スバルの4ドアセダン「WRX STI」の特別仕様車「TYPE RA-R」は、2018年7月19日(木)に限定500台で発売となるや、数時間で完売となった伝説の国産車である。500万円(正確には499万8240円)という高額にもかかわらず……。その魅力はどこにあるのか。もはや新車では手に入らないが、広報車は残っていた!
タイプ RA-Rというと、かつて2006年に「インプレッサWRX STI spec C Type RA-R」というモデルを限定300台で売り出している。「走りだけをとことん研ぎ澄ました『究極のロードゴーイングGDB』」が、うたい文句で、“RA”とはRecord Attempt(記録への挑戦)をあらわし、最後の“R”の文字にはラジカル、レーシーといった意味を込めたという。2013年には「WRX STI tS TYPE RA」というGVB型(3代目インプレッサ)ベースのコンプリートカーを、これまた限定300台つくっている。
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でもって、今回のVAB型(現行WRX)をベースとするタイプ RA-Rも、これまでとおなじく軽量化にこだわっている。いわく、「軽さ」「速さ」「愉しさ」をテーマに、クルマの本質である「走る・曲がる・止まる」という性能を極限まで突き詰めた、というのだ。
グラム単位での軽量化の積み重ねによって、かつて限定販売されたWRXベースのハイパフォーマンスカー「S207」や「S208」比で約30kg、ベースモデルのWRX STI比で約10kgの軽量化を達成、そこにS208とおなじ「EJ20バランスドBOXER」を搭載し、S208を上まわるパワー・トゥ・ウェイト・レシオを実現したというのがミソである。
タイプRA-Rは、スバルのモータースポーツを統括する子会社STI(スバル・テクニカ・インターナショナル)の手によるSTI史上最強のコンプリートモデルであり、STI創立30周年記念モデルでもある、というのはアニバーサリー好きにはこたえられないかもしれない。
ではあるものの、試乗車は一見地味である。なるほど10mm低められた車高はただならぬ雰囲気を醸し出してはいるものの、カタログモデルのWRX STIだってフロントのオーバーフェンダーやボンネットに設けられたエアスクープとかに、1990年代のWRC(世界ラリー選手権)で大活躍したインプレッサWRX直系のみが持つ迫力がある。
しかしながら、タイプRA-Rの場合、フロント・フードを開けると、一目瞭然。その裏のインシュレーターが取り去られている。フロア下は覗いてないけれど、アンダーカバーもない(はずである)。ドアミラーはドライカーボンが上から貼ってあるのではなくて、ドライカーボン製に取り替えられている。ウォッシャーのタンクが4.0リッターから2.5リッターに縮小されている、というのはまさにグラム単位の取り組みだ。
ポップアップ式ヘッドランプウォッシャー、リア間欠ワイパー&ウォッシャー、リアフォグランプ、後席センターアームレスト(カップホルダー付き)、スペア・タイヤも廃止されている、というようなことはあとから知った。これだけやって10kgの軽量と思うと、労多くして……という感じがしないでもないけれど、ツギハギのプラットフォームが重くなっているのだから致し方ない。
高精度なエンジン
ガッチリしたフィールのクラッチを踏み込み、これまた手応えのある6速マニュアルのギアボックスをローに入れて走り出す。乗り心地は硬い。硬いけれど、野蛮ではない。横浜のみなとみらい地区は埋立地だからか、意外と道が荒れていて、低速ではボディが上下に揺れる。ところがそうやって揺れているにもかかわらず、ボディのしっかり感はすこぶる高い。おかげで、路面の凸凹を押しつぶすようにフラットに走ること、ドイツ車のごとし、である。戦車のごとし、というフレーズすら浮かんだ。
一般道から首都高速に上がると、硬いという印象は消え、しなやかで強靭なモノに乗っている感に支配される。これにはカヤバの倒立ダンパーと、国内初登場のミシュラン社製の「パイロット・スポーツ4」が効いているらしい。STIがニュルブルクリンク24時間レースへの挑戦から得たノウハウが注ぎ込まれてもいる。
2008年を最後にスバルがWRCから撤退すると、STIは活動の舞台を年に1度のニュルブルクリンク24時間レースに移す。現行WRX STIでは、発売開始された2014年から参戦し、2015年、2016年、2018年とクラス優勝(2.0リッター以下のターボ車)を達成している。また、S207とS208にドライカーボン製のルーフとリアスポイラーを採用した「NBR CHALLENGE PACKAGE」を設定したりしてもいる。開発の舞台がニュルブルクリンクの高性能モデルであれば、ドイツ車と似てくるのも当然かもしれない。
とはいえ、スバルにはスバルをスバルたらしめている心臓、2.0リッター水平対向4気筒ターボのEJ20型ユニットがある。わけてもタイプRA-RにはS208とおなじ「EJ20バランスドBOXER」が埋め込まれている。
STIのリリースによると、レースカー同様に回転精度にこだわったエンジンで、量産比で重量公差を50%低減したピストンとコンロッド、回転バランス公差を85%低減したクランクシャフト、おなじく回転バランス公差を50%低減したフライホイールとクラッチカバーを、ひとつひとつ選択して組み込んでいる。
想像してみてほしい。納入された数多の部品をひとつずつ計測している職人の姿を。思わず、井上陽水の「人生が二度あれば」が、浮かんでしまう。顔のシワは増えていくばかり……。いやもっと若い人がつくっているのかもしれないけれど、職人的労働こそ尊ばれるべきである。職人的といえば、ユーチューブで見られるSTIのNBRチャレンジはどこか職人の集団を思わせて感慨深い。
EJ20バランスドBOXERは329ps/7200rpmと432Nm/3200~4800rpmを発揮する。ノーマルは308ps/6400rpmと422Nm/4400rpmで、これにしたって2.0リッターの過給機付き内燃機関としては第1級の数値だけれど、RA-Rのボクサー4は800rpmも余分にまわる。回転精度にこだわった成果だろう。
パワーアップは排気系と吸気系、両方の進化の賜物という。内部構造を一新したマフラーの採用により、排気システムの通気抵抗を量産車比約60%低減した。結果、出力向上だけでなく、レスポンスに優れた加速、さらにこもり音の少ない伸びやかなサウンドの愉しみも生み出している、とSTIのホームページに書かれている(リリースだったかも)。
また、ボンネットからの空気流入経路を補強するシュラウド(覆うもの。幕)を取り付け、空気の流れを確実なものとし、インタークーラーの冷却効果を高めた。これは「私たちがレースで獲得した成果のひとつ」だそうである。
異様なのは、異例に振動が少ないため、ちっとも猛々しくない。WRCとニュルブルクリンクで鍛えられし機械のみがもつ血(は流れていないけれど)のようなものが流れているはずなのに、左右のピストンが互いの力を消し合う、別名「ボクサー・エンジン」の特性によって直列4気筒のような振動を発生しない。ボクサーといっても矢吹丈みたいな野生児ではなくて、緻密なホセ・メンドーサ・タイプなのだ。
アイドリング中の鼓動は、息をひそめた野獣を思わせる。なのに、そこから速度が上がるほどにスムーズになる。フルスロットルを試みると、強固なボディの前半部分がすっ飛んでいく感覚がある。電子制御の4WDであるにもかかわらず、前輪駆動ベースである素性を隠さない。もちろん、一般道における全開なんてのは一瞬の出来事で、その性能はほとんど余裕たっぷりに走るために使われる。
ボクサー・エンジンならではの低重心と11:1のステアリング・ギア比でもって、タイプRA-Rはスイスイ曲がる。たとえ渋滞になっても、実際、横浜~東京の復路は渋滞に出くわしたのだけれど、300psオーバーのスポーツ・サルーンのマニュアルの3ペダル車なのに、それが欠点となりそうな場面でも欠点と感じない。操作系の手応えが心地よい範囲の手応えである。
というようなわけで、職人仕事に裏打ちされたWRX STI タイプRA-Rは、スバルのモータースポーツ活動直系のコンプリートカーとしてスバリストから熱い支持を受けている理由が筆者なりに理解できたのだった。2019年早々に、STIは初の北米市場向けSシリーズとなる「S209」をデトロイト・ショウで発表している。北米用WRX STIの2.5リッター・ボクサーをSTIが341ps(開発目標)までチューンしたエンジンを搭載すると伝えられている。かくしてSTIブランドは世界展開へといよいよ乗り出したわけだ。
じつのところ、ベース車両のWRX STI、386万6400円だって、十分いいクルマであると筆者は思う。本家インプレッサはすでに新世代のプラットフォームに移行するなか、WRXのみは1992年発売の初代インプレッサ以来、熟成に熟成を重ねてきたプラットフォームを継続使用しているのは伊達ではない。
そこに、「さらになにかしら特別なものをつくりたい」というSTIエンジニアたちの職人魂のようなものが込められているのがタイプRA-Rなのである。「魂のようなもの」だから、わかるひとにはプライスレスの価値がある。わからないひとにはわからない。それでいいのである、と筆者は思う。
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