「このクルマ名前さえ違ったら売れたのに」なんてふと思うことがある。国産車の歴史のなかでクラウンやスカイラインなど寿命の長い車名もあれば、初代だけで消滅していった車名も多くある。しかしその車名が消費者の心理をあまりにもガッチリつかんでいる場合、迂闊に名前を変えたり、はたまたイメージと異なるクルマにその名前をあてがうと大失敗することがある。そんな具体例を見つつ、ブランディングとはなにかを聞いてみました。
文:鈴木直也/写真:ベストカー編集部
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■改名すべきか、キープするかが悩みどころ
言うまでもないことだが、商品を売るにはそのモノ自体を消費者に知ってもらわないと話が始まらない。そのためには覚えやすい名前や、憧れをかきたてるブランドが必要。商売には暖簾と看板が不可欠ということだ。
高級品だけを売っている場合、戦略はシンプルでいい。高級品はメーカーそのものがブランドだから、商品それぞれには特別なネーミングは必須ではない。
例えばクルマの場合、ドイツ御三家はメーカ名+数字とアルファベットで統一している。そこには、ブランドを知ってもらえれば個別の愛称は必要ない、という戦略が見て取れる。国産勢ではレクサスは定石どおりこのネーミングルールで臨んでいるし、マツダも海外ではこの路線だ。
レクサスはドイツ勢にならって英字+数字で車名を表している。写真は最上級サルーンのLS
ところが、難しいのは広く大衆に売りたい量産品だ。大衆向け商品は競争も激しいしユーザーの好みも移ろいやすい。そこではなんとか群れから抜け出して目立つことが必須。ビールでも洗剤でも、大衆商品はなんとか消費者に名前を覚えてもらおうと涙ぐましい努力をしている。
クルマでも大衆車クラスのネーミングはコロコロ変わる傾向がある。日本のモータリゼーション初期に一斉を風靡したカローラ/サニーやコロナ/ブルーバードといったビッグネームも、いまでは絶滅危惧種。
カローラは派生車種が大量に出現してなんか水で薄めたみたいだし、コロナは消滅。ブルーバードはシルフィのサブネームとしてかろうじて存続するが、サニーはとっくの昔に消滅といった状況だ。
ホンダでは、シビックは頑張っているものの中身は往時とはまったく違うクルマ。現行シビックはアコード、現行アコードはレジェンドとして売ったほうが日本のユーザーは理解しやすいのでは、と思えるほど大型化している。
そういう意味で言えば、現行レジェンドはアキュラ・ナントカで、新ネームを建てたほうがいいように思う。そんな混乱した状況だから「ネーミングが違えば売れたかもしれないクルマ」というお題は難しいテーマだ。
レジェンドはもはや北米に向いているモデルで、かつて国内で一世を風靡したレジェンドではない。いっそのことアキュラブランドの導入も手だった!?
たとえば、スバル・エクシーガは後にクロスオーバー7と改名するも低迷したまま終わったが、これなどは「レガシイ・ナントカ」みたいなあやかりネーミングにすればちょっとは販売も上向いたかもしれない。
むかし三菱は「パジェロ・ナントカ」を連発したけど、大ヒット車があったらそれにあやかるのが正解。RVRとかアウトランダーでは往年のインパクトはない。これも、三菱販売不振のひとつの要因だろう。
■改名すればいいってものではない!?
ぶっちゃけて言えば、大衆車はむしろ「売れなくなったら話題づくりのために名前を変える」というのが実態。どんなに一世を風靡した車名でも、時代が変わったと判断されれば躊躇なく捨てられる。
売れなかったクルマは、たぶんネーミングを変えてもけっきょく売れなかったというのが真実に近いのではなかろうか。
いっぽう、伝統と継続性が大事な高級車部門でも、本当はやっちゃいけないんだけど、日本車はけっこう車名を変える。もちろん、当事者はブランドを再定義して販売に喝を入れるつもりなんだろうが、ぼくから見ると「もったいない」と思うことが少なくない。
その代表例は、セドリックをやめてフーガにした日産だ。一時はクラウンvsセドリックといえば日本を代表する高級車だったのに、バブル期あたりからセドリックの退潮が目立つようになる。
日産はそのタイミングでシーマをヒットさせた体験が忘れられなかったんじゃなかろうか。シーマの夢をもう一度。セドリックをフーガと改めて再チャレンジを図ったという風に見える。
フーガはマイナーチェンジでインフィニティのエンブレムを搭載したが車名はフーガのまま。スカイランも同様でメーカーにも車名変更への迷いがみられる
結果はみなさんご存知のとおり、ジリ貧にさらに拍車をかけただけで終わったのだが、いま思えばここで日産の高級車部門の看板を完全に架け替得るべきだった。車名だけ変えてもインパクトは限定的。
むしろ、日産高級車すべてをインフィニティブランドで統一すれば、フーガの販売は今よりは伸びたことだろう。フーガ同様往年の名車スカイラインも低迷久しいが、このクラスのD/EセグFRにそれぞれ愛称をつけるのは時代遅れ。
フェアレディZやGT-Rをふくめ、高価格帯の日産車はすべてインフィニティGナントカや、Mナントカで統一したら、より存在感が増したと思うのだがいかがだろう。
そんな中で、個人的にいちばん惜しいと思ったのはスカイライン・クロスオーバー。これはインフィニティEXで売ったらずっと話題になったに違いない。
つまるところ、ネーミングが違ったら売れていたかもしれないクルマというのはあんまりなくて、もっと重要な問題はブランドを上手に構築していれば売れていたかもしれないクルマがある、そういう問題なんじゃないでしょうか?
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