2019年10月25日、BMWジャパンがお台場の”BMWグループ東京ベイ”にて、自動運転「レベル4」の体験試乗デモンストレーションを行った。
「レベル4の自動運転」とは、「特定の場所でシステムがすべてを操作する「状態をいう。
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例えば、高速道路もしくは限られた市街地などで、クルマが自発的に動いてくれるのだ。ドライバーは、スマホやパソコンをいじったり、目を瞑ったりもできる。
自動運転といえばCMでもお馴じみ、公道で手放し運転ができる日産プロパイロット2.0が話題になった。
その日産のプロパイロット2.0とどう違うのか? 元自動車開発者の吉川賢一氏が解説する。
文/吉川賢一
写真/エムスリープロダクション鈴木祐子 BMW
【画像ギャラリー】自動運転レベル4のシステムを搭載したBMW7シリーズの詳細
日産のプロパイロット2.0やBMWのハンズ・オフ・アシストとどう違う?
7シリーズセダンをベースに開発されたレベル4の試験車両。現在、世界中で自動運転の試験・実験車両は80台、その走行距離は約2億4000万kmにのぼるという
7シリーズをベースに開発されたレベル4の実験車両が持ち込まれ、デベロップメント・ジャパン本部長のルッツ・ロートハルト氏が自動運転に関するプレゼンテーションを行い、続いてBMWグループ・イベント・スペシャリストのクリストフ・グローテ氏が自動運転デモンストレーションについて解説
2019年9月登場の日産スカイラインのプロパイロット2.0やBMWのハンズ・オフ・アシストはレベル3に近いレベル2
新型3シリーズや8シリーズなど、BMWの一部の車種へすでに採用されている「ハンズ・オフ・アシスト」や、2019年9月登場の改良型スカイラインに搭載された日産「プロパイロット2.0」は、どちらも高速道路上で手放し運転が可能だ。
この2つの技術は、「レベル3に近い、レベル2」であり、今回の「レベル4」は、そのはるか上をいく技術だ。
「ハンズ・オフ・アシスト」にしても「プロパイロット2.0」にしても、「手放しできるし、ほとんど自動運転じゃないか」と思うかもしれないが、作動には厳しい前提条件が伴う。
ドライバーが前方を注視していること、緊急時にはドライバーが操作すること、車線変更はドライバーの意思確認が必要など、あくまで「運転を支援する」技術にとどまる。
ある前提条件を設けて、そのなかで「ドライバーの運転を助ける」というルールであり、安全責任はあくまでドライバーにある。
日産プロパイロットはハンドルを放してもいい状態になるとメーター内のステアリング内が青色に表示
2019年7月16日に発表されたビッグマイナーチェンジ版スカイラインから搭載されたプロパイロット2.0
筆者が日産プロパイロット2.0に試乗した際、試しに目は前を見ながら顔を横に向けたところ、すぐさまアラームが鳴った。あくまで「人間が運転する」前提の技術なのだ。
対する、「自動運転レベル4」は、「特定の場所でシステムがすべてを操作する」状態をいう。ドライバーは「レベル4」のシステムがONになれば、視線を前方から外すことができるようになるのだ。
たかがこれだけの違いだが、この間には技術的に大きなハードルが存在する。デモ用のクルマとして紹介されたBMW7シリーズのボディが、カメラやセンサーだらけになっているのを見れば、その大変さの一端が分かるだろう。
取材当日は豪雨のためデモ走行は中止になったが別の日に行われたデモ走行の映像で確認できた
このテストカー(BMW7)には、カメラが前、後、左右に合計8台(※目視で確認できた範囲)、ボディの四隅には超音波センサー、フロントにレーザー、ルーフにはGPS等、各種センサーが搭載されており、それはそれは物々しい姿になっていた。
「実用化する段階では、ボディデザインへ紛れ込ませるため問題はない」とBMWは説明しているが、とにかく、全力で周囲の情報を漏れなく取得しよう、という努力がうかがえる。
試験車両に備わるレーダーとLiDAR。これが前後バンパーの左右角に備わり、その他にもカメラやGPSアンテナ、超音波センサー他多数の計測装置が搭載されている
試験車両は全身にセンサーとカメラを満載。カメラは市販モデルにも搭載されているフロントとリリア、画像認識用の3眼(短距離、中距離、長距離)に加え、左右のAピラーに各1基、フロントフェンダー左右に各1基、ルーフアンテナ部に1基搭載。さらに前後バンパーの左右角にはLiDARとレーダーを計4基備え、それ以外にも精細なマップと連動するGPSアンテナが2基設置されている
BMWのデモンストレーションから分かった課題とは?
スマホを操作すれば7シリーズをドライバーなしで走らせることができる
今回のデモンストレーションのシナリオは、「スマートフォンのアプリで呼び出された、人が乗っていないクルマが、そのオーナーを迎えにやってくる。
到着とともにスマートフォンによるアクセス認証をして、希望の出迎え地点まで車両を誘導する。
そして区切られた敷地内を一周して戻ってきて、乗員が下りた後には、クルマが自動的に駐車スペースに戻る」というものだった。誰しもが夢見た「自動運転」の姿に限りなく近いデモになるはずだった。
しかし、残念ながら、デモ試乗は豪雨のために中止となってしまった。担当したBMWエンジニアによると「豪雨の場合、システムが「ドライバー運転モード」にするようにと判断するため、狙いのデモンストレーションができない」というのが、デモ試乗中止の理由のようだ。
通常の雨程度では自動運転レベル4は問題ないという。集中豪雨とデモ時間がぶつかってしまったことは、この日のためにドイツから来日した開発担当エンジニア達にとっても不幸ではあったが、雨の時こそクルマに目の前まで来てほしいと考える多くの顧客にとっては、現時点、応えられるシステムではないということは分かった。レベル4実現にはまだまだ大きな課題があるようだ。
自動運転レベル4実現のための肝は「AI」
日産のプロパイロット2.0では、高速道路の大部分の区間を網羅する3D高精度地図データ、フロントのミリ波レーダー、3眼カメラ、4つのサイドレーダー、7つのカメラ、12個のソナーなど、360度のセンシングによって自車周辺を検知している。
またBMWのハンズ・オフ・アシストでは、中・長距離を監視する3眼カメラシステムがレーダーと互いに補完し合い、濃霧や豪雨などの悪天候時でも、前走車を検知するシステムを搭載した。
「レベル4」では、急な交通渋滞や、濃霧や豪雨、強風などの天候変化、そして雨の降っている夜であっても、クルマ側が実現可能と決めた条件内では、原則、クルマ側が何とかしなければならない。
そのため、従来のセンサーからの情報に加え、自車の周囲の環境を正確に把握する膨大なデータを瞬時に処理して、人間の代わりとなって正確な決断を下す「頭脳」が必要となる。
そのためBMWは、中国やアメリカなどの世界各地の公道で、データ収集を進めており、センサーで取得したデータを、1時間で8テラバイト処理できるBMWの自動運転キャンパスへ送り、AIによる「学習」を進めているという。その実験で鍛えられた「AI」が、ドライバーの感覚にどこまで迫ることができるのか、その点が、この「自動運転レベル4」の課題であろう。
まとめ/自動運転のライセンスが必要ではないか?
駐車場で自動運転のデモ走行を実施する様子
「レベル3」以上の自動運転システムを稼働中に起きた事故は、クルマ側が負うことになる、といわれている。
ただし、現時点で明確な法律が制定されているわけではなく、また、ドライバーが、自動車保険への加入から免れるわけではない。
世界中の各国政府は、各開発メーカーの技術動向を監視しながら、法律制定の論議に挙げるべきか否かを探っているという状況だ。
BMWは2021年に、高速道路上でのみ可能な「レベル3」を搭載したクルマを出す計画だという。
BMWは、その先にあるレベル4を市街地走行まで想定しており、そのためには車両開発はもちろん、インフラや地図データ、専用エリアでの実用とすることが必要だという。
つまり、我々は今すぐ免許証を放棄できるわけではない。そして、これらの自動運転システムを使うにあたっては、動作を理解するために、自動運転のライセンス制度のようなものが必要ではないか、と筆者は考える。
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