5月23日~25日にかけ、パシフィコ横浜を会場に「人とくるまのテクノロジー展2018 横浜」が開催された。1992年より開催されている「人とくるまのテクノロジー展」は最新の自動車技術が一堂に会する貴重な機会として、多くの自動車関係者が集まる場となっている。2018年の出展企業数は597社と過去最多、もはやモーターショーよりも未来の自動車像が感じられる場としてメディアの注目も高まっている。
さて、現在の自動車業界においては「CASE」がキーワードとなっている。
・「コネクティビティ(connectivity)」
・「自動運転(autonomous)」
・「シェアリング(sharing )」
・「電動化(electric)」
の4つを意味するもので、ここ数年のトレンドをそのまま示している。一方で内燃機関については、それがなくならないとしても、電動化との併用(つまりハイブリッドカー)が基本というスタンスに立っているメーカーがほとんどだ。こうした変革のスピードを後押ししたのはフォルクスワーゲン・グループによるディーゼル不正問題が影響しているのは間違いない。もはやディーゼルは過去の技術、そんな印象さえ与えてしまった。
しかし、現実的にいえば乗用車のディーゼル離れはさておき、大型のバス・トラックではディーゼルエンジンは欠かせないパワートレインである。比較的スペースが確保できる大型車では排ガスの後処理についても、よりクリーンにできる可能性が高いと思いがちだが、じつはスペースについてはシビアなのだという。とくにトラックは荷台をユーザーに合わせてカスタマイズする「架装」の自由度が求められるのに加え、ランニングコストへの目も厳しい。つまり、少しでも軽く、シンプルな排ガス処理装置を作る必要がある。
2017年4月に登場した日野の小型トラック「デュトロ」には、まさにそうしたニーズに答える排ガス浄化装置が搭載されている。そのポイントとなっている『HC-SCR』システムについて、トヨタグループの一員として開発・生産を担当している株式会社キャタラーから、「人とくるまのテクノロジー展」において話を聞くことができた。
NOxは光化学スモッグを起こす原因のひとつであり、また二酸化窒素(NO2)は呼吸器への悪影響が指摘される。しかも、自動車からの排出量はもっとも多く、後処理は必須となっている。現在、乗用車から大型トラックまで主流といえるのが尿素SCR(選択触媒還元)と呼ばれる処理装置で、簡単にいうとアンモニアとNOxを反応させることで、窒素と水という無害な排ガスに変えてしまうという仕組みだ。しかし、そのためには処理のためにアドブルー(尿素水)が必要で、コストとスペースの両面でネガになる。走行距離に応じた補充が必要なのはもちろん、尿素水タンクなどシステム全体が大きくなってしまう。
そのランニングコストとスペースにおいてアドバンテージを得られるのが、キャタラーが生産している「HC-SCR」なのだ。その反応を手短にいえば、炭化水素(HC)を還元剤としてNOxを水と窒素に還元するという仕組み。炭化水素は排ガスにも含まれるし、また燃料を噴射することで分解生成することもできる。つまり、NOx処理のために新たな還元剤を積まずに済むのだ。しかも、HC-SCRが使う燃料(軽油)は少量なので、いわゆる燃費への影響も最小限に抑えることができるという。
HCを用いるNOx処理といえば、ガソリン直噴エンジン(リーンバーン)で使われることの多い「NOx吸蔵還元触媒(NSRキャタライザー)」を思い浮かべる人もいるだろうが、HC-SCRは、常に触媒反応を行なうことで、ディーゼルエンジンが発生するNOxをどんどん処理している点が異なる。その能力は尿素SCRと同等以上というから、利便性のかわりに環境性能を犠牲にしているということもない。もちろん、世界でもトップレベルに厳しい日本の平成28年規制に適応しているわけで、処理能力には申し分ない。
ラストワンマイルの物流を担うことも多い小型トラックだからこそ、尿素水の補充を必要としない後処理装置には価値がある、というのがキャタラーの主張。さらに、尿素水インフラの整っていない地域でも有効なのだ。日本発の「HC-SCR」、そのシステムは世界への拡大が期待されている。
(文:山本晋也)
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