あおり運転が社会問題となっている。あおりの問題が注目をあびる契機になったのは、一昨年、神奈川県大井町で夫婦が亡くなった東名での事件(事故)である。
事件以降、警察サイドもあおり運転や車間距離不保持の取り締まりを強化したほか、ドライブレコーダーの映像をもとにした捜査にも積極的になった。ドラレコには決定的な証拠が残る。しかしその後も、常磐道での高級SUVによる煽り運転など、事例は後を絶たない。
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トラックと乗用車の関係ではどうだろう。大型トラックの高速道路での制限速度は80km/h、スピードリミッターの上限は90km/hと定められている(総重量8トン超)。一方、乗用車の制限速度は新東名の一部区間などで120km/hに引き上げられ、トラックとの速度差はますます大きくなった。
トラック同士が長時間並走し、後ろに乗用車の列ができる場面もある。そうした時にあおり運転は頻発しているのか? 職業ドライバーたちはどうやって対処しているのか? また、乗用車の運転で気を付ける点は何か? を探ってみたい。
文/長野潤一
写真/長野潤一、編集部
●長野潤一とは
トラック歴27年のベテランドライバー。物流の将来を考えながらハンドルを握る社会派ドライバー兼ライター。ベストカーで連載『トラックドライバー三番星』を執筆中
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■トラックは、あおられても怖くないのか?
夜、長距離の仕事をしていて、乗用車やほかのトラックにあおられることがあるか? といえば、ほとんどない。それは、短時間で追い越しがすむような運転を心掛けているせいもあるが、大型車はあおってもあまり面白くないというのが主な原因だろう。
トラックはあおられても、直接後ろが見えずまぶしくないし、車体が長く、はるか遠い所の話だ。乗用車で味わうような恐怖感はない。煽るドライバーの本質は、自分の“強さ”を見せつけたいという自己顕示欲であろう。しかし、大型車が煽られたという事例もある。
今年8月、兵庫県佐用町・中国道でのタンクローリー強奪事件や、昨年愛知県日進市・東名高速でトレーラーのドライバーを模造刀で暴行した事件などがある。単なる交通トラブルというよりは犯罪の領域に入るものだ。
もう少し身近な例では、追い越したあと、トラックの前に割って入って急ブレーキを踏むという、嫌がらせがある。トラックが追突を避けるため急ブレーキを踏んだ結果、荷崩れや荷物の破損が発生する可能性もある。
だが、今の大型トラックにはほとんどドライブレコーダーが装備されており、危険運転行為は証拠として残る。積荷には精密機械などの高額品もある。たとえ車両同士が接触していなくても、数千万~億単位の損害賠償を請求される可能性もある。軽い気持ちの嫌がらせが、取り返しのつかない結果につながるのだ。
■トラックが追い越しを早く終わらせる秘策は?
大型トラックが1km/hぐらいの速度差で延々と横並びで走り、後ろに長蛇の列ができる光景を時々目にする。同業者ながら、やめて欲しい行為である。
なぜ1km/h差でも追い越すのか? その理由はいろいろあるだろう。
[1] 1km/h差でも到着時間に影響する。
[2] 追い越さずに延々走っていると長い列になる。
[3] 自分のペースで走らないと気持ち悪いなど。
しかし、横並びになっているのは、ハッキリ言って下手な運転である。たとえ制限速度を守っていても、安全運転とは言えない。
トラック同士の追い越しは時間がかかるため、後ろに乗用車の列ができてイライラの原因になることも
夜の高速道路には長距離トラックがひしめき合っている。2車線しかない道路で、全員が自分のペースを主張すれば、道路は破綻する。追い越すトラックが2~3km/h速度を上げ、追い越される側が2~3km/h速度を下げれば、追い越しにかかる時間は約7分の1ですむ。
もし、この記事を読んでいるドライバーや運行管理者がいれば、広めてほしい。
トラックの速度というのは、運送会社によって自主規制の速度=“社速”が決まっている。大手ほど“社速”が低い傾向にある。また、デジタルタコグラフ(デジタコ)という機器によって記録、監視されている。
大型貨物車で急速に普及したデジタルタコグラフ。GPS搭載で走行速度は正確に記録される。デジタルであることは義務ではないが、安全運転、省燃費、日報作成の省力化、労務管理に紙チャートより威力を発揮する
デジタコによってその日の運転は採点され、会社によっては点数が給料にも影響する。トラックドライバーの労働条件というのは、必着時間は決まっているのに、飛ばしてはならず、休憩も4時間に30分取らねばならない、というジレンマのなかにある。
だから、スピードは1km/hたりとも下げたくない。だが、プロドライバーだからこそ、周囲の状況を読んだ運転が要求される。現在、国内トラックメーカー4社の新型大型トラックのオートクルーズは、欧州のトラックにならってすべてステアリングスイッチになっている。
日野プロフィアのコックピット
国内4メーカーの大型トラックでは2017年より、オートクルーズはすべてステアリングスイッチになった。トラックにとって速度調整はそれほど重要ということ
速度調節はそれほど重要だということ。また、サイドミラーを見て、後方から来るクルマと自車の相対速度を識別する眼を養うことも重要だ。
■トラックに“あおられない”運転方法は?
逆に、乗用車がトラックにあおられる場合についても触れたい。
乗用車の側にも、大型トラックから嫌がられる特有の運転があり、トラックドライバーたちは「サンデードライバー」「あおられ運転」などと呼んでいる。それがどんなものかを知っておくことで、交通の流れを乱さない、よりスムーズな運転ができるだろう。
[1] 追い越したトラックの前に入ってから速度を下げる。
[2] 追越車線や真ん中の車線をゆっくり走る。
[3] ノロノロ走っているのに、トラックが追い越しをかけると速度を上げて抜かせない。
これらに共通するのは、速度が不安定である点だ。乗用車はトラックに比べれば重量が軽く、ちょっとしたアクセルワークで加減速してしまうので気持ちはわからなくもない。
しかし、トラックの側からしてみれば、たんたんとした業務を妨害する迷惑な行為なのだ。もちろん、いかなる理由があってもトラックによるあおりは違法だが、トラックは高速道路ではほとんどオートクルーズを使って一定速度で走っているから、「正義は我にあり」という感覚が強い。
ACC作動時のメーターの表示(日野プロフィア)
トラックドライバーは昔に比べれば、おとなしく善良な“会社員”になったが、日本全国では何十万人といるから、なかには悪質なドライバーもいる。自分が「あおられ運転」をしていないかどうか、再確認したほうがよい。
そして、「速度不安定車」の存在は、連休の新東名・新富士~新清水間などで渋滞を発生させる原因にもなっている。
トラックと乗用車のドライバー。相手の悪いところは知っていながらも、理解しようとはしない。両方を運転する立場からジャッジすれば、どちらかというと乗用車の気ままな運転の度が過ぎると思う。
しかし、それを矯正しようとしても無理な話。トラックドライバーは一層運転技術を磨き、乗用車の挙動をうまくかわす術を身につけるべきだ。
お互いに相手の運転の特性をよく理解し、プロがプロフェッショナルな運転に徹すれば、日本の道路シーンはもっと気持ちのよいものになるだろう。
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