他社を圧倒する研究開発費を用意できるトヨタ。が、それとてお金に限りあることに変わりはない。最先端技術の開発に関しても、明確に優先順位が決められている。
そこで、トヨタがトップに立てていない分野はどれなのか、8つのカテゴリーで、3人の評論家に検証してもらった。とくとご覧あれ。
【新型ハイエース最新情報!!】「あの新型」は本当に新型ハイエースなのか??
※本稿は2019年1月のものです
文:国沢光宏、鈴木直也、斎藤聡/写真:ベストカー編集部
初出:『ベストカー』 2019年2月26日号
■EV技術についてはトヨタはいま「アイドリング中」?
(TEXT/鈴木直也)
今現在、トヨタにモデルが存在しない以上、EV技術ではリーフを擁する日産に負けていると判断する人もいるだろう。「トヨタはハイブリッドにこだわるあまり、EV時代に出遅れた」とか、トンチンカンな記事を書いている一部の経済誌もある。いったいどこに目を付けているのか。
EVのコア技術は電池、モーター、インバーターの3つだが、これらはすべてトヨタのハイブリッド車に搭載されていて、すでに累計1000万台以上、年間コンスタントに100万台以上が生産されている。これらの技術と生産能力をEVに転用すれば、トヨタはすぐに世界最大級のEV生産メーカーになれる。トヨタは意図して、まだEV市場に進出していないだけだ。
では、なぜEVを作らないのか。世界中どのマーケットでも、まだEVには本格的な需要がないからだ。こういうことを言うと「テスラやリーフを見ろ!」と反論する人が現れるが、この両車がまともに利益を上げていると見る業界関係者はほとんどいない。
もちろん中国市場だけは政府の規制があるからEVを一定数以上作る必要があるが、これも現状では赤字確実の事業。そこを何とかうまく着地させるため、マツダやデンソーなどと「EVCAスピリット」という合弁事業を立ち上げて開発を行っているわけだ。
長期的な視点ではEV化が進行することは誰にも否定し難い事実だが、トヨタが全力を投入するのは今じゃない。本格的なEV市場が立ち上がったとトヨタが判断した時、EVCAスピリットが開発中の多種多様なEVが一気にデビューすると予想します。
■ハイブリッド技術は、総合的にみればやはりトヨタ?
(TEXT/国沢光宏)
現在最も燃費のよいハイブリッドといえば、ホンダの2モーター式にほかならない。クラリティPHEVのハイブリッドモード、カムリHVを大きく凌ぐ。ステップワゴンの実用燃費だってノア3兄弟の実用燃費より優れてます。
やはりシリーズハイブリッド+高速巡航用直結駆動システムは素晴らしい。直結駆動を行っていない日産e-POWER、効率じゃホンダだけでなくトヨタ式ハイブリッドにも届いておらず。
ではなぜe-POWERが売れるかといえば、ドライバビリティです。クルマの場合、燃費だけじゃなく走る楽しさが大切。
トヨタ式ハイブリッドはアクセル踏んでから最大出力になるまでのタイムラグ大きい。特に厳しいの、電池容量小さいアクアです。ノートと乗り比べたら誰だってノートに軍配を上げるだろう。ドライバビリティという点で、トヨタのハイブリッドは少し古くなってきてしまった。
しかしここに価格というファクターを加えるとどうか? 燃費で勝るホンダの2モーター式が脱落。燃費差で価格差をカバーできないほど高い。e-POWERはノート級ならネガを感じないが、セレナ級になると少しばかりパワー的に物足りなくなってくる。
以上を総合して評価すると、トップはやはりトヨタのハイブリッドかと。2位はホンダ。3位に日産としておく。次点は三菱。アウトランダーのシステムは優秀です。
■予防安全技術は、じつはトヨタの普及率には“ムラ”がある
(TEXT/国沢光宏)
予防安全技術で最も大切なのは、絶対的な性能もさることながら、やはり普及率だと考える。現在トヨタが採用している予防安全技術を見ると、いまだにすべて同じレベルになっていない。例えばプリウス。マイナーチェンジしたモデルを見ると「歩行者対応自動ブレーキ。昼」と書いてある。なぜ昼と書いてあるかといえば、夜も歩行者を検知してブレーキかけるシステムが、トヨタ車のなかに存在しているからにほかならない。
現時点で日本最高性能の自動ブレーキシステムは、アルファードやクラウンが採用している夜間の歩行者まで検知可能な新世代の『セーフティセンス』なのだけれど、全モデル対応になるかと思ったら、そうじゃなかった。おそらく、さみだれ的に採用されていくんだと思う。
そんなトヨタと対照的なのがマツダで、フルモデルチェンジやマイナーチェンジだけでなく、年次改良モデルにまで最新の自動ブレーキシステムを採用していってます。
ということで、日本で最もレベルの高い予防安全技術はトヨタが構築しているものの、ほぼ同等レベルのシステムを全販売車に展開しているマツダのほうが、メーカー全体としては上だと考える。トヨタ、2位ですね。3位は性能こそマツダレベルながら、採用車種でトヨタを大きく下回る日産としておく。
参考までに書いておくと世界での最高レベルは、危険を検知したら自動ハンドルで避ける制御を積極的に採用し始めているボルボであります。
■スポーツエンジンは市販版とハイエンドモデルで顕著な違い
(TEXT/斎藤聡)
スポーツエンジンといってまず挙がるのは、GT-RのVR38DETT型3.8L V6ツインターボと、NSXのJNC型3.5L V6ツインターボだろう。パワーではGT-Rだが、NSX2019モデルを試乗して、あらためてエンジンのハイパワーでありながら素晴らしくフラットなトルク特性に感心した。技術というキーワードを入れるのであれば、1位=NSXのホンダ、2位がGT-Rの日産だ。
ほかにもシビックタイプRの2L直4ターボ、ロードスターの1.5L直4、同じくロードスターRFの2L直4、そしてスバルWRXの水平対向4気筒ターボ、BRZのFA20型もいいエンジンだ。
これに対してトヨタ(含むレクサス)はどうかというと、スープラはBMWだし、86のエンジンもスバル製(直噴技術でかなりエンジン開発にも関与しているから、半分くらいはトヨタ製といってもいいが)。レクサスにはRC FとGS Fに搭載される2UR-GSE型5L、V8があるが、アクセル操作に対する応答の繊細さはイマひとつ。
順位をつけるとすると、3位はマツダ。アクセル操作とエンジンのピックアップがみごとに一致するチューニングの巧みも加点要素。4位にスバル。5位がトヨタだ。
ただしこれは市販エンジンの評価。純粋に高性能エンジンの開発技術でいったら、世界のレースを沸かせた実績が示すとおり、ホンダ/トヨタは甲乙つけがたい同率1位だ。
■トランスミッション技術…ATについてはトヨタ、しかし総合的にはホンダ
(TEXT/斎藤聡)
トヨタはATに力を入れており、排気量によってCVT、スポーツモデルにMTといった使い分けをしており、DCTに関しては積極的でない。
実際、未来のトランスミッションともてはやされたDCTだったが、大トルク車ではクラッチ保護のためにクラッチ断続がすばやくできないことがあり、現在では必ずしもDCTだからすごいという空気はなくなっている。
それよりもロックアップポイントを低くし、いち早くダイレクト感のある多段ATを採用したレクサスIS Fの先見性は、今こそ評価されるべきものだろう。
現在ではレクサスLCやLSに10速ATを搭載するなど、ATに関しては一歩先を行っている感がある。
これに対する国産ライバルメーカーというと、やはりホンダだ。
ホンダは内製のトランスミッションの開発が盛んで、エンジンを生かすためのトランスミッションという思いが強いのだろう。NSXには9速DCTが採用されているし、北米ではアコードに10速ATが搭載されている。MTにおいてもシビックタイプRにレブシンクロMTが搭載されている。これもMTを乗りやすくする、ひとつの進化といえるものだ。
エンジンの性能を引き出すために最も効率がよいトランスミッションを開発し、搭載するというホンダの姿勢がうかがえる。
以上、トランスミッションに関しては、順位をつけるとするなら1位はホンダになると思う。トヨタは2位だ。
■シャシー開発技術はマツダやスズキをぜひ見習ってほしい!
(TEXT/鈴木直也)
ライバルと比較してトヨタのシャシー技術が上か下か、それをひと括りに議論するのは難しい。
レクサスは価格レンジを考えても欧州プレミアムとガチの勝負をするわけだから、使われているパーツ一点一点を見ても、ハイエンドそのもの。国産同士で比較したら、素直に「技術力はトップクラス」といえる。
日産でいえばフーガ/スカイライン、ホンダではレジェンドあたりが唯一の対抗馬だが、ハイエンド車のシャシー開発力に関しては、トヨタの力量が抜きん出ている。コストをかけられるジャンルのクルマは、お金のあるメーカーがやっぱり強いのだ。
ただし、トヨタは無駄なコストを嫌う会社だから、価格セグメントが下がってくると様子が変わってくる。
トヨタにとってカムリやハリアーは数ある車種のなかのいちミドルクラス車だが、マツダやスバルなど、持ち駒の少ない会社では社運を賭けた主力車種。やはり一車種に賭ける思いの熱量が違う感じで、それがシャシー技術やハンドリングの作り込みに反映しているように思える。
アテンザやレガシィとカムリを比較すると、どうも走りに「キャラが立っていない」物足りなさがある。
この傾向はさらに安いクルマになるとより顕著。エントリー車種のヴィッツなどでは、作りやすさを重視したストラット/トーションビームのありふれたシャシーばかりで、実際の走りも平凡そのもの。安くても楽しいデミオやスイフトを、ぜひ見習ってほしいと思います。
■FCV(燃料電池自動車)技術…ホンダとトヨタで「オールニッポン」を!
(TEXT/国沢光宏)
そもそもFC(燃料電池)技術を現在進行形で本格的に行っているのはトヨタとホンダしかありません。日産も開発しているようだけれど、事実上休眠状態。市販モデルに落とし込もうという雰囲気はないです。
ということでこの技術分野は事実上、トヨタvsホンダという図式になる。いや、もう少し加えておくと、ホンダの場合、GMと組んでFC開発してます。単独で開発しているトヨタと少しばかり事情違う。といったことを前提に話を進めていきたい。
少しばかり専門的な話になるが、クラリティに搭載されているFCとMIRAIのFCの大きな違いは、水素と酸素の反応温度。トヨタは低く、ホンダは高いです。だから走行中、MIRAIは水を排出するのに対し(全開で走ると路面に水の痕跡残す)、クラリティは水蒸気。FC本体のサイズや出力を考えれば優劣ないのだけれど、専門家からすればこのあたりが面白いそうな。私は耳年増なだけで本質がよくわかりません。念のため。
しかし個人的な意見だけれど、生まれたばかりの赤ちゃんであるFC技術の優劣を決めるのはナンセンスだと思う。なので優劣はつけない。
実際、トヨタもホンダもFC研究陣はお互いに敬意を表している。まだ戦うレベルじゃなくお互い頑張っている状況。可能ならホンダも海外への技術流失になるGMと組むんじゃなく、トヨタと組んでオールジャパン体制としてほしい。世界ツートップの両社が組んだら、世界をぶっちぎれるFCになると思います。
■クリーンディーゼルはやはりマツダ
(TEXT/鈴木直也)
トヨタほど巨額の研究開発費を使うメーカーが、ディーゼルに関して遅れをとっているとは思わないが、残念ながら市場環境が変わった。
乗用ディーゼルの本場は欧州だが、昔はトヨタがミニ用のディーゼルを供給していた時代もあったのに、最近は逆にBMWからのOEMをレクサスISに搭載するといった状況。
きっかけとなったのは、もちろんVWのディーゼルゲート事件だが、あれ以降とりわけ欧州市場でディーゼル車の販売が減少。厳格化された環境規制によって排ガス浄化システムのコストもうなぎ上りで、欧州におけるディーゼルは採算の取れない事業になりつつあるのが実情だ。
対照的に、この市場環境の激変前に一定のシェアを取れたことがマツダにとっては幸運だった。とりわけ国内市場ではディーゼルはマツダのほぼ独占市場。いわゆる「最後の1席」を確保したわけだからライバルが新規に参入することもなく、とうぶんマツダの安定飛行は続くと思われる。
この明暗を分けたのは、マツダが独自に開発した低コストな排ガス処理技術だったわけだが、ここはトヨタとしても「一本取られた」というのが本音。乗用ディーゼルを背水の陣で開発していたマツダと、本命はハイブリッドでディーゼルは傍流と考えたトヨタでは、開発者のガッツが違っていたのかもしれない。
国産ディーゼル技術をランク付けするとしたら、やっぱりマツダが大差でトップ。いま国内で買えるトヨタの乗用ディーゼル車というと1GD-FTV型搭載のプラドくらいだから、しょうがないね。
【番外コラム】 現在のトヨタは「80点主義」!? トヨタのクルマ作りを考える
(TEXT/鈴木直也)
トヨタの「80点主義」については昔から議論があって、つまりは「80点取れれば充分」という現実論と「100点を目指さないのはガッツがない」という理想論のせめぎあいだ。
高度成長期の日本では、たぶん後者の理想論に共感する人が多かったんだと思う。トヨタの保守的な開発手法はクルマ好きには物足りなかった。だから「80点主義」という、なかば揶揄するような表現が生まれたわけだ。
21世紀の今日ではどうだろう。昔からトヨタは顧客満足度を大事にしてきた。ユーザーニーズがどこを向き、コストパフォーマンス的にどのレベルの商品を求めているか。最近はそこを精密に予測したクルマ作りに、さらに磨きがかかっているように思われる。
だから、コストに糸目をつけなくなった最近のレクサスも、あえてBMWの協力を仰いでスープラを復活させたのも、そこにユーザーニーズがあるとトヨタが判断したから。長年磨き上げた商売の勘がそう判断しているわけだ。
開発の現場の人たちを見ていると、最近のトヨタは以前より攻めている印象があるが、つまりは最近のユーザーはそういう「攻めたクルマ」を望んでいるということ。昔のトヨタは誰にでも好かれる八方美人だったが、これからは好き嫌いが分かれても、トンがったクルマ作りに変わってゆくんじゃないでしょうか。
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