急速に進化を続けるBMW Mモデル。そこにはどんな狙い、考えがあるのか、M2 クーペからM2 コンペティションへの変化をとおして考察してみよう。(Motor Magazine 2019年1月号より)写真左がM2 クーペ、右がM2 コンペティション。
ラインナップの拡大、エンジンの強化をフックに進化していく
BMW AGの100%子会社であるBMW M GmbH(M社)は、通常のBMWブランドでは満足できない、もっと尖ったスポーツモデルを欲しがるユーザー向けにMモデルをプロデュースしている。
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実際に生産する工場はほかのBMW車と共通だが、M社には専用のエンジン開発者、エアロパーツなどのデザイナー、開発ドライバーも揃っている。そのため、ベースはBMW車でありながら異なる個性を生み出すことができる。
BMWは新型車を開発するときに、ニュルブルクリンクのノルドシュライフェ(北コース)をどんな車種でも最低1万km(標準的には1万500kmで車種により2万km)走るという。だから当然のようにすべてのモデルでサーキット走行が可能だ。しかしMモデルはさらに「一般道も走れるスポーツモデル」というテーマで作られているため、より本格的なスポーツドライビングを可能としている。
M社はここ数年、そうした強みを生かして、ラインナップの拡大に積極的に取り組んで来た。主にボディバリエーションを増やすことが主眼だ。たとえばM6には、クーペ、カブリオレ、グランクーペと3つのボディを揃え、M4にもクーペとカブリオレがラインナップされる。戦略的に巧みなのは、これらを同時に発売するのではなく、時間差をつけてリリースしているところ。興味を持っている潜在顧客を、常に刺激することができるワケだ。
もちろん、エンジンを強化するというカンフル剤も施されている。たとえば、ベーシックバージョンを最初に発表し、その後にパワーアップ、トルクアップしたエンジンを搭載するモデルを出すといった具合だ。
ベースが最高出力431ps/最大トルク550Nmだった「M4 クーペ」が、「M4 クーペ コンペティション」では450ps/550Nmになり、2人乗りの「M4 クーペ GTS」ではウォーターインジェクター付きで500ps/600Nmになった。「M4 クーペ CS」はその4人乗りバージョンで460ps/600Nmを発揮し、GTSと同じ有機LEDのテールランプを備えるモデルとして登場した。買いたいけれどどうしようかなあ……と迷っている人は、結果的にどこかで購入を決心することになるだろう。
おそらく今後も、そうしたカンフル剤が投与されたMモデルは登場することだろう。少なくとも標準のMモデルに追加される「コンペティション」は定番になりつつある。
すべてのパーツがMモデルの血統に統一されたM2 コンペティション
「コンペティション」が登場して、興味をそそられたのが「M2」である。MモデルとBMWモデルの中間的な存在のMパフォーマンスモデルとして登場したM235iからM240iに進化し、さらにMモデルに昇格して来たのが「M2 クーペ」だった。M4クーペやM3セダンより小さめのボディ、短いホイールベースなど昔のM3の良さをあらためて思い出させてくれたモデルだ。
日本の道路環境でも取り回しがしやすく、使いやすい大きさで人気があったが、筆者はそれでも「M2 クーペ」を本物のMモデルとは認めにくいと感じていた。
それはエンジン型式がN55B30Aというコードネームで、チューニングは異なるもののスタンダードラインのBMWモデルに搭載されるものと同型だったからだ。つまり同じ3L 直列6気筒ターボエンジンでも、M3、M4とは別モノだった。
しかし「M2 コンペティション」ではエンジンをS55B30Aというコードネームのものに変更。これによりSから始まる正真正銘のM社のエンジンとなった。
N55B30Aを搭載していた「M2 クーペ」は370ps/465Nm(オーバーブースト機能により一時的に500Nmになる)だったが、「M2 コンペティション」は410ps/550Nmにアップ。これはM4の431ps/550Nmにパワーで若干劣るものの、最高出力をより低い回転数で発生しているので、実質的にはM4とほぼ同等になったとみていい。
ちなみにタコメーターを比べると、「M2 クーペ」は6500rpmからゼブラ、7000rpmからレッドゾーンが始まっていたが、「M2 コンペティション」は7000rpmからゼブラ、7500rpmからレッドゾーンなので、出力特性は高回転型ではないのもの高回転まで回せるエンジンなのだ。
「M2 クーペ」と「M2 コンペティション」の外観は、フロントマスクの印象が少し異なる。「M2 コンペティション」はキドニーグリルの縁がクロームから黒色になっているだけでなく、ボディ色だった中央部も黒色になる。キドニーグリル自体が若干大きくなっているのは、ヘッドライトのカバーとキドニーグリルとの隙間が違うことで区別がつく。冷却のために空気量を増やしたのだろうか。
ドアミラーもMモデルらしくなった。「M2 クーペ」は通常のBMWと同じミラーだったが、「M2 コンペティション」では2本ステーに見せるデザインになっている。
「M2 コンペティション」のボンネットを開けると、M3、M4と同じCFRPで作られたブーメラン型の、ストラットタワーバーの役目をするブレースが目に入る。左右のストラットタワーをつなぐだけではなく、前方にも張り出して補強する方法はハンドリング性能に大きく貢献するから、これも本格的なMモデルになった証拠である。
「M2コンペティション」の室内に入ると、いかにもホールド性の高そうなシートが出迎える。ショルダーサポートも強化され、より高い横Gに耐えられそうだ。
ハンドルの左側にあるスタート/ストップ用のパワースイッチは赤色になった。これもM5と同じ。いかにも凄いエンジンをスタートさせるのだという演出だが、ドライバーにはちょっと嬉しい。
ステアリングスポークに付くスイッチにもMモデルらしさが出た。左側のスポークにはM1、M2ボタンが付いたのだ。これはDSC(滑り防止装置)のオン/オフも含めたドライビングモードがプリセットされたものだから、サーキット用とか雨の日用とか自分の好みにプリセットしておけばすぐに使えるものだ。
箱根のワインディングロードを走ってみると、「M2 コンペティション」の小気味良い走りに魅了された。「M2 クーペ」が悪かったわけではなく、「M2 コンペティション」のエンジン、サスペンションがよりダイレクトな感じで楽しかった。
エンジンは剛性の高いブロックに囲まれて高回転まで抵抗感なく吹け上がる。トルクの盛り上がり方も上にいくとグイグイくる感じで頼もしい。それでいて下のトルクも十分だから日常も問題ない。
応答性は「M2 クーペ」と「M2コンペティション」ではニュートラル付近から違う。「M2 コンペティション」は直進時の遊びが小さく、切っていったときの舵角とヨーのリニア感がコンペティションに分がある。ボンネットの中のブーメラン形状のブレースが効いているのだろうか。
サスペンションが締まった感じの「M2 コンペティション」は、コーナリング中のロール角が小さい。S字などでの切り返しやコーナーから立ち上がるときに、アクセルペダルを踏みながらハンドルを戻していく中で、不安定なロールの戻りが少なくスムーズに走れる。障害物回避のような素早い切り返しでも、姿勢は常に安定している。
「M2 クーペ」を鍛え上げた「M2コンペティション」には、望むものがすべて揃っていると思えてきて、差額の71万円が安く感じる。M社の戦略にはまだこの先にさらに高性能なモデルがあるかもしれないが、もうこれでいい、買ってしまおうという気にさせるには十分な仕上がりだ。(文:こもだきよし)
M2コンペティション
M2 クーペ
BMW M2 コンペティション 主要諸元
●全長×全幅×全高=4475×1855×1410mm
●ホイールベース=2695mm
●車両重量=1610kg
●エンジン=直6DOHCツインターボ
●排気量=2979cc
●最高出力=410ps/6250rpm
●最大トルク=550Nm/2350-5230rpm
●トランスミッション=6速MT
●駆動方式=FR
●車両価格=873万円
BMW M2 クーペ 主要諸元
●全長×全幅×全高=4475×1855×1410mm
●ホイールベース=2695mm
●車両重量=1560kg
●エンジン=直6DOHCターボ
●排気量=2979cc
●最高出力=370ps/6500rpm
●最大トルク=465Nm/1400-5560rpm
●トランスミッション=6速MT
●駆動方式=FR
●車両価格=802万円
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