1989年。後の自主規制値となる280psを発生した4代目Z32型フェアレディZの登場で、「モアパワー」を是とする時代は一旦ピークを迎える。
その後、バブル景気の崩壊や環境意識の高まりなどから、燃費で不利なターボエンジンおよびスポーツモデルは不遇の時を過ごすことになる。
【絶滅危惧種なのに競争激化!??】甘酸っぱい思い出を狙え!! 熱く激しい「教習車」の世界
が、フォルクスワーゲンが2006年に燃費と動力性能を両立させるダウンサイジングコンセプトを採用した5代目ゴルフを発表したことで再びターボに脚光が当たり、現在に至っている。
現在の日本には、国産車だけでもガソリンターボ=28車種、ディーゼルターボ=11車種、ハイブリッドターボ=1車種と、かなり多くのターボモデルが用意されている。軽自動車も含めれば、その数はさらに増える。かつては環境の敵といわんばかりに駆逐されかかったターボが、雄々しく復活を遂げた形だ。
今回は現行ターボモデルの登録車を主な対象とし、気になるであろうことを多角的に検証、紹介していく。ダウンサイジングタイプにトルク自慢のディーゼル、はては600ps級スポーツまで。ニッポンのターボの凄みを、存分に感じてほしい。
※本稿は2019年4月のものです
文:国沢 光宏、片岡英明、西川 淳、松田 秀士/写真:ベストカー編集部
初出:『ベストカー』 2019年5月26日号
■ニッポンのターボモデル、多事争論
気がつけば日本車ターボモデルは増え、一大勢力を築いている。それらターボに対する「これはどうなんだ?」「気になる」を、3人の自動車評論家へ直撃!
●ニッポンの2Lターボはどれほど進化したか?
(TEXT/松田秀士)
国産2Lターボといえば約30年前のスカイラインGTS-tに搭載されていた直列6気筒のRB型を思い出す。
この時代は2Lでもスポーツ系には6気筒も珍しくなかった。6気筒と、シリンダーの数が多いほどに滑らかで振動が少なかった。
しかもアクセル全開にすれば大径タービンにより、中高速域でレブリミットを越えてどこまでも伸びていきそうな鋭さ。
低回転域から最大トルクを発生する2Lターボモデルが目につくのも最近の傾向。クラウンターボは1650rpmで35.7kgmを発生
その代わり、低速域ではアクセルレスポンスに対しダルな反応。6気筒に比べ4気筒の場合は、ターボのタービンを回す排ガスサイクルが少ないのだから余計に低回転で鈍い反応。
あの頃と比べ現行ターボが大きく変わったのは、小径化してターボブーストが上がる回転域が大きく下がったこと。現行ターボモデルはわずか1500rpmという低回転域から最大トルクを発生する。
ツインスクロールターボなどという、低回転での少ない排ガスでもしっかりタービンを回せる技術が確立されているのだ。だからシリンダー数が少なく小排気量のエンジンでもストレスがない。大きな進化の部分だ。
●ダウンサイズターボは日本車の弱点なのか!?
(TEXT/国沢光宏)
欧州車に搭載されている小排気量ターボの素晴らしさは「燃費がいいこと」である。
VWにしてもBMWにしてもプジョーにしても、1.2L級のターボなら1.8L級のNAと同等のパワー持ちながら、1.5L級のNAより実用燃費よい。
日本のダウンサイジングターボだって燃費よければ大いに評価したい。けれど、今売っているエンジンを見ると、同じ出力のNAより実用燃費いいと思えぬ!
「日本車のダウンサイジングターボはイマイチ」と国沢氏。燃費が伸びないのも弱点の理由という
たとえばステップワゴンの1.5Lターボ。ライバルの2L NAと燃費比較したら、圧倒的な負け。C-HRの1.2Lターボだって1.6L級のNAエンジン搭載する同じクラスのSUVに実用燃費で届かない。
その要因は、レギュラーガソリンを使うため燃費を引き出せないのかもしれません。
いずれにしろ日本車のダウンサイジングターボがイマイチなのはガチなことだと思う。
●GT-R、NSXのターボ、世界レベルではどのあたり!?
(TEXT/西川 淳)
日本で最高のターボである、のみならず、最高出力のエンジンとしても君臨するR35GT-Rニスモ用V6ツインターボ。もっともそれは、R35という極めて特異なパッケージ思想のもとではじめて生きるエンジンではあった。
同じような理屈が成り立ち、もっと典型的であるのがポルシェ911ターボだろう。とはいえ、最大で600psというスペックそのものは6気筒クラスで世界最高級(1位はフォードGT)であり、世界に誇れるアルチザン的エンジンだ。
ポルシェ911と五分五分レベルのGT-R NISMO(上)と、物足らなさの残るNSX
右アシに感じる“フィール”では、ポルシェの「フラット6ターボ」の後塵を拝するが、車両としては五分と五分で渡り合っていると思う。
続く国産2番手はホンダNSXで、エンジン単体で507psである(総システムでは581ps)。
オーバー2000万円クラスでは、911ターボを除き軒並み8気筒以上である。ミドシップスーパーカーとしてはせめてフォードGTレベル(600ps以上)は欲しかったが……。
●もうすぐ投入。ホンダの3気筒、1Lターボの実力は?
(TEXT/国沢光宏)
ホンダの1L、3気筒ターボ、アコードにも搭載していたほど。おそらくホンダとしちゃ主力エンジンにしようと考えていたのだろう。けれど、伸び代がまったくありませんでしたね。
もし熱効率いいのなら、2モーターハイブリッドの発電用エンジンとして使う手もあったろうけれど、未採用。フォードの場合、1L、3気筒で200馬力出せるも、そんな余力残念ながらなし。
今年10月誕生予定の次期フィットに1Lターボを搭載し、ホンダの主力エンジンに躍り出る!?
熱効率もパワー出すポテンシャルも持っていなかったとホンダ自ら判断したのか?
今年秋にデビュー予定の次期フィットにこのエンジンを搭載してこなければ、実力ないということになるんだと思う。
逆にこの1Lターボをフィット用として搭載されてくるなら、ホンダの主力エンジン扱いになる可能性出てくる。
●ディーゼルターボ、「マツダvs三菱」、個性の違いはどこにある?
(TEXT/松田秀士)
クリーンディーゼルとターボチャージャーは非常に相性がいい。
ターボで圧縮比を上げるとデトネーション(異常燃焼)が起きやすくなるけれども、ディーゼルエンジンは直噴なので、ピストンが上昇してシリンダー内の圧縮が上がったところに燃料を噴射するシステム。そのためデトネーションが起きにくい性質をもともと持っているからだ。
CX-8(上)にもデリカD:5にも搭載されるディーゼルターボ。NOxの処理法や、走行システムなどに個性の違いがある
デリカD:5のエンジンはディーゼルのウィークポイントともいえるNOx(窒素酸化物)の処理に欧州車と同じように尿素SCRを採用している。一方、マツダのディーゼルは独自技術によってこれを使わずNOxをクリア。
加えてCX-8では、マツダは速度域によって大小2つのターボを使い分けている。
プラス可変ジオメトリーターボによって低回転域でもブーストを上げている。早くからディーゼルにこだわって開発してきていたので、一日の長があるといえる。
実際に走らせた印象ではどちらも互角。実用域のトルクフィールは力強い。ただ、静粛性では若干マツダに軍配が上がると思う。
●2L→18Lへなど。スバルのターボ新戦略を読む
(TEXT/国沢光宏)
スバルのターボ戦略、正直なトコロよくわからない。スバルが発表した「際立とう2020」によれば、次期型レヴォーグに1.8Lと1.5Lのダウンサイジングターボを採用するらしい。
次期レヴォーグに1.5Lダウンサイズターボを搭載とされているが、主市場の北米ではどんな反応になるか!?(写真はVIZIVツアラーコンセプト)
一方、現在ターボを必要とするのは、スバルにとって撤退を決断する瀬戸際の台数になってきた欧州のみ。日本市場を見てもダウンサイジングターボが人気という方向になっていない。ガソリンや使用環境が厳しい新興国は耐久面で使いづらいと思う。
アメリカも一時ダウンサイジングターボの方向に進むかと思いきや、燃費悪い8気筒や6気筒の代替にニーズあるだけで、4気筒のままの排気量ダウンについちゃ減少傾向にある。トランプ政権になって、その傾向は一段と強くなった感じ。
そもそもアメリカで搭載している2.5Lターボは6気筒の代替でしょうけど、あまり燃費いいというハナシを聞かない。ターボには期待したい部分はあるが、目標を定めていない感、あります。
●GRスープラ、直6ターボの○と×
(TEXT/国沢光宏)
【○】やっぱり直6のエンジンフィール、気持ちよいです。しかもBMWのエンジン、回転部分のバランスが飛び抜けていい。古い日本製の直6って理論上は完全バランスのハズなのに、気筒ごとの重量誤差やクランク強度など足りなかったため高回転域で微振動が……。
中回転域までキレイに回るもレッドゾーン近くなると「ホントに直6かよ!」とヒジョウに厳しかった。BMWの直6はホンモノを味わえる。どこまで回しても、オモチャのボールベアリング回しているような気持ちのいい「バランスのよいモノが回っている」感を堪能可能。
どこまで回しても気持ちいいけどスムーズすぎてツマランという意見も
【×】とはいえスムーズすぎてツマラン、という意見も出るんじゃなかろうか。よくできた4気筒の場合、高回転域で「むせび泣く」ような雰囲気を味わえる。もう終わりって感じです。そこがモーターと違うところ。
BMWの直6、MTじゃないためか滑らかすぎて、あっという間にレッドゾーン突入であります。官能的に薄味ですね。
【番外コラム】 年代別国産ベストターボ
(TEXT/片岡英明)
●1980年代
最初の作品となった430系セドリック/グロリアは「省燃費ターボ」をアピールしたが、すぐにパワー競争が激化する。
「ドッカンターボ」の弱点を消すためにノックコントロール機構を採用し、熱による性能低下を防ぐため、インタークーラーも装備した。
この直後に可変フラップ付きのジェットターボやツインスクロールターボも登場し、タービンの材質にも革新が相次いだ。
刺激的だったR30型スカイラインRSターボ
そんな1980年代で最も刺激が強かったのはR30型スカイラインの2000RSターボである。DOHC 4バルブにインタークーラーターボを組み合わせ、205psを発生した最終型のFJ20ET型エンジンはターボラグもあり、なんとも荒々しい。
R32型GT-Rに積まれたRB26DETTもパワフルだが、6気筒だからジェントルな味わいだ。
ハンドリングは洗練されていないが、力でねじ伏せる楽しさに満ちていた。F1の技術を用いたシティターボIIも同様だ。シビれる豪快な加速とスリリングなハンドリングがターボの存在感を際立たせていた。
●1990年代
最高出力の自主規制が敷かれ、軽自動車は上限を64psに、登録車も280psにとどめられたのが1990年代だ。
そのため最大トルクを増やすことに力を注いでいる。この分厚いトルクを支配下に置くために4WDが主役に躍り出た。
280psに到達したインプレッサWRX STi
フルタイム4WDに2LのDOHCターボを組み合わせたランサーエボリューションとインプレッサWRX STiは相次いで280psレベルに到達し、猛々しい加速を見せている。
なかでもインプレッサWRX STiのEJ20型水平対向4気筒ターボは高回転までストレスなく回り、今のクルマと違って軽量ボディだから加速も冴えていた。
4WDはメカニカルタイプだから繊細な運転を要求される。だが、意のままに走らせるようにする楽しさは格別だった。
世界初の3ローターロータリーを積むユーノスコスモのツインターボは異次元の上質なパワーフィールだった。ただし、燃費は悪かった。
コスモはシャシー性能が高かったから、山岳路でもフットワークは軽やかだった。
●2000年代
21世紀は地球に優しいエンジンが望まれる時代だ。だから近年はダウンサイジングターボが主役となっている。
環境性能を重視し、排気量も2L以下の4気筒ターボが多い。また、直噴システムを採用するターボエンジンも21世紀の潮流となっている。
そんな環境も考慮した21世紀らしいターボエンジンを探すと、真っ先に思い浮かぶのはホンダNSXが積む3.5Lの「V6ツインターボ+モーター」のハイブリッドだ。これぞ21世紀のターボといえる。
しかしこれは2010年代のクルマで、2000年代には存在しなかった。よって2007年に登場した日産GT-Rを選ぶことにする。
現在も販売されるR35GT-Rが選出された
3.8LのV6ツインターボはパワフルで、しかも過激だ。荒々しかった乗り味も年々改良されていった。
また、三菱のランサーエボリューションXが積む2Lの直4ターボも好印象だった。
ツインクラッチSSTとの相性もよく、リズミカルな変速を楽しめる。ハンドリングは今でも充分、通用するレベルにあった。
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