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名車物語: ジャガーの美しきスポーツカーを振り返る──Eタイプのデビュー騒動記

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名車物語: ジャガーの美しきスポーツカーを振り返る──Eタイプのデビュー騒動記

今なお高い人気を誇るスポーツカーの歴史的名作の1台がジャガーEタイプ。今年5月に挙行されたヘンリー王子とメーガン王妃のロイヤルウェディングでも、EタイプをベースとするEVが絶大な存在感を示すなど、イギリスにとってはある意味カリスマ的な存在と言えるだろう。

ジャガー Eタイプは1960年代以降、たとえばわが国のトヨタ2000GTなど、世界中のスポーツカーに絶大な影響を及ぼしたばかりか、ジャガー自身も「XK8」「XK」そして現行「Fタイプ」など、あらゆるスポーツモデルでセルフカバーするなど、ジャガーにとっては歴史的アイコンとも言うべき名作である。

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とはいえ当時をリアルタイムで知らないものにとっては、Eタイプがいかに偉大と言われても、いささかピンと来ないのも正直なところだろう。

そこで今回は、ジャガーEタイプがデビューの段階からスーパースターであったことを物語るようなエピソードについて、述べたい。

すべてのはじまりは、1961年3月14日。この日オープニングを迎えたジュネーヴ・ショーは、時ならぬ興奮の坩堝と化していた。英国ジャガー・カーズ社がこのショーにおいて、新型スポーツカー「Eタイプ」を発表したのだ。

この美しく、そして驚くほどにエッジィなスポーツカーがクルマ好きの話題をさらうには、さしたる時間はかからなかった。翌朝のイギリス大手日刊紙は、高級紙から大衆向けタブロイド紙に至るまで、すべてEタイプの記事をセンセーショナルに取り上げた。もちろんショー会場における観衆のリアクションも、それまでに例を見ないほどに熱狂的なものであった。

実は同じショーでは、ジャガーのビジネスにとっては本命というべき大型サルーン「マークX(10)」も発表していたが、Eタイプ人気の影でいささか翳んだ存在となってしまう。

この時、ジャガー社首脳陣はEタイプのプロモーション活動の一環として、ジュネーヴ・ショーの会場近くに臨時テストコースを設け試乗会を企画した。テストドライブに参加するために、来場者はショー会場のジャガー社ブースにて試乗整理券を手に入れ、Eタイプに乗ったジャガーのセールス担当スタッフによるピックアップを待つシステムだった。

ところが、いざフタを開けてみると当初の計画よりも遥かに多数の人たちが試乗を希望していることが明らかになる。

そこでEタイプは、あくまで試乗用に限定。マークXをはじめとするジャガーのほかの最新モデルによるシャトル便を出し、試乗希望者を試乗会場まで運ぶ方法へと変更を余儀なくされる。それでも殺到する希望者のため、ジャガーは 急遽2 台目のEタイプを英国コヴェントリーの本社から運ばせて対応することにしたのだ。

結局この2台のEタイプは、7日間の試乗会日程のあいだに、一日6時間のフル稼働状態だったという。ちなみに、市販第1号のEタイプ購入に成功した個人オーナーは、大スター女優「B.B.」ことブリジット・バルドーの夫で映画監督、そして社交界では名うてのプレイボーイとしても知られたジャック・シャリアーだった。彼はEタイプの1号車欲しさに仕事中のチネチッタ(ローマ)から大慌てでジュネーヴへ飛び、散々ゴネたあげくにショー会場にてようやく購入権を獲得したと言われている。

そしてこの喧騒は、ジャガーのみならず、すべての欧州自動車メーカーの命運を握っていた巨大マーケット、アメリカでも再現されることになったのである。

ジャガー・カーズ社首脳陣は、当初Eタイプを限定生産に近い特別なモデルとしてセールスする計画を立てていたが、ジュネーヴ・ショーにおける圧倒的な人気が後押しとなり、正規の量産モデルとする方針に転換された。

そしてEタイプの誕生がヨーロッパにもたらした騒乱は、翌4月に行われたニューヨーク・ショーにて、北米マーケットにお披露目された時にも再現されることになった。

当時の欧州製スポーツカーが生命線としていたアメリカ市場において、Eタイプは旧「XK150」の後継車であることを強調するべく、特に「XK-E」と呼ばれていた。新大陸のクルマ好きたちは、欧州で評判のニューカマーを一目見ようとジャガーのブースに群がり、その誰もがXK-Eに魅了された。

ニューヨーク・ショー閉幕後、アメリカに上陸した最初の2台をいち早く確保したロサンゼルスの代理店は、さっそく虎の子のXK-Eをショールームに展示した直後、あのフランク・シナトラの訪問を受けることになった。

シナトラは白紙の小切手をチラつかせつつ、ショールームにある展示車両をすぐに売ってくれと懇願したという。ところがディーラーのセールスマネージャーは、スーパースターの申し出を丁重に断らざるを得なかった。XK-Eは、とにもかくにも品薄で、北米向けの割り当て台数もまだ少なかったために、たとえ現車があっても展示用にキープしておく必要があったからである。

しかし、このクルマがなかなか手に入らないという品薄状況が、かえってXK-Eの人気を煽った。そしてチャールトン・ヘストン、ディーン・マーティン、そしてスティーブ・マックィーンといった一流ハリウッドスターや裕福なセレブリティたちが、先を争うかのごとく続々とXK-Eの注文書にサインしたのであった

しかし、世界中をエキサイトさせたこれらの誕生劇も、ジャガーEタイプの伝説においては序章に過ぎなかった……、といわねばなるまい。こののちジャガーEタイプは、1975年に惜しまれつつ生産を終えるまでに7万台以上が生産されるという、この種の大排気量スーパースポーツとしては驚くべき大ヒットを博したのだ。

くわえて、2000年に発表された「Car of the 20 Century」では、最も影響力のあったスポーツカーに選ばれるなど、まさしく自動車史上に冠たる名作、あるいは60sポップカルチャーの象徴としての道を邁進したのであった。

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