マクラーレンは今年7月に発表したビジネスプラン「Track25」にて、2025年までに派生車種を含めて実に18ものニューモデルを市場に投入するという意欲的な計画を明らかにした。その第1弾となるのが、マクラーレンが「Hypre-GT」とカテゴライズする究極のロードカー、その名は「マクラーレン スピードテール」である。筆者は発表に先立って、イギリス サリー州のマクラーレン・テクノロジー・センター近くの秘密の施設にて、その実車と対面してきた。
アンベールされた瞬間のインパクトは甚大だった。思わず息を飲む、簡単には言葉に表すことができない、驚き。このオリジナリティあふれる姿を見ると「空力性能その他の諸要件を鑑みるとクルマのデザインはどれも似通ったものになってしまう」だなんていう定説が、戯言のように感じられてしまう。
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実際、この全長5137mmのティアドロップシェイプのボディは、徹底的な空力性能の追求、特にドラッグの低減によって導き出されたものだ。モチーフとされたのは戦前のレコードブレーカー、世界速度記録挑戦車だという。実際、このスピードテールは最高速度403km/hを標榜している。つまり、それは単なるデザインではなく、機能性からの要求でもあったわけだ。
ディテールも、すべてがそこに集約される。ドアミラーに代わって装備されるのは、小型カメラを使ったデジタルリアビューミラー。フロントホイールにはハブ固定式、つまりホイールと一緒には回転しないエアロカバーが装着されて、ボディサイドへと流れる空気の流れを整えている。
思わず目を見開いてしまったのが、アクティブリアエルロンだ。エルロンとは補助翼のことだが、車体後方に備わり、走行状況に応じて角度を変化させるこの補助翼、実は車体後端のCFRP製のボディ外板が湾曲しながら立ち上がっていくのだ。クラックは入らないのか、折れたり塗装が白化したりしないのか……と、当然考えるが、まったく問題はないのだろう。当然、過酷な条件下でテストが繰り返された上での採用である。
わずか1430kgという車両重量を実現するために、スピードテールはこのボディ外板だけでなく、ボディ構造のほとんどをCFRP製とする。車体の基本骨格を成すのはCFRP製のタブ“カーボンモノケージ”。セナなどと共用ではなく、完全に新設計とされている。また、フロントエプロンやディフューザーなどには新たに開発されたチタンを織り込んだCFRPが使われるなど、素材の革新も進んでいる。一方、サスペンションはオールアルミ製とされる。金属製コイルスプリングに代わって車高調整も可能な油圧を用いるサスペンションは、マクラーレン セナにも使われているものだ。
パワートレインに関しては詳細なスペックは示されていない。明らかにされているのはガソリンエンジンを使ったハイブリッドで、最高出力は1050psということだけである。開発を指揮したマクラーレン・アルティメットシリーズ・ビークルラインディレクターのアンディ・パーマー氏に聞いたところ、エネルギーを高速で出し入れできる新しいバッテリー技術を用いたというが、詳細は教えてくれなかった。「それはリチウムイオンバッテリーなのか?」という問いに対しても「それも言えないよ」という回答だったから、何かまったく新しいものが使われているのかもしれない。
ともあれ、実現しているのは前述の通り403km/hという最高速、そして静止状態から300km/hまで12.8秒という凄まじい加速性能だ。参考までに、P1は16.5秒だったという。まさに離陸しそうなほどの速さである。
ただし、アクセルを踏み続けるだけで403km/hに到達するわけではなく、それを目指すならば“Velocity”モードに切り替えなければならない。パワートレインのセッティングが切り替わり、バッテリーがフル充電され、補助翼の角度も最適化。車高が35mm下がり、デジタルリアビューミラーも収納され、準備が整う。もちろん、403km/hに到達できるだけの長い直線も必要だ。
とはいえ、そこまで速度を出さずとも、あるいは加速を試さなくても、スピードテールは独特のドライビング体験をもたしてくれるはずである。何しろ、初めて開閉まで電動化されたディへドラルドアの向こうのコクピットには、センタードライバーズシートが採用されているのだ。そのオリジンたるマクラーレンF1ロードカーと同様、その左右にはナビシートが設けられ、3シーターとされる。カーボンモノケージが新設計されたのは、これも大きな理由である。
かつてのF1ロードカーではマニュアルギアボックスのセレクターレバーが生えていたが、スピードテールは2ペダル。セレクトボタン、さらにその他の操作系は天井にまとめられている。その周囲のパネルは、リシャールミルと共同開発された厚さ30ミクロンの極薄CFRP製だ。インストゥルメントパネルは3つのモニターで構成されていて、ナビゲーションの情報などもここに表示される。ダッシュボード左右の小型モニターは、デジタルリアビューミラー用である。
すべてが革新的なこのスピードテールの価格は175万ポンド(約2億5000万円)からスタート。限定台数106台に対して300近いオーダーを集めたとのことだが、いずれにせよすでに完売である。
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