雑誌に載らない話vol277
スバル STIの先端技術 決定版 Vol.26
日産「エクストレイル」「ノート」「セレナ」に手作り受注生産のオーテック・プレミアムパーソナライゼーションプログラムを発売
スバル STIの2019年シーズンモータースポーツ活動計画はまだ発表されていなが、ひと足先にSTI平川社長に今シーズンの活動についてインタビューした。ユーザーからの信頼回復と深い絆づくりが重要であり、そのためにもレース活動は重要な役目を果たすという。そしてSTIの市販コンプリートカーのグローバル展開など、STIの2019年はどんな挑戦をしていくのだろうか?
国内で大人気のスーパーGTにはSUBARU BRZ GT300で参戦したが、今季は期待したほどの成績が残せなかったというのがファンの気持ちではないだろうか。またニュルブルクリンク24時間レースにはWRX STIでSP3Tクラスに参戦し、こちらはクラス優勝を飾ることができた。一方で、市販車を製造販売するスバルは完成車検査不正問題など不祥事があり、新たな課題と向き合うことになった。
モータースポーツからの信頼回復
–平川社長インタビューの冒頭、スバルの不正問題等をきっかけに立ち向かう姿勢を示さなければならないという話から始まった。平川社長はSTIの社長であると同時にスバルに技官としても在籍もしており、技術の総まとめ、総責任者としての立場もある。だからこうしたコメントとなったわけだ。そして、STIとしてはモータースポーツをメインとして、その技術の訴求をし、信頼回復につなげていきたいという思いがある、と。
「数多くある自動車ブランドの中で、わざわざスバルブランド、STIブランドを選んでいただいたお客様に対し、あってはならないことがありました。30年前、STIはお客様の生活を豊かにするために発足しました。クルマはひとつの工業製品ですが、一般的な工業製品はお客様が外から手を触れて使います。しかしクルマは中に乗り込んで、その機能や性能を使っていくわけです。ですから、お客様には誇りを持って乗って頂き、その過程の中でさまざまな経験をとおして、生活を豊かにしていって頂くという目的でした。従いまして、今は原点に立ち返り、正面からお客様に向かい、親身になり、ひとつひとつ、やるべきことをやるという心構えを持っていくということに、改めて身を引き締めているところです」
–平川スーバーGT第6戦菅生大会ではSUBARU BRZ GT300が優勝し、それ以降最終戦まで優勝争いが期待できる展開に持ち込むことができた。そのきっかけは課題に対する向き合い方の変化だという。そして、来季に向けては、ファンに喜んでもらえるようなレースをするためには、開発の方法を全面的に見直し、難しいからこういうアイディアでかわそうというのではなく、スバルだったら技術で真正面から攻め込んでいく、という体制を作っているという。その具体的な課題に対しては何からはじめるのだろうか。
「スーパーGTでは終盤になるまで、GT3勢と拮抗したレースができなくて心配をおかけしましたが、菅生のレース前後あたりから、スバルの技術に基づき、原理原則をよく考え、振り返りをしました。今は課題に対し、表層的なことではなく、そこに至る経緯や技術的裏付けも含め、課題に対して技術で対応するという本来の姿を目指さなくてはいけないと考え、レースに臨みました」
–平川また、平川社長の指示は現場ではもう少し具体的な指示が出されているのかもしれない。というのは、次のような話をしているからだ。
「レースは、限られた距離をいかに速く走るかに尽きるわけで、それにはコーナーのボトム速度をあげること、コーナーからの立ち上がり加速を上げるとこと、最高速を上げること、そして減速度を高めることで、そうしたひとつひとつに対し、愚直にやっていくことが大切だと考えています。4.0L、5.0Lといった大排気量マシンと戦えるように基礎体力を、このオフシーズン中に積み上げておくことに尽きると思います」
–平川具体的に何をどうするのか?までは読み取れないが、対策の部位に至るまで指示がでているように感じる。それだけ、2018年シーズンはマシントラブルに泣かされたシーズンでもあったわけで、そうしたトラブルがなく、トップ争いを常に演じること、ポイントを稼げる展開をすることができれば、マシンへの信頼性は高まり、そうしたことの積み重ねにより、STIの技術、スバル車への信頼回復へとつなげていきたいということだろう。
「SUBARU BRZ GT300は量産エンジンを使っています。その主要コンポーネンツが量産品ですから、レース用にある程度の熱処理などでの強度、剛性は上げていますが、絶対的な強度はレース部品のようにはありません。ですが、レギュレーションの範囲内で、品質保証期間を飛躍的に高めることをしないといけないです。またタイヤへの攻撃性という視点からマシンの諸元を見直しも行なっています」と。
–平川また、2019年のWRX STIは大きくモデルチェンジを行なうという。
「クラス優勝はしましたが、大まかにみても5点ほど品質問題があったと思います。例えばパワーステアリングシステムからのオイル漏れや雨によるECUのトラブルなどですよね。こうしたことは品質管理をキチンと行なっていけば避けられたトラブルでもあります。そうしたことの課題はクリアすることがマストだと考えています」
–平川エンジン制御、トランスミッション制御、4WDの駆動制御を統合するという。これまで各制御はMBDによってEUCプログラムが生成され、それぞれのEUCにおいてHILS(Hardware in the Loop Simulator=通称ヒルズ)検証を行なっている。それをさらに統合したひとつのECUで制御される最新のものにモデルチェンジをするという。
「レースカーはソフト、あるいはプログラムという言い方でしょうか、そうしたもので動いているのですが、そこを大きく変えます。市販車で言えばFMC、フルモデルチェンジを行ないます。つまり、総合統合制御のレースカーにするということです」
–平川この新制御方式はVEOSなどと言われる仮想検証も必要になるため、開発への投資もなければ開発できない。こうしたユーザーには見えてこない技術ではあるが、こうした統合制御技術は来る自動運転での必須技術であり、避けては通れない開発手法と言われている。まさに、課題に対して真正面から向き合う平川社長のポリシーで進められていることが伺える。
「制御はフィードフォワードをベースに1/1000秒の単位で制御していきます。これまでのエンジン、ミッション、駆動系が統合され、モデル予測技術とでも言うのでしょうか、CAN通信だったので、その遅れをなくします。5/1000秒信号が遅れるとまったく使い物になりません。そうした最新の技術を使ってNBRマシンはモデルチェンジします。他にもアイサイトを導入して、イエローフラッグを認識させるというアイディアもありますが、現場からは悲鳴があがり、それは少し先に延ばすことにしました(笑)」
–平川ニュルブルクリンク24時間レースでは市販車をベースに改造したWRX STIが走る。マシントラブルが出たらそれを治すだけではエンジニアとしては物足りなく、トラブルが起きそうなことを予測し、対策をすることが重要だと。そうした実体験は量産開発をしているだけでは、多くの時間が必要になるという。しかし、レース現場では、そうしたことが体験しやすいのだと。そして、その経験から課題予測をすることで品質向上へとつながっていく、ということになると。
「人材育成目的というのは、これまで通り継続していきますが、開発の若手スタッフを連れていく理由としては、量産開発の現場だけでは、体験を伴う経験というのが2年も3年もかかってしまいます。しかし、24時間レースに関わる数週間でそうした体験をともなう経験ができるわけで、そうした経験を積んだ若手開発エンジニアが多く育っていくことが重要だと考えているからです」
「私はそれを、課題形成能力を養うことが大事だと言っています。つまり、表層的な課題、目に見えるものは改善しやすいです。ですが、それを取り除いた裏側や奥底には、何があるのか?それがわかるようになると本当の課題が見えてきます。レースの現場ではそうしたことが、日常的であり、貴重な体験を積むことができるわけです。そうした経験をした人が増えていくことによってレベルがあがり、本来起こってはいけないようなことへの取り組みもできて行けるようになるのではないかと、考えています」
–平川つまり、コアなユーザーをインフルエンサーとして、その周辺にいる人にSTIの魅力、スバルの技術などを伝えていく必要が出てきているということだろう。
「スバルとお客様との間にWRCを通して、絆という高速道路を通しました。しかし正直なところ舗装はだいぶ荒れてきていて、補修しても修復しきれない状況ではないかと課題形成しています。そこで、STIはコアなお客様とその周辺にいるお客様とも絆を強める方法があるのではないか? STIって何?というお客様にもひとつひとつやって行き、血のつながった家族を作りたい、ファミリーを形成したいと思っています」
–平川冒頭でも話されたように、信頼回復、そして新たなファンづくりにはSTIとしては、レースを通して進歩、進化を見せることだという。
「それには、自分たちがいつも元気で、一歩一歩前進していることを見せなければなりません。そのためには、市販車を使ったワールドクラスのレースに参戦することで、私たちの姿を見せることができると思います。そういう意味でスーパーGTとニュルブルクリンクのレースは本腰を入れてやっていく必要があると考えています」
–平川こうしたファンづくりの具体策として、国内ではファンイベントを開催するなどしてSTIの、そしてスバルの開発陣、経営陣がファンと対面し、直接対話のできる場を作っていくという。
「コンプリートカーも信頼や技術の象徴になるひとつですが、国内でしか展開できていません。それは諸外国でコアなファンを作るためにも中期計画として進めていかなければいけないと考えています。つまり、コアなファンをグローバルに作っていきたいと思っています」
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