今はクルマだけに限らず、無駄を省き、高効率化を図る合理化の時代だ。自動車メーカーが積極的に車種整理、グレード整理している昨今だが、かつては数で勝負したクルマも存在した。
数は多いほうが偉い、という発想は短絡的だが、自動車メーカーが数を追求する場合のほとんどは、ユーザーのニーズを鑑みてなのだ。
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バカなことやってるな、とか無駄と言われようが、ユーザーのニーズに応えるために数で勝負した、その発想、その努力、実際に市販化した行動力のすべてを讃えたい。
合理化の推進により、遊び心のなくなってきている現在の日本に復活してほしい発想だ。さて、どんな数勝負が登場するか?
文:永田恵一/写真:HONDA、TOYOTA、NISSAN、MITSUBISHI、ベストカー編集部
数が多ければ偉いわけではないが、その発想は合理化時代の今こそ必要!?
実用品でもあり趣味の対象でもあるクルマは、選択肢に代表される「数の多さ」が魅力になることもある。
そこで本企画では必ずしも数が多ければいいという訳ではないにせよ、いろいろな分野で「数の多さ」を追求したクルマを振り返る。
乗車定員を増やしたい→前席3人掛けシートで勝負
1980年代まではステアリングコラムに置かれるシフトレバーなどとのセットで、前席を間のないベンチシートとした前席3人掛けシートはタクシーを含めた商用車、1BOXカーでは珍しくなかった。
フロント3人掛けシートは乗車定員が増える、仲のいい仲間で乗る際の雰囲気のよさなど、なかなかいいものだったのだが、1990年代に入り安全性に対する法規が厳しくなると、目にすることが減ってしまった。
そんな状況下に2列シートで前席3人掛け、乗車定員6人を実現したのが1998年登場の日産ティーノとフィアットムルティプラ、2004年登場のホンダエディックスであった。
エディックスの3人がけフロントシートは真ん中のシートが若干後方に配置されていたため、V字となっていたのが特徴で、小さい子どものいる夫婦に最適とされていた
前席3人掛けとした手法はムルティプラが1870mmという広い全幅に独立した3つのシートを置く、ティーノはオーソドックスなベンチシート、エディックスは3つのシートは独立させ、中央席はVの字のようにスライドさせ左右の空間を確保すると、三車三様で面白かった。
しかし3列シートミニバンの台頭や5ナンバー幅のコンパクトミニバンでも充分使える3列目シートを持つようになるという時代の変化、技術の進歩もあり、今では残念ながら前席3人掛けシートは安全基準が緩い商用1BOXバンで見るくらいになってしまった。
いっぱい人が乗れるクルマ→普通免許限界の10人乗りで勝負
核家族化が進んでいる昨今であるが、大家族や三世代、グループで移動する際には3列シート8人乗りのミニバンやSUV以上に人が乗れるクルマというのはありがたい存在だ。
現在日本の普通免許で運転できる最大の乗車定員は10人で、それに該当するのがトヨタハイエースワゴンと日産NV350キャラバンワゴンである。
シート配列はハイエースワゴンが2-2-2-4、キャラバンワゴンが2-2-3-3でどちらも10人乗りとなる。
ハイエースワゴンは2.7Lガソリンエンジンを搭載し、乗車定員は普通免許で運転できる限界の10人を実現。長い全長を生かしてシート配列は4列となる
日産のキング・オブ・商用車のNV350キャラバンもハイエース同様に10人乗りを設定。ワゴンはすべて10人乗りで、エンジンはVQ25DEを搭載
ボディはハイエースワゴンがワイド幅+ロングボディとあのグランドキャビンが使う日本ミニバン界のボスキャラ的存在となるワイド幅+スーパーロングボディ、キャラバンは乗用車の5ナンバーサイズに収まる標準幅+ロングボディとロングボディの全長だけ伸ばし全幅は狭いままのスーパーロングボディという、2台のコンセプトの違いも面白い。
もし10人で荷物も多い長距離の移動をするというのなら、やはりシート後方に人数分の荷物もシッカリ入るラゲッジスペースも持つハイエースワゴンのグランドキャビンが理想的だろう。
エンジンはハイエースワゴンが2.7L、キャラバンも2.5Lのガソリンのみで、クルマの性格も今後考えるとディーゼルも設定されるとうれしい。
ハイエースワゴンの10人乗りの室内。運転席、助手席は映っていないが、シート配列は2-2-2-4の4列シート10人乗りを実現。凄いのはそれでもまだスペースがあること
いろいろな色を楽しんでほしい→想像を絶するボディカラー数で勝負
一時期は納期の短縮や生産の効率化といった理由で内外装色の選択肢がホワイト、シルバー、ブラック、グレーに代表される無難なものしかないクルマをよく見たという時代もあった。
しかし現在は生産時に黒や白のルーフなど手の込んだツートンカラーを選べるクルマも珍しくなく、新車を買う大きなメリットである選択肢は広くなっている傾向だ。
だが一種の実験車、リサーチカー的な目的も担っていた初代RAV4にあった自分好みの内外装を細かく選べるパーソナルセレクションの選択肢の広さはそんなレベルではなかった。
特に初期のものではボディカラーがボディ上部の鉄板部分12色、ボディ下部の樹脂部分11色の掛け算で131通り、インテリアもシートの柄やカラー、ドアトリム、カップホルダー、ドアグリップ、フロアカーペットといった細部のカラーも選べ、組み合わせはおそらく1億通りを超えていただろう。
後半のものではさすがにボディカラー40通り、インテリア20通りの掛け算で合計800通りまで選択肢は簡略化されたが、800通りでもほとんどの人は決めるのに困るくらいの選択肢の広さだ。
ボディカラーが多いと言えばほぼ注文生産で販売されていたいすゞビークロスもそうで、こちらは25色が設定されていた。
こういった広い選択肢は相応の費用や納期が掛かるものだが、それだけに特に趣味性が高く、注文生産に近い高額車ではもっとあってもいい取り組みだ。
いすゞビークロスは販売面で苦戦し、ほとんど受注生産のようになっていたこともあり、モデル末期にはボディカラーを25色設定。これはユーザーも大歓迎!
ユーザーのニーズに細かく応えたい→仕様の多様化で勝負
内外装のカラーの選択肢の広さに近い話なのだが、クルマ自体の仕様を注文時に細かく選べるクルマというのもあった。
そのひとつが2002年登場のコンパクトカーである三菱コルトに採用されたカスタマーフリーチョイスだ。
2002年にデビューした三菱コルトに初採用されたカスタマーフリーチョイスはユーザーのことを考えて設定されていたが、選ぶのが面倒というユーザーもいた。もったいない
コルトには普通のクルマのグレード的な推奨パッケージも設定されたのだが、カスタマーフリーチョイスはスタンダートな仕様に1.3Lと1.5Lのエンジン、ボディカラーを含めたエクステリア、内装色やセパレートシートかベンチシートかといったインテリアを選んだり、装備品のオプションを加えることで自分に合ったクルマを造っていくというものである。
なお三菱のカスタマーフリーチョイスは翌2003年に登場したミニバンのグランディスにも設定された。
カスタマーフリーチョイスのような選択の元祖と言えるのが、前述の初代RAV4のような実験車的な要素や高い趣味性を持つ1970年に登場したスペシャルティカーである初代セリカのフルチョイスシステムだ。
日本の元祖スペシャルティカーのトヨタセリカは、フルチョイスシステムを採用していた。復活デビューする新型スープラでもチャレンジしてほしいくらい
普及グレードに適応されたフルチョイスシステムは3種類のエンジン&トランスミッション、ボディカラーに代表されるエクステリア、8種類のインテリアを組み合わせて自分のクルマを造っていくというもので、フルチョイスシステムはこの頃からコンピューターが発達してきたからこそ実現した取り組みだったという。
度合いによっては自分のクルマの仕様を考えるのが苦痛という人もいるにせよ、選択肢の広い内外装のカラーと同じように、費用と時間を負担する人向けに復活を望みたいシステムだ。
いろいろなエンジンが選びたい→エンジンバリエーションで勝負
エンジンバリエーションが多いクルマ、少ないクルマというのは今も昔もあるが、「同じクルマで直6とV6のような同じ気筒数で、エンジンのサイズはまったく違うものがある」というクルマはなかなかない。
その数少ない例がかつての日産車で、ひとつ目が1983年登場の3代目フェアレディZである。3代目フェアレディZは当時日産が「新世代のエンジン」として開発したV6でスタートしたのだが、モデルサイクル中盤で新しくなった直6も追加。
排気量の違うエンジンをラインアップしているケースはよくあるが、フェアレディZはマイチェンで3L、V6に加え、2L、直6ターボを追加して人気となった
3代目フェアレディZは次の4代目モデルでエンジンはV6のみとなったものの、もっとすごかった(ヒドかった?)のは1983年登場のY30型以降のセドリック&グロリアだ。
Y30型は3代目フェアレディZと同様にV6を中心としたのだが、「ディーゼルは直6しかない」、「4WDとの組み合わせは直6としかない」といった事情で、とうとう2004年に姿を消した最後のセドリック&グロリアとなったY34型まで同じクルマにV6と直6がラインナップされていた。
近い例としてはトランスミッションの関係で同じクルマでエンジン縦置きと横置きがあったホンダZとホンダバモス、ルノー21がある。
こういったクルマはいろいろ事情はあるにせよ、「初めの計画性やコンセプトが甘い」と言われても仕方がない面がある。
特にセドリック&グロリアの場合は1990年代の日産の低迷期を招いたポリシーの弱さの象徴のような一例と言えるかもしれない。
「いろいろなモノを設定する」というのは手間やコストがかかることだけに時代の豊かさの象徴とも考えられ、景気がよくなってバリエーションの多いクルマ業界が再び訪れることを望みたい。
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