クラシック・ボルボの試乗会で乗ったステーションワゴンの「240タック」(1993年式)はよかった。およそ1時間運転したに過ぎないが、その印象は強く、日数の経った今もステアリング・フィールや加速の具合を思い出せる。そのあとに試乗した何台ものクルマについてはほとんど忘れてしまっているのに、だ。
この240ワゴンはボルボ・カー・ジャパンが2016年8月に発足させた古いボルボのレストアおよび販売をおこなう「クラシックガレージ」が仕上げた1台で、コンディションは非常によかった。今頃売れてだれかの所有になっているのではないか(販売用に仕立てられている)。
ボクとボルボの思い出──極上の240ワゴンに乗って考えたボルボの魅力とは?
クルマの良し悪しをはかる基準はいろいろあるが、動力性能や装備の充実度でいえば、当然ながら、赤く四角い240ワゴンは大した内容ではない。1993年の新車時からすでに古かった。何しろ240自体は1974年に登場したクルマだ。要するに45年前に登場し、25年前に生産されたクルマである。
速くもなければ豪華でもない。面倒なことにキーをシリンダーに差し込んでエンジンを始動させなければならない。にもかかわらず、大きな径で、なおかつパワーアシストされているにもかかわらず、幾分ねっとりとした手応えのあるステアリングリムをゆっくりまわし、重めのアクセルペダルを踏み込んで首都高や一般道を走らせると、頬がゆるむ。
レーダーを発しながら先行車両を追従し、車線をはみ出さずに、ドライバーたる僕なんかいなくたって進んでいくのでは? と、思うほど高度な最新ボルボと異なり、240は操作している感が強い。
なおシートの掛け心地は良好で、ボディも十分しっかりしていて安心感があった。
古いクルマであるものの、古すぎない点もよい。走行に関する操作系は現代のクルマとなんら変わらないから、気負いなく運転出来た。
この日、240の前に乗った「122S」もその出来のよさに感心したが、とはいえなんというかフラジャイルな感じがして、大事にというかこわごわ操作した。あれでも同時代の他社のクルマより丈夫で、気難しさがあまりないのかもしれない。
それが240になると、扱い方は現代のクルマとほぼおなじでOKだから122Sより気楽だ。でも乗って感じる風味は適度に古く、いい味を出している。
クラシックガレージはボルボ本社の取り組みの日本版ではなく日本法人のオリジナルアイデアだ。ボルボ・カー・ジャパンの木村隆之社長は発足の理由を、時計の歴史を例に挙げて説明する。
「セイコーがクオーツ時計を出したとき、あまりに正確なので機械式時計メーカーはすべて潰れると言われました。しかし、実際には何百万円、何千万円もするような機械式時計が売れています。だから古いボルボも商売になると思いました」
ちなみに、現行モデルと240や122Sなどの古いモデルを同時に所有するボルボオーナーはけっこう多いという。
続けて木村社長は「電動化にせよ自動化にせよ、クルマもあまりに高機能化するとユーザーにとってはつまらなく感じるのです。理由もなく電動化、自動化が進んでいるわけではないので、大きな流れは止められないでしょう。ただし、人々の興味もおなじように移行しているとは限りません。だから、古いボルボを扱うのです。また大前提として、スウェーデンの本社が古いボルボのパーツを適価で供給してくれるからこそ可能な取り組みでもあります」と述べる。
古いモデルを所有した経験はないが、興味はあるといった旧車初心者にとって、正規販売店が面倒をみてくれるというのは安心感につながるはずだ。
それに、いきなりうんと古いクルマに挑戦するのはハードルが高いものの、240などは1990年代前半まで新車が売られていた“ちょっと古いクルマ”である。維持費は同年代製のほかの一般的な中古車とあまり変わらない。妙に身体に馴染んだ240、もっとじっくり試乗していたら自宅に判子を取りに帰ったかもしれない。
新しいボルボとちょっと古いボルボの組み合わせは、例えば平日用と休日用、あるいは仕事用と遊び用として乗り分けるのにちょうどよい組み合わせのように思う。別にどっちかはボルボじゃなくてもよいし、2台ともボルボじゃなくてもよい。ただ、おなじブランドの新旧モデルを乗り分けるのは、タイムスリップ感があって楽しいと思う。240試乗後に自身が所有する「V40」に乗り換えてそう思った。
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