ホットモデル2台を連れ出して異例の比較試乗にチャレンジ
なかなか国内メディアでは実現しない日独マニア垂涎の高性能モデル直接対決を敢行。必要十二分なダイナミクス性能を有するこの2台だが、その本質的な違いとは?
エクストラパワーをどう活かす? 萩原秀輝が考察する 「コンペティション」の意義
BMW M2 コンペティション 昨年の登場以来、特にドイツ市場では2003年に登場したM3CSL(E46)の再来ともいわれるBMW M2コンペティション。その理由はコンパクトな2ドアクーペ・ボディに3L直列6気筒エンジン(S55)を搭載、最高出力410psと最大トルク550Nmを発生し、1650kgのボディを0→100km/hまで4.5秒で加速、最高速度は250km/hでリミッターを外せば270km/hへも到達するパフォーマンスを持っているからだ。一方、当時のM3 CSLの空車重量は1385kgで0→100km/hは4.9秒、最高速度は280km/hであった。ちなみにこのモデルは2004年までに1383台が販売され、現在ではコレクターズアイテムとして当時の2倍以上、およそ1200万円程度で取引されている。
HONDA シビック タイプR 一方のホンダ・シビック・タイプRだが、やはり昨年の登場以来、まるでツーリングカーレースから抜け出てきたような派手ないでたちと、その当時のニュルブルクリンク北コースでFF最速の7分43秒80を叩き出したパフォーマンスで人気を博している。今回はリポーターの友人で、同じくジャーマン・カー・オブ・ザ・イヤー、そしてワールドカー・アワードの選考委員であるイェンツ・マイナーズ氏が比較テストをやろうと持ち掛けてきたのだ。彼はちょうど、映画「The Fast and the Furious(邦題ワイルドスピード)トーキョー・ドリフト」に影響を受けた世代で、日本車に憧れを持っており、このシビック・タイプRには並外れた興味を持っていたようだ。
シビック・タイプRはワンモーション風のフォルムのハッチバックで、荷室容量(420~786L)も大きくて実用性が高い。その一方で、前述のようにエクステリアはまるでレーストラックから抜け出てきたようで、フロントにアグレッシブなエアインテークを備え、リアは大型のスポイラーで、ルーフはエアスプリッターで武装している。真っ赤なトリムのインテリアもドライバーを高揚させる。しかし詳細に見てみると、安っぽいドアの開閉音やブリキ細工のようなエンジンフードレバー、各部にむき出したボルト&ナットなど、500万円近くを支払う価値を疑問に思う個所が見受けられる。
一方のM2コンペティションは、ロングノーズ/ショートデッキのプロポーションでパワフルな後輪駆動を強調する。まるでチータが獲物を狙う姿勢、あるいは短距離走者のスタートのようなダイナミックなシルエットだ。クラシカルといえるほど端正なコクピットも、操作系があるべきところにきちんとレイアウトされている。残念なのは、インフォテイメイント系が旧世代で最新のオペレーティング・システム7.0も装備されず、FRのキャビンはともかくトランク容量は390Lとどまる。ただし、各部の仕上げや建て付けのBMWクオリティは、ホンダのそれを大幅に上回る。
「軽さ」でシビックに軍配だがやはり所有する満足感に違いが
シビック・タイプRは、フロント横置きの2L直列4気筒ターボから、最高出力320psと最大トルク400Nmを絞り出す。6速MTで0→100km/h加速が5.7秒、最高速度は272km/hとなるが、M2コンペティションとの直接対決では、シビック・タイプRの健闘が光った。その主な理由は「軽さ」だ。M2より260kgも軽いボディは、極めてコントローラブルかつ扱いやすく、最新世代のVTECターボは高回転域までスムーズに吹け上がり、前輪駆動ながら確実にそのパワーを路面に伝える。
一方、BMW M製3L直6ターボは、アルミ製ブロックとはいえ単体で205kgもある。ゆえに終始その重さを意識させながら、有り余るパワーで強引に駆けぬける、ややクラシカルなドライブフィールだ。ただしFRだからこそ、スロットルで挙動コントロールする楽しみが残されているし、強化ディスクを備えたMスポーツブレーキの制動性能は頼もしい。
今回のテストではそれぞれのモデルに乗り換えながら合計1800kmを走破したのだが、シビック・タイプRはオンロードドライブはもちろんサーキットでも十分に楽しむことができた。特に乗り心地と快適性はその外観とは裏腹に素晴らしく疲れ知らずなドライブを実現した。一方、M2コンペティションのダイナミック性能は、クラシカルな味わい深さだが、シビックの軽さと比較するとその車重が全体の印象をスポイルしてしまった。というわけで、客観的な視点での比較テストでは、シビックタイプRがM2コンペティションよりも楽しかったという大金星を挙げたのである。
シビックがクォーツ式なら、M2はいわば機械式時計。
ただし、本誌的な主観を入れてみると、個人的なこだわりに対する満足感が異なる。たとえば時刻を知るだけであれば腕時計はセイコーでもカシオでも、手頃な価格で高性能な日本製を買うことができるし、実際にこれで十分である。一方、クォーツ式に精度では敵わないが、多少の手間を要しても機械式時計を好んで購入する人もいる。これはいわゆる個々のライフスタイルであって、コモディティ(普及品)でない製品を手に入れ、それを所有することで満足感を味わうのである。BMW Mでいえば、そのブランドが持つ歴史、技術、そして開発担当者らの息遣いが感じられるといことだ。
最後にリセールバリューについて考えてみよう。日本でのM2コンペティションは6速MTで876万円、7速DCTで901万円。一方、シビック・タイプRはおよそ半分の450万円となる。ところがシビックは中古になると急激に価格がダウンする。先代そして先々代のシビック・タイプRの中古相場の傾向を見ると、4年後には間違いなく半額以下になるだろう。一方BMW Mに関しては、冒頭に述べたようにM3CSLのように、将来的にコレクターズアイテムとなる可能性を秘めている。まあ、クルマを楽しむ本来の姿ではないけれど、夢を見るのも悪くはないだろう。
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