筆者が“春日部 33”のブガッティ「EB110」をはじめてみたのは、フェラーリ横浜サービス・センターだった。
所有する「360モデナ」を車検整備のため、サービス・センターに預け入れたが、ちょうどおなじタイミングでEB110も入庫していた。
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フェラーリ横浜サービス・センターは神奈川県横浜市都筑区にある。おなじ敷地内には、BMW、BMWミニ、ロールス・ロイスのサービス・センターもある。うまれてはじめて見たEB110は、想像以上にコンパクトだった。ボディは全長×全幅×全高:4400mm×1940mm×1114mm。360モデナ(全長×全幅×全高:4477mm×1922mm×1212mm)より全幅以外の数値は小さい。
訊くと車検整備のために入庫しているという。せっかくの機会なので、実車に近づくと、装着されているナンバーにびっくり! なんと、“春日部 33”だったのだ。しかも、ボディ前後には高齢運転者標識が装着されている。
EB110のフロントとリアには、高齢運転者標識が装着されている。70歳以上のドライバーへ、装着がすすめられている(努力義務)。「いったい、どんな人が所有されているんだろう?」
深まる謎を解決すべく、おもいきって、フェラーリ横浜サービス・センターを運営するニコル・カーズに、(EB110の)オーナーに取材出来ないか? 訊ねた。
数日後、広報担当者から「取材OKとのことです!」と、連絡がきた。
退職金で購入したEB1102019年10月下旬、“春日部 33”のEB110を取材すべく埼玉県越谷市に向かった。
オーナーの自宅ガレージには現行のメルセデス・ベンツ「Sクラス」とともに、ブガッティ「EB110」が停まっていた。ガレージは屋根こそあるものの、シャッターは開けられている。
ガレージ内にはEB110とともに、メルセデス・ベンツの現行「S600L」もある。「クルマの保護もあり、乗らないときはカバーをかけているものの、オープンタイプのシャッターなので、いつでもクルマの存在を(道ゆく人に)知ってもらっています」と、話すのはオーナーの植竹安維さん。
植竹さんは、EB110を1996年(平成8年)に購入したという。
「市役所を退職したときの退職金で購入しました。ただ、退職金だけでは足りなかったので、おなじ市役所に勤めていた妻に、購入費用の一部を借りました(笑)」
【隔週連載】『29歳、フェラーリを買う』Vol.37 半年間の通信簿と今後の不安
EB110オーナーの植竹安維さん。EB110は1991年から1995年まで製造された。植竹さんが所有するEB110は、日本に輸入された最後の1台。植竹さんは大学卒業後、越谷市役所に就職。とくに、都市計画事業に力を注ぎ、定年まで勤めたという。奥様の久實子さんもおなじく越谷市役所に勤務されていた。
「EB110を購入するとき、最後の値引き交渉は私がしました。EB110の購入は、主人の趣味ですので反対はしませんでしたね。それに、主人は“限定”や“希少”という言葉に弱いので……」
植竹さんが購入したEB110は、当時、日本にあった最後のEB110(正規輸入)だったという。最初、関西在住の別ユーザーが購入予定だったが、キャンセルしたため購入出来た。
「8台輸入されたうちの、最後の1台でした。“最後の”というワードに惹かれましたね。それに、地味なボディカラーも購入の決め手でした。年を重ねたとき、イメージカラーのブルーは、ちょっと派手すぎるかな? と、思ったので」
植竹さんがEB110を購入したきっかけは、偶然だったという。
「シート位置を1番前にしないと足が届かないんですよね(笑)」と、話す植竹さん。600SLの購入「定年を迎えるにあたり、退職金の使い道について家族で話し合ったんです。そしたら、『退職金はお父さんが自分のために使ったらいい』ということになりました。そこで、なにかクルマを購入しよう! と、思ったのです」
早速、退職金で購入するクルマを探すべく、都内の有名自動車ディーラーに出向いた。当時、「どうしてもこれが欲しい!」というクルマはなかったという。ただし、漠然と“スーパーカーが欲しい”と、思っていたという。
「当時、メルセデス・ベンツの『600SL』に乗っていましたから、SL以上のクルマが欲しかったんです」
【隔週連載】『29歳、フェラーリを買う』Vol.37 半年間の通信簿と今後の不安
ちなみに、SLを購入した理由も興味深い。
「ちょうど58歳のときに購入しました。58歳で役職定年を迎えるにあたり、世間体の手前、今まで乗れなかった輸入車にチャレンジしました。管理職当時は、“輸入車に(管理職が)乗るのはマズイ”といった空気がありましたので……」
600SLの前はどんなクルマに乗っていたのか? 「1962年(昭和37年)に購入したスバル『360』から私のカーライフははじまりました。それから、トヨタ『カローラ』や日産『ブルーバード』、ホンダ『インテグラ』、『CR-X デルソル』などを所有しました」
Mercedes-Benz SL der Baureihe R 129: Der Technologieträger feiert vor 30 Jahren PremiereMercedes-Benz SL of the R 129 model series: The technology platform celebrated its premiere 30 years ago植竹さんが購入したメルセデス・ベンツ「600SL」はR129と呼ばれるモデル。Daimler AG600SLを購入したきっかけは、フルオープン・モデルが欲しかったからという。当時乗っていたCR-X デルソルが、植竹さんいわく「中途半端なオープン」だったため、はじめてSLの存在をショールーム(芝浦のヤナセ)で知ったとき「メルセデス・ベンツで購入するならコレしかない!」と、思ったそうだ。
「購入後、通勤で市役所に乗っていったら、周囲がビックリしましたね。当時も今もハードトップは装着せず、いつもソフトトップを開けて乗っています」
600SL以前に所有していたホンダ「CR-X デルソル」。ルーフ部分のみ電動開閉式だった。その600SLは今も所有しているという。そういえば自宅玄関に、オブジェとしてハードトップが飾られていた。
「電動ハードトップモデルを見たとき、はじめこそ買い換えようと思ったのですが、愛車を見るたび『ソフトトップのほうがかっこいいのでは?』との考えが深まり、結局、今も所有しています」
取材時は残念ながら600SLはなかった。ソフトトップの開閉機構(油圧関連)が故障したため、修理に出しているという。
EB110との出会い話をEB110の購入エピソードに戻そう。退職金でスーパーカーを購入すべく、SLに乗って都心部にある、さまざまなスーパーカー・ディーラーを巡ったという。
ただし、多くの人が憧れるフェラーリには興味があまりなかったそうだ。
「フェラーリは自分と釣り合わない気がして……。フェラーリ以外のスーパーカーはなにがあるのだろうか?と思い、見つけたのがアストンマーティン でした」
【隔週連載】『29歳、フェラーリを買う』Vol.37 半年間の通信簿と今後の不安
「購入するまでブガッティのことはまったく知りませんでした」と、述べる植竹さん。EB110購入後、ブガッティ・ブランドの時計やメガネも購入。現在も愛用している。植竹さんは、根っからのクルマ好きというわけではない。運転こそ好きであるが、それほどクルマについて詳しくはないという。したがって、アストンマーティンもはじめは知らなかった。
「アストンマーティンがいいなぁと思い、飯倉(東京都港区)にあったディーラーに行ったのですが、セールスマンの対応がイマイチでした。そのあと、ランボルギーニのショールームも行ったのですがイマイチ、ピンっときませんでしたね」
ランボルギーニのあと、偶然見かけたアルピナを「いいなぁ」と思い、ふらっとニコル・カーズのショールームに入ったのがEB110との出会いだった。
「当時、アルピナについてもほとんど知らなかったんです(笑)。気になって、ふらっとショールームにはいったら現在所有するEB110が偶然、置いてあったんです」
ブガッティがなんたるかもまったく知らなかった植竹さん。一目見て「これはすごい!」と、驚いたそうだ。しかも、“日本最後の1台”と、聞いて「これは買うしかない!」と、強く思ったという。
「実はEB110を見たのは2回目だったんです。後日、妻と一緒にディーラーに行ったら、『前にも1度見たわよ。そのときエンジンもかけてもらったじゃない』と、言われたんです。そのときのことはまったく覚えていませんでした(笑)。でも、おなじクルマを2度も見に行くなんて、これはもう運命であると確信し、購入を決めました」
購入価格は約3980万円(当時)。晴れて、植竹さんとEB110のカーライフがスタートした(後編に続く)。
文・稲垣邦康(GQ) 写真・安井宏充(Weekend.)
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今は退職に追い込まれる等良いこと1つもなしな大変な時代になりました。。