも覚えている。

清水:先生はすぐに了承してくれて『フェラーリの剣』ってタイトルのアイデアまでもらった。でも、“大人の事情”でフェラーリの名前をタイトルにするのは・・・と言うことで『モデナの剣』に変更になったんですよね。

池沢:ゴルフ漫画も楽しかったけど、話をもらった瞬間、自分の中で封印していたクルマへの情熱というか、熱い思いが再燃して夢中で構想を練り始めた。毎日フェラーリに乗れたら幸せなんだろなぁと考えた時「フェラーリのテストドライバーなら、毎日フェラーリに乗れるし誰よりも早く新型車をドライブできる。世界中で売られるフェラーリの味付けを決められるテストドライバーは幸せに違いない!」と思い、主人公を元フェラーリのテストドライバーとして描くことにしたんだ。単純明快、捻りの無いストレートな発想だけど、それが強みになったことは間違いないと思う。

清水:そうなると、今度はボクの出番。少年ジャンプが同じ会社(編注:集英社)だったこともあり、少年ジャンプの編集部にお願いして『サーキットの狼II』のタイトルを使う許可をお願いしたんです。最初は渋っていたけど、サブタイトルならということでOKをもらうことができました。池沢先生がスーパーカーを題材に描くのなら“サーキットの狼”の冠は絶対に欠かせませんからね。

成人対象だったため自主規制で幻のエッチシーンが存在する!

池沢早人師先生と辣腕編集者である清水草一氏のタッグで連載が開始された『サーキットの狼II モデナの剣』は、約6年間に渡って週刊プレイボーイに連載されるという長寿を誇り、現在は単行本や電子書籍として販売されている。

清水:少年ジャンプで連載された『サーキットの狼』の続編でもある『サーキットの狼II モデナの剣』ですが、10年の歳月を経て週刊プレイボーイという成人雑誌での連載でしたから、内容にも過激な表現があって面白かったと思います。主人公の“剣・フェラーリ”がかなり・・・(笑)。

池沢:そうだね。クルマに乗っているか、オンナにのっているか(大爆笑)。少年ジャンプの頃は子供たちを対象に描いていたから恋愛までが上限だったけど、続編は成人向けのプレイボーイ連載だから大人の恋愛表現も多かったと思う。子供たちにとってスーパーカーは「クルマ自体が憧れ」だけど、大人にとってスーパーカーは純粋な憧れの部分と、そのクルマを使った私生活に関わる重要な道具にもなる。特に主人公の“剣・フェラーリ”はイタリア人とのハーフとして描いていたし、当時のイタリア人の男性は挨拶代わりに女性を口説いていると思っていたからね。キャバリーノランパンテは情熱の国が生んだクルマであり、熱いラテンの血が男の象徴。

清水:あの当時は池沢先生もラテン系(笑)。かなり情熱的な私生活でしたよね?

池沢:“風吹裕矢”を描いていた頃は自分も“硬派な風吹裕矢”になり、“剣・フェラーリ”を描いていると自分も“情熱的な剣・フェラーリ”になってしまう。主人公の気持ちになってストーリーを描くことが大事だと思っていたけど、元々の性格は“剣・フェラーリ”だったのかな? 今では他の漫画を描いても私生活は“剣・フェラーリ”から抜け出せない(笑)。

清水:でも、編集部としては先生が描く世界観が『サーキットの狼II モデナの剣』でしたからね。自分も担当者として関わりながらも、十分に楽しませてもらいました。

池沢:今、思い出すとプレイボーイ編集部からは一度もネームの変更をされなかった。ジャンプ時代は担当とじっくり打ち合わせして、さらにネームの変更や修正は日常茶飯事だった。もっともそれはギャグ漫画時代の話しだけどね。

清水:当時のボクは担当編集者でありながらも、漫画の世界は全くの素人でしたから。池沢先生に全てお任せでした(笑)。でも、連載の途中でボクがフリーの自動車ジャーナリストになると宣言して集英社を退社してしまいました。その節はご迷惑をお掛けしました。

池沢:シミちゃんは集英社にいる頃から他社の雑誌に原稿を書いていたよね。でも、その原稿はセンスがあって好きだったなぁ。今考えるとフリーになって大正解だったと思うよ。

清水:そう言ってもらえるのは嬉しい限りです。

池沢:そう言えば、独立するときにペンネームについて相談されたよね。(「草」が好きと言っていたから)シミちゃんのお父上の名前から「一」を借りて「清水草一」はどうかって言ったんだ。

清水:そうです。先生はボクの名付け親でもあるんですよね。

池沢:ところで6年間雑誌連載した『サーキットの狼II モデナの剣』は単行本になっているけど、単行本には収録されていないシーンがあるって知ってた?

清水:えっ、初耳です。全部単行本に収録されているんじゃないんですか?

池沢:実は集英社の自主規制できわどい内容のシーンがカットされていて、集英社のプレイボーイブックスの初版本だけ全て掲載されているんだ。重版したものや電子版には載っていないから、初版本は超レアだと思うよ(笑)。

清水:家に帰って探してみます!

約30年前、ブームを生んだ漫画家と若手雑誌編集者との出逢いが『サーキットの狼II モデナの剣』を生み出した。そして、人気自動車ジャーナリストであり“フェラーリ大乗教 教祖”として知られる清水草一氏誕生の裏には池沢早人師先生との出逢いが存在したという。次回は後編としてお二人の関係を紡ぐ「フェラーリ」について語って頂く。

TEXT/並木政孝(Masataka NAMIKI)

PHOTO/降旗俊明(Toshiaki FURIHATA)

COOPERATION/ACG

撮影場所/Animanga Zingaro「サーキットの狼 2019 展~漫画家池沢早人師デビュー50周年記念~」

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