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【舘内 端 連載コラム】第41回 近代日本史:自動車の再生とエネルギー転換

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【舘内 端 連載コラム】第41回 近代日本史:自動車の再生とエネルギー転換

新シリーズ 舘内端の自動車進化論

その1 自動車の課題とエネルギー

【舘内 端 連載コラム】第40回 近代日本史:内燃機関自動車が崩壊するまで

自動車と安全

自動車はさまざまな問題を抱え、それを(半ば)解決し、これまでの130年の歴史を刻んできた。たとえば自動車事故の撲滅である。最初の自動車事故は、キュニョーの砲車が壁に衝突したときから始まっている。1770年11月の試運転のときであった。

それから今日まで、自動車の(交通)安全の問題は未だに解決していない。そこで、「人間が運転するから事故が起こるのだ」とばかりに、世界の自動車メーカーはとうとう人間に運転させないという最終手段に打って出ている。完全自動運転車である。しかし、その自動運転車が各地で事故を起こしているのは、どういうわけだろうか。

完全自動運転車というギミック

完全自動運転車の登場は、いよいよ自動車が人間の手から離れることを意味している。これは自動車史上きわめてエポックなことであり、130年続いた「自動車」の終焉を意味している。

環境・エネルギー問題を解決する必要から、内燃機関自動車から電気自動車にシフトが始まっている。これに失敗すれば、自動車は生き延びられない。これは自明である。しかし、自動運転車にならずとも自動車は生き延びられる。では、なぜ自動運転車を開発するのか。

ここでは深く考察しないが、自動車の新規マーケットが期待できないことによる成長の鈍化を食い止めるためである。つまり、自動運転車はこれまで自動車の需要を拡大してきた「新技術による欲望の拡大路線=付加価値増大路線」のひとつに過ぎないのである。

やがて現在の米国のように中国で自動車が普及すると、世界一の巨大マーケットの自動車需要は鈍化し、代替需要だけとなり、自動車産業・メーカーの成長は止まる。

GMのかつての名リーダー、アルフレッド・スローンは「モデルチェンジと新技術による自動車の魅力の拡大」という戦略で、現代につながる経営の基盤を作った。自動運転運転車とはその延長上にあり、新奇性はない。

現在の中国や途上国を除く世界のあらゆる国を覆う「自動車離れ」とは、まさにスローンの「モデルチェンジと新技術による自動車の魅力の拡大」という路線が飽きられ破綻しているから起きたのである。それを同じ路線=自動運転車で切り抜けようという戦略こそが、行き場を失いつつある自動車産業の現在を映している。

運転者の乗る在来型の自動車、バイク、自転車と一緒に運転者不在の自動運転車が走る混合交通の壁は厚く高く、運転者不在の完全自動運転車の開発は技術的に疑問符が付く。

完全自動運転車は、人工知能の画像認識技術と、それを支えるディープラーニング技術が重要である。近年に急速に発展したこの2つの新技術への過剰な期待がその幻想の裏にある。

自動車とAIについては、またの機会に論じる予定だが、たとえば英国はAI自動殺人ロボットに対して「人間が関与すべき『タッチポイント』を確実にすべきだ」(朝日新聞)と主張しているが、これは自動運転車による事故直前に「子供を救うか。老人を救うか」という悪魔の選択に対して人間がまったく関与しなくても良いのかという論議に敷衍(ふえん)できる。

このような場面で、子供か老人のどちらかが死亡した場合、私たちは果たして「AIの判断だから、AIが責任を負えばいい」と言えるのだろうか。英国は「人間が関与すべきだ」といっている。もし、AIに責任を負わせるのであれば、AIにそれ相応の権利=人権を与えなければならない。しかし、人工知能に人権を付与することなど、少なくとも私には想像できない。

いまさらながらだが、世界人権宣言の第1条には「すべての人間は生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である」と謳ってある。人工知能が「自由、平等、責任」の権利を持つのだ。私には人工知能ごときがそれほど凄いものだと思えないのだが。

「子供を選ぶか、老人を選ぶか」という判断は、「責任」、「自由」、「権利」といった高次の社会的概念を十分に理解し、その上で行なうものだ。自動運転車推進者は、そうしたことが、AIに(人間に替わって)行なえるとでも信じているのだろうか。人工知能とは、それほどに高度な「技術」ではない。

私も自動車評論界の片隅で生きているのだが、完全自動運転車とその技術(画像認識技術、ディープラーニング技術)の論評は慎重の上にも慎重に行なうべきだと思う。

内燃機関自動車の環境汚染

私たちは「自動車は石油で走る」ことに何の疑問も挟まないで自動車を使ってきた。というよりも、石油のことなどまったく考えずに自動車を使ってきた。


しかし、21世紀を迎えてすでに18年。自動車は使用するエネルギーを真剣に考えなければならなくなっている。このまま石油を使おうにも、石油は掘れず、運べず、大気汚染と地球温暖化防止の観点から使うに使えない。自動車は脱石油しなければ、自滅するしかない。ただし、これは内燃機関自動車というカテゴリーの自動車の話であって、脱内燃機関化に成功すれば、また別の話だ。

燃料に石油を使う自動車の大きな問題は排ガスによる大気汚染である。

実は、自動車による大気汚染は米国では戦前から起きていた。そして規制が始まったのも戦前のことだった。今日、自動車による大気汚染は(解決したはずの)先進国をも巻き込んで、むしろ世界で拡大している。

北京や上海、武漢などの中国の主要都市の大気汚染は頻繁に報道されているが、汚染はインドを初めとして(途上国に)自動車が普及する順に広がっている。そればかりかパリ、ロンドン、ローマといったヨーロッパ先進国の主要都市のpm2.5の濃度は北京並である。

こうした環境汚染に対してパリ市は、2024年のオリンピックに先駆けて20年までに市内のすべてのディーゼル車の運行を全面的に禁止する。英国とフランスは、40年以降の新型の内燃機関自動車の販売を禁止する。それよりも15年も早く2025年にはスウェーデン、オランダが新型内燃機関自動車の販売を禁止する。

自動車の汚染物質の生成

さて、自動車による大気汚染と地球温暖化=気候変動は、つまるところ自動車が石油等の化石燃料を使うからである。内燃機関自動車の効率(パワー、燃費)を高めるには、高温で急速に燃料を燃焼させる必要がある。ディーゼルエンジンが効率に優れているのは、この理由による。

しかし、こうすると燃料が完全に燃えにくくなり、燃え残りが増える。これがpmである。また、吸入した空気に含まれる窒素(N)が高温になり活性化して、空気中の酸素と結びつく。これがNOxである。また、NOxに太陽光が当たるとpmが生成する。つまりNOxはpmの原因物質であり、そのために各国とも規制を厳しくしている。


ディーゼルは効率が良い故に環境汚染物質の排出量も多い。かつて効率の良さ=生産性の高さが唯一、最大の価値だった時代には、トラックを最大のユーザーとしてディーゼルエンジンは経済・産業に、国土の建設に大活躍をした。

しかし、現代は環境保護が不可能であれば効率の良さはまったく意味をなさない。ディーゼルエンジンは大きな岐路に立たされている。

石油関連の事業、企業への新規投資は国際通貨基金=IMFを初めとして国内の銀行も慎重になっている。新しい油井の掘削などもってのほかだという。環境問題を抱える企業への投資は株主の賛同を得られないこと、投資の見返りにほとんど期待でないこと(投資の焦げ付き)が理由である。さらにCO2排出問題が投資に影を落とすと、たとえば新規エンジンの開発資金の調達も難しくなるだろう。ということで、次回からは再生可能エネルギーの状況について報告しよう。

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