■「パイナップル号」は完全自動運転で毎日走行中
日産は2019年秋から、スカイラインに高速道路で自動車線変更が可能となる高度な運転支援システム「プロパイロット2.0」を導入すると発表しました。プロパイロット2.0の登場により、完全な自動運転により近づいた印象がありますが、完全自動運転が実用化されるまでにはまだ時間がかかるといわれています。
しかし、沖縄県の一部地域ではすでに完全自動運転車が走っているようです。いったいどのような状況なのでしょうか。
完全自動運転とは、運転席に誰も座っていなくても、乗員のリクエストに応じた場所まで自動で走行するシステムを指します。実用化される時期は専門家によっても見解が異なり、2025年頃、それとも2030年頃など、さまざまな意見があります。
ところが驚いたことに、沖縄県の名護市ではすでに数多くの完全自動運転車が走っているというのです。その実態を把握するために、筆者(桃田健史)は現地に行ってみました。
場所は「ナゴパイナップルパーク」。パイナップルをメインとしたアミューズメント施設で、来場者が場内で乗っているのが「パイナップル号」です。
パイナップル号は、車体全体が黄色で塗装され、屋根の上にパイナップルのオブジェを装着したクルマですが、これが、完全自動運転車だというのです。
実はこのクルマ、ヤマハ発動機が製造している「ランドカー」という商品で、20数年前から発売されています。
自動運転の仕組みは、地中に埋めた導線に電気を流し、そこで発生する磁場を車体側のセンサーで検出しながら進むというものです。ゴルフ場のカートなどで乗ったことがある人もいるのではないでしょうか。
走行中、ハンドルは固定されていて動きません。これなら、お子さんがハンドルを握った状態でも親御さんは安心です。
ナゴパイナップルパークでは現在、自動運転用のランドカーを約30台所有しています。入場者数に応じて走行車両の数をコントロールしているそうです。
走行時間は約6分間で、走行速度は人が歩く速度より少し早い程度でゆっくりと進みます。パーク内には約200種類のパイナップルが育てられていて、車内ではパイナップルに関係するいろいろな情報がアナウンスされます。
EV(電気自動車)で排気ガスが出ないので、パイナップルにもやさしいクルマです。降車して無人となった状態では、後続車が車間距離を自動的に詰めて整列します。
こうして完全自動運転車が毎日当たり前のように運用されている現場を見て、本当に驚きました。
■サービスカーとオーナーカーの違いとは
それにしても、パイナップル号のようなクルマでは完全自動運転がすでに実用化されているのに、なぜスカイラインでは「ずっと先の夢の話」なのでしょうか。
理由は、「オーナーカー」と「サービスカー」の違いです。この呼び方は、経済産業省、国土交通省、警察庁などが自動運転について議論する際に使われる正式な用語です。
オーナーカーは直訳すると「所有車」を意味しますが、この場合のオーナーカーは個人や会社の所有車だけではなく、レンタカーやカーシェアなども含めた乗用車という意味があります。
一方、サービスカーとは、パイナップル号のような商業施設内での移動サービス、また公共交通機関などの行政サービスをおこなうクルマを指します。そのうえで、オーナーカーとサービスカーでは、自動運転の考え方が大きく違うのです。
自動運転には、レベル0からレベル5まで自動化の度合いに応じた6段階のレベルがあります。レベル2までは運転の主体は人間ですが、レベル3以上では運転の主体はクルマ側のシステムが担います。
こうした自動運転のレベルでみると、オーナーカーではレベル2までが実用化されていて、これからレベル3が徐々に拡大する段階にあります。
一方のサービスカーでは、最初からレベル4からレベル5を想定して設計されています。レベル3までは運転席にドライバーが座っている必要がありますが、レベル4以上になるとそうした条件が外れます。
以上のような考え方を踏まえて、自動車メーカー各社や各国政府は、オーナーカーはレベル3までを想定し、サービスカーは最初からレベル4以上として、かなり先の時代になればオーナーカーとサービスカーが融合する時期がくるはずだ、という仮説を立てています。
そのため、スカイラインのプロパイロット2.0はオーナーカーとして、高度なレベル2からレベル3への進化を目指す一方、パイナップル号は限られた軌道をドライバーレスで走行するレベル4で走っているのです。 このほか、アメリカのライドシェアリング大手のウーバーがボルボと提携したほか、グーグルから独立したウェイモがクライスラーなどと連携して、レベル4の公道実験をおこなっています。
これらは、使用している車両はオーナーカーですが、利用目的としてはサービスカーなので、区分としてはサービスカーに属すると考えられます。
自動運転の技術開発、そしてサービス開発はまだまだ創世記。数年先には、オーナーカーやサービスカーという用語もなくなっているのかもしれません。
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