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テスラが宇宙を飛ぶ意味と功罪

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テスラが宇宙を飛ぶ意味と功罪

 2018年2月6日(日本時間7日早朝)、アメリカの起業家イーロン・マスク氏が率いる「スペースX」社が、大型ロケット「ファルコン・ヘビー」の打ち上げを成功させました。

 ファルコン・ヘビーはペイロード(積載物ないし最大積載量)64tを宇宙空間の地球低軌道上へ打ち上げるよう設計されており、今回は実験として少量のバラスト(重し)を搭載。そのバラストに選ばれたのが、(マスク氏が所有する)赤いテスラ・ロードスターでした。

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 実験の打ち上げや2機のブースターが(再利用のために)ケネディ宇宙センターに同時着陸する風景とともに、宇宙服を着た人形を運転席に載せたテスラ・ロードスターが、青い地球をバックに悠然と宇宙を漂うシーンはスペースX社公式サイトとYoutubeでライブ中継され、全世界へと公開され大きな反響を呼びました。

 このテスラと運転人形は太陽の周りを回って火星まで回る軌道周回に入ります(約10億年、周り続けるそう)。

 多くの「メカ好き」を興奮させたこの世紀の一大イベント、特に「スポーツカーを宇宙に打ち上げたこと」に関して、クルマ好きはどう受け止めたのでしょうか(本記事担当は大興奮して見入ってしまいましたが……)。

 イーロン・マスク氏の狙いや功罪も含め、自動車ジャーナリストの鈴木直也氏(宇宙&ロケット大好き)に解説していただきました。

文:鈴木直也 写真:Space X

■「起業家」として、やはり天才としか言いようがない

 イーロン・マスク率いるスペースX社が、超大型ロケット「ファルコン・ヘビー」の打ち上げに成功した。

 このニュース映像を見て、世界中のロケット好きが熱狂している。総重量1400tの巨大なロケットが宇宙目指して上昇してゆくシーンや、切り離された補助ブースターが2機そろって地上基地に戻ってくるシーンなど、とにかく理屈抜きに人を感動させるインパクトがある。もちろん、ロケット好きを自認するぼくも超感動。「スゴイなぁ!」とつぶやきながら見惚れてしまいました。

青い地球をバックに走る(ように見える)真っ赤なテスラ・ロードスター。とても実画像とは思えないが、全世界にライブ中継された

 民間企業がこれだけ高性能なロケットを開発し、しかもそれがコスト面でも高い競争力を持つ。アメリカのベンチャービジネスのもっとも輝かしい成功例として、歴史に残る快挙といえるでしょう。

 もうひとつ、クルマ好きにとっての注目点は、このロケットによって打ち上げられたのが真っ赤なテスラ・ロードスターだったことだ。ダミーの宇宙飛行士がステアリングを握るこのテスラ・ロードスターは、火星を目指す軌道に投入されてその後は太陽を周回する人工惑星となる。

 もちろん、これはイーロン・マスクのもうひとつのコアビジネスであるテスラの広報宣伝活動なのだが、フロントウィンドウの向こうに青い地球を臨む映像や、漆黒の宇宙空間を背景にロードスター浮かんでいる映像など、こちらもまた理屈抜きにカッコイイ!

 ファルコン・ヘビー初号機はテスト用だから、通常はダミーのペイロードを搭載するところなのだが、そこに自社のスポーツカーを積んでプロモーションに活用するなんて、イーロン・マスクにしかできない芸当。起業家としてほんとうに天才的な人だと思う。

イーロン・マスク氏は「2060年代までに、100万人を火星に移住させる」という計画を発表。今回の実験もそのためだという。なんというか、広げる風呂敷のスケールがケタ違いだ……

■イーロン・マスク氏は未来にしか興味がない

 ふつう、自動車メーカーが自社製品のブランド価値を高めるには、積み上げてきたレース活動や歴史的な名車など、いわゆるブランドヘリテージを活用する。「うちは老舗でございます」という戦略だ。

 ところが、イーロン・マスクの考えはその真逆。新しいテクノロジーでまったく新しい概念のクルマを造り、既存のプレミアムブランドすべてを一気に時代遅れの遺物にしようという作戦。

 たぶん、イーロン・マスクという人は未来にしか興味がないのだ。

 そう考えると、いろいろなことが納得できる。

 ファルコン・ヘビーの成功とは対照的に、いまテスラは「モデル3」の量産に手こずるなど、その快進撃に陰りが見えてきている。

2016年3月に発表された「テスラ モデル3」。補助金を含まずに35,000ドルという安価で、航続距離350km以上。発表後一週間で30万台以上の予約受注を集めたが、生産計画に遅れが出ており納車が滞っている

 画期的なEVとはいえ自動車は自動車、きちんとした品質を造り込み、競争力のある価格でユーザーのものとに届けるのは容易ではない。サプライヤーを含めたコストと品質のバランス。従業員のトレーニングからはじまる安定した生産技術の積み重ね。販売スタッフの確保や供給後のメインテナンス態勢、保証、サービスや不具合、事故対応。地味で長い道のりだ。

 最先端技術のカタマリであるロケットに比べると、こういう地道な作業にイーロン・マスクのベンチャー精神はあんまり燃えないのでは? そういうふうに見えてしまう。

 しかし、この難しい課題を克服すれば、自動車ビジネスには大きな成果が約束されている。打ち上げコスト100億円といわれるファルコン・ヘビー1機でどのくらいの利益が出るのかは不明だが、仮に1機100億円の利益があるとして、1兆円の利益を出すには年間100機の打ち上げが必要になる。自動車ビジネスならこの数字は可能だが、ロケット事業ではたしてそれほどの需要があるか、かなり微妙と思われる。

 スペースXの華やかな成功はすばらしいけれども、イーロン・マスクの事業としての本命はテスラのはず。モデル3の量産を成功させ、そこで利益を上げること。たぶん、それはファルコン・ヘビーの打ち上げ以上に難しいミッションなのかもしれません。

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