スバルの新たなハイブリッドシステム「e-BOXER」が、クルマ好き、スバル好きのあいだで大変評判がいい。
昨年フォレスターに設定されるや、すぐに同モデルのトップセールスグレードとなり、翌月にはXVにも設定され、非常に高い評価を受けている。
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とはいえこのe-BOXER、ハイブリッドシステムらしい、制御が緻密らしいと、どうにもふわっとした理解が先行しており、ここらできっちり「どんなシステムなのか」、「どこが優れているか」を説明していただきたいところ。
そこで自動車ジャーナリストの片岡英明氏に、スバルe-BOXERの改めての利点とシステム解説とお願いした。
文:片岡英明
■常に新しいからこそ伝統のよさが光る
スバルが「理想のパワーユニット」として長年にわたって磨き続けている水平対向エンジン、それに組み合わせた左右対称のシンメトリカルAWDは、長年研究を積み重ねた伝統的な信頼性と安心感があるが、それとともに積極的に新しい技術を注いでいる(だからこそトップブランドでありつづけることができるわけだが)。
そのひとつが、ハイブリッド車に代表される電動技術である。
2018年7月にモデルチェンジしたフォレスターには、「e-BOXER」と呼ぶハイブリッドシステム採用の「アドバンス」を設定(発売は9月)し、環境性能を大きく向上させた(のちにXVにも2018年10月に追加設定)。
e-BOXERは、走りの愉しさと運転のしやすさを、誰もが実感できる水平対向エンジンと電動技術を組み合わせた新開発のパワーユニットだ。効率を高めた直噴方式の2L水平対向4気筒DOHCエンジンに、モーターとバッテリーを加え、シンメトリカルAWDと統合し、新感覚の走りを生み出した。
もう少し詳しく説明すると、e-BOXERは水平対向エンジンと無段変速のリニアトロニック・トランスミッションの間にモーターを組み込み、その両方を動力として走行に使うパラレル式ハイブリッドシステムである。
エンジンを主役としているが、モーターでアシストするし、必要に応じて減速時にはエネルギー回生も行う。また、ふたつの動力源を同時に使ったり、片方ずつ上手に使い分けたりすることもできる賢いシステムだ。
e-BOXERは、直噴システムを採用し、107kW/188Nm(145ps/19.2kgm)を発生する2LのFB20型水平対向4気筒エンジンに10kW(13.6ps)のモーターを組み合わせている。
このようなマイルドハイブリッドシステムは先代のVXにも採用していたが、今回はバッテリーを一新し、高効率のリチウムイオンバッテリーを搭載した。また、モーターアシストの特性を変え、ドライバビリティを向上させるとともに瞬発力を高めている。
■加速や減速にハイブリッド独特の嫌な感じがない
このシステム、わたしが最初にステアリングを握ったのは、発売されるや一番人気となったフォレスターのアドバンスだ。
2.5Lエンジンを搭載する他のグレードと比較しても、瞬発力は際立っていた。モーターアシストのおかげでアクセルを踏み込むと、瞬時にパワーとトルクが盛り上がる。発進加速は鋭いし、追い越し加速も冴えていた。
e-BOXERは応答レスポンスが鋭く、アクセルを踏み込むとグッとクルマが前に出る。電気を使ったターボといえる味わいで、モーターのアシストは力強い。モーターが活躍するのはほんの一瞬だけだが、違いははっきりと分かる。運転感覚も新鮮だ。
ハイブリッド車は、アクセルを緩めたり、ブレーキを踏むと減速エネルギーの回生を行う。それが独特の(一部の人にはちょっと気になる)フィーリングを生むのだが、e-BOXERはそれがなく、ブレーキを踏むと速やかに減速Gが立ち上がる。空走感のない気持ちいい減速フィールだし、再びアクセルを踏み込めばタイムラグなしに力強い加速を披露した。モーターならではの鋭い瞬発力と軽やかなパワーフィールは大きな魅力だ。
エネルギーフローを車載のマルチファンクションディスプレイで確認すると、緻密に電気を出し入れし、効果的に働かせていることが分かる。バッテリー容量は1kWと小さいからすぐに電力を使い果たしてしまうのでは、と心配した。が、長い坂道や加速を続けない限り、電力は余っていたのである。下り坂など、アクセルを戻す場面では効率よく回生を行う。だから、すぐに満充電になった。
バッテリーに十分に電気がたまっていれば発進と低速走行はモーターを使って走れる。応答レスポンスがいいから発進加速は鋭いし、パワーフィールも驚くほど滑らかだ。アクセルを踏み続けるシーンでの力強さはターボに軍配があがる。だが、e-BOXERは街中や郊外など、日常の走りのシーンにおいてモーターの威力を見せつけた。12Vで駆動するインテグレーテッドスターター・ジェネレーターも装備されているから、アイドリングストップからの復帰、再始動も滑らかだ。スポーツモードをチョイスすれば、山岳路などでも痛快な走りを存分に楽しめる。
■もちろん燃費もよく、高速巡航も楽しい
XVアドバンスも同じe-BOXERを採用するが、印象はフォレスターと微妙に違っていた。XVのほうが軽量ボディだから、モーターアシストの恩恵が分かりやすいのだ。小さなモーターでも発進加速は驚くほどパンチがある。慣れてくれば40km/hくらいまでモーターが無理なくアシストしてくれた。
ステアリングの右側に設けられたECO-Cボタンを押せば、モーター走行の領域を広げることができる。高速道路の下り勾配でアクセルを閉じると80km/hを超えてもモーター走行を続けるなど、新鮮な運転感覚だ。
e-BOXERはもちろん燃費向上にも大きく寄与する。
XVアドバンスで山梨県の河口湖から都内まで走ったが、下り坂が多かったこともあり、車載の燃費計は20km/Lオーバーを記録した。
モーターを上手に使う、ゲーム感覚の運転も愉しい。フォレスターを含め、静粛性も1クラス上のレベルにある。だからロングドライブしたときでも疲れにくいだろう。
e-BOXER搭載のフォレスターとXVは、水平対向エンジン、シンメトリカルAWD、モーターとバッテリーの最適配置などにより、優れた重量バランスと低重心を実現している。だから一体感のある、素直なハンドリングを披露した。狙ったラインに無理なく乗せることができ、コントロールできる領域も広い。
高速道路でもワインディングロードでも意のままの気持ちいい走りを楽しめる。背の高いフォレスターであっても運転するのが愉しい。
意外だったのは、e-BOXER搭載のフォレスターとXVのほうがスバルグローバルプラットフォームのよさを感じやすかったことだ。モーターとバッテリーを積んだことによって増えた車両重量が、新世代プラットフォームとの相乗効果によって上質な乗り味を生み出している。路面の凹凸や継ぎ目などのショックを上手に受け流し、後席に座っても快適だった。
■「アイサイト」との相性も抜群
もうひとつの発見は、スバル独自の運転支援システム、アイサイトとの相性がよかったことだ。追従クルーズコントロールは、前走車の走り方によって加減速を繰り返し、一定の距離を保って走行する。モーターがアシストするe-BOXERは再加速が俊敏だ。タイムラグは最小だから、上り勾配でも軽やかに加速していく。
また、e-BOXERは滑りやすい雪道も苦にしない。
フォレスターとXVは、優れたトラクション性能を誇るアクティブトルクスプリット方式のAWDを採用するだけでなく、ヒルディセントコントロールなどを組み込んだX-MODEも搭載する。シンメトリカルAWDは滑りやすい路面でも絶大な安心感があり、コントロール性も群を抜く。モーターアシストを加えたe-BOXERは、圧雪路面だけでなくスリッピーなアイスバーンでも優れたグリップ感を見せ、滑ったときの修正もしやすい。
トラクション、コーナリング、安定性などを緻密に4輪制御し、余裕ある走りを楽しめる。e-BOXERの採用により、フォレスターとXVは新しい魅力を手に入れた。
まとめると、もともと評価が高く評判のよかったスバルのAWDに、e-BOXER(マイルドハイブリッド)の緻密な制御が加わったことで(もともと買い得感が高いこともあって)多くのコアユーザーだけでなく新規ユーザーも興味を持ち始め、スバル製AWDの評価がさらに高まった、ということだろう。
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