■「いつかはクラウン」の時代背景
6月26日、トヨタ・クラウンがフルモデルチェンジされました。クラウンといえばトヨタが誇る高級セダンで日本における高級車の代名詞的なクルマ。7代目クラウンといえばクラウン史上最も有名なキャッチコピーのひとつ「いつかはクラウン」のモデルです。
これはヤバイ!トヨタ 新型「クラウン」はハイパワーユニット搭載でスポーツセダンに進化
1983年、東京ディズニーランドが開園し、任天堂からファミリーコンピュータが登場したこの時代、トヨタは7代目クラウンを発表しました。オイルショックに代表される1970年代後半の経済不況を乗り越えた日本は、ここからバブル時代の絶頂へと突き進みます。
サラリーマンの所得も向上していくなかで、初代から2代目までを除いて、パーソナルカーとしての最高級車の地位を確固たるものにしていたクラウンは、いつの日もサラリーマンの憧れでなければなりませんでした。そうした気持ちを表した日本のマーケティング史に残る名キャッチコピーである「いつかはクラウン」が用いられたのが、この7代目クラウンのCMだったのです。
人々は上がり続ける景気と終身雇用の時代の中で、50代で部長職になることができればクラウンを買うことができる、そう夢見て眼前の仕事に邁進したのです。その是非はともかく、実際に多くの日本企業が成長の中にあり、終身雇用を是とする家族的経営の企業の中では、他を出し抜いて圧倒的な成績を出すよりも、調和を第一として大過なく勤め上げれば一定の収入向上が見込め、誰もがクラウンを手に入れることを夢見ることができた時代でした。
■輸入車というライバルの出現
すでに国産高級乗用車としての確固たる地位を手に入れていたクラウンですが、ライバルがいなかったわけではありません。それまでは日産のセドリック/グロリアが永遠のライバルとされていましたが、1980年代に入ると欧米の自動車メーカーが日本法人を設立、輸入をはじめたのです。
それまでは一部の富裕層と趣味人が顧客の中心であった輸入車ですが、このあたりから一般消費者もそのターゲットとなり、日本の輸入車販売台数は右肩上がりで増え続けることになります。
輸入車という“黒船”の出現に対して、日本代表とも言えるクラウンはさらなる進化が求められるようになりました。7代目クラウンでは、それまであった2ドアのモデルが終了し、4ドアモデルのみとなりました。その中でも、4ドアハードトップと呼ばれる、セダンではありながら若々しさのあるスタイリッシュなデザインのモデルがシリーズの中核となりました。
7代目クラウンの4ドアハードトップでは、Cピラーと呼ばれる車体後部の柱を光沢のある樹脂素材でおおった「クリスタルピラー」が採用され、そこに据え付けられた王冠エンブレムとともに7代目クラウンの代名詞となりました。
また、この頃から乗用車の法的な定義が見直され、それまでホイールベース(前と後ろのホイール間の距離)に制限があったところが撤廃されたため、できるかぎりホイールベースを伸ばすことができるようになりました。
一般的に、ホイールベースが長いほど乗り心地の良いクルマとなるため、高級車にとってはホイールベースを長くすることが重要です。十分なホイールベースを確保することができた7代目クラウンは、より高級車としての性能を高めていったのです。
■高級車に求められるものが多様化していった時代
6代目クラウンでも積極的に採用された電子デバイスですが、7代目クラウンではよりその傾向が加速します。前後席パワーシートやオートエアコン、メモリー機能付きチルトステアリング、無段階調整機構付きワイパー、自動防眩ミラーなどなど、現代のクルマでも採用されているような電子機能の多くが採用されることになりました。
また、ロイヤルサウンドシステムと名付けられたオーディオシステムや、電動式ムーンルーフ(現代ではサンルーフと呼ばれることが多い)なども用意されるなど、高級車に対して求められるものが単純な移動の快適性だけではなく、空間としての居心地の良さへと変化していったことがわかります。
日本が豊かになればなるほど、クラウンに求められるものも多様化していく、7代目クラウンはそれを最もよく表したモデルでした。
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