高級車の世界でSUVが、確固たる地位を築きつつあることは確かだ。ある意味、その象徴とも言えるのがこのカリナンではないだろうか。ロールスロイスの長い歴史でも初物づくし。その真の価値は果たしてどこにあるのか。(Motor Magazine 2019年5月号より)
心臓部は直噴V12ツインターボ6.75リッター
ハッチバックボディで四輪駆動のSUV・・・と、ロールスの長い歴史においてもカリナンは初物尽くしのクルマだ。そのプラットフォームはアルミスペースフレームをもとに構築されたロールスいわく「アーキテクチャーオブラグジュアリー」を現行ファントムに次いで用いており、外板もそのほとんどがアルミとなる。全長5340mm、全幅2000mm。日本に正規輸入されるSUVの中では当然ながら最大級のサイズだ。
サスペンションは前ダブルウイッシュボーン、後5リンクの組み合わせで、大容量マルチエアチャンバーにより190mmの標準地上高を上下させる。230mmの側はオフロードボタンを押した際に、乗降用ともいえる150mmの側はキーフォブの解錠ボタン二度押しで作動させることも可能だ。230mmの状態では渡河深度は540mmが確保される。
搭載されるエンジンはファントムと同じ6.75Lの直噴V12ツインターボで最高出力は571ps、最大トルクは850Nmを1600rpmで発生する。一定の悪路走行を前提に低回転域での使いやすさや粘り強さを重視したセットアップだ。動力性能的には最高速がリミッターによって250km/hに抑えられ、0→100km/h加速は5秒となっている。
組み合わせられるトランスミッションはZF製の8速AT、彼らにとって初めてとなるフルタイム4WDのトランスファーは電磁マルチプレートクラッチを介して、前後駆動配分をほぼ0:100の後輪駆動的な状況から、最大で50:50までリニアに配分する。
また、オフロード走行時のドライブモード設定は基本的にセンターコンソールのオフロードと書かれたボタンひとつで完了し、スロットルマップや変速制御、ダンパーレートやDSCによるLSD効果などの設定が悪路用に最適化される格好だ。ドライバーの負荷を限りなく無にするという発想がロールスらしいが、社内ではこのオフロードボタンのことをEverywhere=どこでもボタンと称しているという。
ドライバーの意思を反映するファンな一面もしっかりキープ
一方で、こと細かに自分で設定したいというドライバーに向けては、砂漠や雪路などシビアな低ミューの路面状況に応じてトラクションコントロール、DSCのオフが個々に設定できる。ほかに、オフロードモード設定の上でDSCオフ、そしてトランスミッションの低いギアを積極的に用いるローモードをオンにすることで、2速ギア固定のオフロードエキスパートモードに入り、雪路でのフルカウンターなどドライバーの意志で積極的に向きを変えるロジックも仕込まれている。
上下分割型のゲートを備えた荷室容量は後席が電動で倒せる3人掛け仕様で600~1930L、そしてガラスパーティションが後席と荷室の間に設けられる後席2人掛け仕様では526Lとなる。ファントムのように肩周りの包まれ感が加わった着座感はさすがに3人掛けとは違い、SUV離れしたロールスらしいラグジュアリー性に満ちていた。
本来なら悪環境でこそ真価を発揮する設えだろうと思いきや、カリナンの走りの芸域の広さは一般道でも顕著だ。ロードノイズなどの音源から遠いということも作用してか、静粛性をはじめとする乗り心地の良さについてはファントムにほど近く、ゴーストに勝るところにある。なんにせよ、浮世離れした快適性に違いはない。
ドライビングダイナミクスはワインディングからオフロードまで、およそロールスらしからぬ場面でもまったくストレスのない振る舞いに躾けられている。無論、カリナンが想定する悪路は岩場や泥沼など限界性能が試されるクロカン的セクションではない。それは他のクルマの役割と、潔く割り切られている。
が、それ以外では魔法の絨毯を広げる場を問われることはない。地球のあらかたの環境で、圧倒的な寛ぎをもって乗員を目的地へと送り届けることができる。そこがカリナンの図抜けた価値だ。(文:渡辺敏史)
■ロールスロイスカリナン主要諸元
●全長×全幅×全高=5341×2000×1835mm
●ホイールベース=3295mm
●車両重量=2750g
●エンジン= V12DOHCツインターボ
●排気量=6750cc
●最高出力=571ps/5000rpm
●最大トルク=850Nm/1600rpm
●駆動方式=4WD
●トランスミッション=8速AT
●価格=3864万5000円(税込)
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