いま「愛車は2ドアクーペ」というと、どうしても「かなり濃いクルマ好き」というイメージになってしまう。しかし1990年代の前半まで、たとえば「デートに使うクルマ」と言えばスタイリッシュな2ドアのスポーツクーペが主役だった。後席に人を乗せることはほとんどない、前席の2人のためのカップルズカーが定番だったのだ。
いわゆる「デートのためのクルマ」だけではない。安価なものから高価なものまで、当時はコンパクトクラスからスポーツクーペがあり、バリエーションも豊富だった。バブルの絶頂期に開発され、90年代に送り出されたスポーツクーペは、庶民派のエントリーモデルであっても高性能で、ラグジュアリー。メカニズムに対するこだわりも強かった。
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バリエーションが豊かだったため、いわゆる「定番のモデル」以外にも強烈なキャラクターを持つモデルも多かったが、しかし、90年代の半ばに短期間のうちにデートカーの定義が変わってしまう。いわゆる「ミニバンブーム」が台頭するとスポーツクーペ市場は一気に冷え込み、しぼんでしまうのである。
日本車が元気をなくした今こそ、もう一度スポーツクーペの雄姿を見てみたいと思うのだが……。
それでも日産シルビアやトヨタセリカのような名門車は、いまもたびたび人々の話題にのぼり、復活を期待されたりもする。しかし多くの「個性派クーペ」たちは、そうした話題にのぼることもめったになくなってしまった。
そんな思いを胸に、今はもう触れられることも少なくなってしまった「個性派2ドアクーペ」をピックアップして紹介したい。
文:片岡英明
■日産180SX 1989~1998年
日産・180SX
5代目のS13型シルビアは、それまで設定していた3ドアのハッチバッククーペを整理した。そこで兄弟車の形で投入したのが、リトラクタブル・ヘッドライトを採用したハッチバッククーペの180SXだ。「SX」は北米を中心とした海外向けモデルに与えられたネーミングで、ZXとNXの間に組み込まれた。日本では1989年4月に発売を開始する。
最初に積まれたのは、1.8LのCA18DET型エンジンだ。直列4気筒DOHC4バルブにインタークーラー付きターボの組み合わせだった。
サスペンションはフロントがストラット、リアはマルチリンクだ。後輪駆動ならではの痛快な走りを楽しめた。大きな舵角を与えるとパワーオーバーになり、ドリフトもしやすかった。
S13シルビアの兄弟車だったためパーツの互換性が高く、フロント前部パーツがシルビアで後部が180SXのスワッピング車を「シルエイティ」、この逆パターンを「ワンビア」と呼ぶこともあった。
4輪操舵のHICAS-IIは1991年にはスーパーHICASに進化する。このときにエンジンを2LのSR20DET型DOHCターボに換装し、ポテンシャルを高めた。最終型では自然吸気のSR20DE型エンジン搭載車も登場する。
安定して売れたため1998年まで販売を続けた。が、日産の経営が悪化したこともあり、後継モデルは開発していない。
■日産NXクーペ 1990~1994年
日産・NXクーペ
7代目サニーの3ドアクーペ版だが、サニーより車格を上にするためにニッサンNXクーペと命名された。サニーRZ-1の事実上の後継クーペで、1990年1月に登場している。
流行の先端を行くオーバルシェイプのエアロボディをまとい、フロントは愛らしいグリルレスフェイスだ。フェアレディZ譲りのTバールーフも選択できた。インテリアはオーソドックスなデザインだ。が、見やすいデジタルメーターも用意されている。
エンジンは1.8LのSR18DE型直列4気筒DOHCをリーダーに、1.6Lと1.5Lも設定した。1.5Lエンジンを除き、電子制御燃料噴射装置付きだ。サスペンションは4輪ストラットで、FF車だけの設定とした。
タイプSはハードな味付けのサスペンションとし、スポーツオートサスペンションも選べる。上質な造りで、走りの実力も高かった。が、個性の強いデザインが足を引っ張り、日本では不人気クーペのレッテルを貼られてしまう。そのため1代限りでお役御免となり、後継のサニー・ルキノにその座を譲った。
■トヨタサイノス 1991~1999年
トヨタ・サイノス
トヨタはバブル期の末期に、個性の強いスポーツクーペを積極的に開発し、1990年代に投入する。ガルウィングを持つセラに続いて1991年1月にベールを脱いだのがサイノスだ。ターセル/コルサ系に設定されていた3ドアのリトラの後継と位置付けられ、メカニズムもターセル/コルサ系から譲り受けた。が、デザインは専用だったし、車名もターセル/コルサ系と分からないようにサイノスを名乗っている。
エンジンは第2世代のハイメカツインカムを搭載し、駆動方式はFFだった。1.5Lエンジンは2種類のチューニングがあり、上級グレードのβは可変吸気システムやデュアル排気マニホールドを採用し、高性能化を図った5E-FHE型直列4気筒DOHCを積む。クラス初の電子制御4速ATも注目を集めた。
また、電子制御サスペンションの上下G感応TEMSもオプションで用意する。さらにチルトアップ機構付きガラスルーフも設定するなど、末っ子のクーペなのに超リッチだった。
1995年秋には2代目のサイノスが登場し、1年後にはフルオープンのコンバーチブルも仲間に加わる。が、北米を含め、ユーザーの嗜好が変わったため販売は伸び悩んだ。1999年7月、21世紀を前にサイノスは消滅した。
■ホンダCR-Xデルソル 1992~1997年
ホンダ・CR-Xデルソル
今、クーペの世界では、高い剛性とオープンカーの爽快感を1台で味わえるクーペ・カブリオレやリトラクタブル・ハードトップが密かなブームになっている。その先駆けとなったのが、ホンダのCR-Xデルソルだ。
高性能スモールクーペとして一世を風靡したCR-Xからバトンを託され、1992年2月に登場した。先代モデルであるCR-Xも世間をアッと言わせたが、デルソルはそれ以上に翔んだスペシャルティカーであった。乗車定員は2名と割り切り、ルーフ部分は開放的なオープンのトランストップとした。
ルーフ部分をトランク内に収納でき、2人で粋なオープンエアモータリングを楽しむことができる。注目を集めたのは、手動タイプのほか、スイッチ操作でルーフを簡単に開け閉めでき、トランクに収納できる電動式のトランストップを主役としていたことだ。
エンジンは1.5Lと1.6Lの直列4気筒で、SiRは可変バルブタイミング&リフト機構のVTECで武装したB16A型DOHCを搭載する。SiRは痛快な走りを見せつけ、爽快感もライバルを圧倒した。が、全自動としたため車重はCR-Xより重かったし、デザインもクセが強かったので販売は伸び悩んだ。北米以外は売れなかったため1代だけで消えている。
■マツダ ユーノス・プレッソ/AZ-3 1991~1998年
マツダ・ユーノスプレッソ
マツダはバブルの絶頂期に、背伸びして5チャネル体制を築き、一気にバリエーションを拡大した。スポーティモデルを得意とするメーカーだから、洒落たクーペも数多い。そのなかでも個性が際立っていたのが、ユーノスチャネルに投入したプレッソと2週間遅れてオートザム・チャネルに送り出された兄弟車のAZ-3である。イタ車のような塊感の強いフォルムとファニーフェイスが特徴の3ドアハッチバッククーペで、小型車サイズと思えないほど強いインパクトを放っていた。
エンジンも豪華だ。プレッソは、その当時、量産エンジンとしては世界最小の1.8L、V型6気筒DOHCを搭載する。
このクラスでは異例に滑らかで、静粛性も高い。これに対しAZ-3が積むのは、1.5Lの直列4気筒DOHCエンジンだ。が、発売から2年後の93年には、AZ-3も両方のエンジンが選べるようになる。
サスペンションは4輪ストラットだが、ハンドリングは軽快だ。
プレッソとAZ-3はヨーロッパではマツダMX-3の名で発売され、好評を博した。が、日本ではよさが認められず、今一歩の販売にとどまっている。両車は1998年に販売を打ち切り、ラインアップから消えた。
■三菱FTO 1994~2000年
三菱・FTO
三菱も個性的なスポーツクーペをたくさん持っている。1980年代はスタリオンや4WDスポーツクーペのコルディアを送り出し、90年には新世代のGTOを発売した。このGTOに続く、ネーム復活シリーズ第2弾がFFスポーツクーペの三菱FTOだ。
発表時の1994年11月は小型車枠にこだわるメーカーが多かった。が、FTOは気持ちいい走りを実現するため、ロー&ワイド、ショートオーバーハングとし、3ナンバー枠に踏み込んだ。
気になるパワーユニットは、6A12型と名付けられた2LのV型6気筒DOHCを主役としている。可変動弁機構のMIVECを採用し、その気になれば8000回転まで使える200ps仕様のほか、穏やかなパワーフィールの170ps仕様を設定した。
また、廉価モデルは1.8Lの直列4気筒エンジンを積む。トランスミッションにも注目だ。5速MTのほか、三菱初のスポーツモード付き電子制御4速AT、INVECS-IIを選択できた。
メカニズムは洗練されていたし、走りもよかったから1994-95年の日本カー・オブ・ザ・イヤーに選出されている。が、アクの強いデザインが災いしたのか、発売2年目から月版2000台の目標を大きく割り込んだ。
何度もテコ入れして延命を図ったもののクーペ不毛の時代となり、販売は低迷。2000年、こらえきれずにGTOとともに生産を打ち切った。
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