新型XC60を開発したスウェーデン本社のボルボ・カー・コーポレーションの開発陣にインタビュー。世界で最も売れている主力車種のモデルチェンジに困難はなかったのだろうか? ハンス・ニルソン氏とマーカス・パーシバル氏が開発者の視点で新型XC60を語る。
今年は「ボルボ XC60」【2017-2018日本カー・オブ・ザ・イヤー】
「2017-2018日本カー・オブ・ザ・イヤー」を授賞したことで、改めて注目されているのが、新型ボルボXC60の存在だ。ボルボXC60は、抜群のプロポーションと絶妙な乗り心地を併せ持つ北欧のプレミアム・ミディアムSUVとして高い人気を集めている。
先代のXC60は、欧州のプレミアムSUVクラスにおいて、2008年の発売から9年連続で好調なセールスを維持し、世界累計で約100万台が販売された。スウェーデン本社のボルボ・カー・コーポレーションにとってもXC60は乗用車全体の売上げの30%を占める最も重要な主力モデルだ。
「自動車市場の調査会社JATOが独自に収集した数字によると、ボルボXC60は、2015年にヨーロッパで最も売れたミッドサイズSUVとなりました。XC60はボルボ車のポートフォリオのなかで重要な位置にあり、2016年には、ボルボの世界売上高合計の約30パーセントをXC60が占めています。XC60はボルボ・カーズが営業拠点を置くすべての主要な市場で販売されます。スウェーデン、米国、中国、ドイツ、英国、日本など、XC60は多くの市場で歴史的に最も大きな成功を収めている車種なのです」
このインタビューに答えてくれたのは、ボルボ・カーズ・コーポレーション シニア・プロダクト・マネージャーのハンス・ニルソン氏、シニア・コマーシャル・プロジェクト・マネージャーのマーカス・パーシバル氏のふたりである。新型XC60の車両開発に最前線で携わった彼らは、日本市場をどのように分析しているのだろうか?
「日本市場はボルボ・カーズが長年販売を行ってきた重要な市場です。すべてのプレミアム車種と同様に、お客様の社会的ステータスや高級品に対する志向を反映したクルマでなければなりません。お客様は進歩的な考え方を持ち、高価で上質なライフスタイルを求めています。望まれているものは、洗練された都会的なデザインを備えながらも意のままに操れるSUVであり、それこそがお客様に自由を与え、お客様の成功を証明し、お客様の基準を満たすのです」
さて、新型XC60は世界各国で高い評価を得ている。その秘密はどこに隠されているのだろうか?
「新型XC60に対するメディアの反応は、発表時から非常に好意的でした。英国Auto Express誌のテストでは競合車種を抑えて第一位を獲得し、英国の自動車テレビ番組Top Gearをはじめ、その他多数の国際メディアによるレビューでも高いランクを獲得しています」
こうした高い評価のなかには、90シリーズに続いて投入されたボルボの自社開発SPA(スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー)プラットフォームの存在が大きい。
「この新プラットフォームは、激戦区のD/Eセグメントに要求される高品質な特徴とデザイン性能を実現するために開発しました。プラットフォームの構造によって、短いフロントオーバーハングとフロント車軸からダッシュボードまでの距離を備える高品質なバランスも実現しています。また、シャシーのみならず、パワートレイン、インフォテインメント・システム、クライメート・システム、セーフティシステム、シートなど各種ソリューションの多くもXC60に引き継がれています」
最新のボルボは最も安全なクルマである。当然、新型XC60の安全装備も最新版であり、今回初搭載された装備も多い。では、開発者の視点で、最新セーフティデバイスのアピールポイントを聞いてみた。
「新型XC60には、皆さんに注目していただきたい4つの安全テクノロジーを投入しています。ひとつ目は『オンカミング・レーン・ミティゲーション』で、対向車線に向かって自車線を逸脱した場合、最初にXC60から警告を発し、その後ステアリングを修正して自車線に戻るように制御します。ふたつ目が『ステアリングアシスト付BLIS』。自車線から逸脱し、後方から迫る車両と衝突する危険が迫っている場合、警告と同時にステアリングを修正して自車線に戻るように誘導します。3つ目が『ステアリングサポート付シティ・セーフティ』で、これは障害物に向かって走行し、衝突の危険がある場合、最初に警告を発し、次にオートブレーキを作動させます。ドライバーが回避的な操縦を開始すると、迅速なステアリング入力を実行するために、ステアリング制御と車両片側のタイヤにブレーキを作動させます。最後に、シティ・セーフティの衝突回避スピードが、最大時速60キロに向上した点が挙げられます」
ボルボは数々の安全神話を持ち、現代においても様々な事故データを蓄積して車両開発に反映しているのはあまりにも有名な話だ。新型XC60においても、当然こうした最新デバイスを投入し、着実に『VISION2020』の実現に近づいている。しかし、新型車の開発は総合的なものであり、走りの味やデザインのほか、話題性なども必要である。大ヒットとなった後継モデルということで、車両開発において苦労した点や困難はなかったのだろうか?
「私たちには当初から、明確な方向性と、デザイン、特徴、性能内容に関する意図があり、非常にわずかな調整のみが行われました。課題となったのは、新しい短縮型のプログラム開発期間でした。XC60には、SPAプラットフォームの新しいHMIも搭載され、操作が簡単な縦長のタッチスクリーンが装備されています。また、シャシーはベースにダブルウィッシュボーン・フロントサスペンションとマルチリンクリア・サスペンションを採用したことで、ロールセンターの移動向上ととても優れた挙動を実現しています。そこからのシャシー設定は3種類あります。スタンダード、ダイナミック、Rデザインシャシー、それに5種類のドライブモードを搭載したアクティブFour−Cダンパーと組み合わせたエアサスペンションです。また、ツインエンジン407psのプラグインハイブリッドのT8も大きなアピールポイントになります」
最後にボルボ社の乗用車部門のSUV戦略において、新型XC60の役割について聞いた。
「ボルボ・カーズはSUVのラインアップを一新し、先ごろ新たにXC40を市場に投入しました。プレミアムSUVは世界の自動車市場を成長させる強力な促進力であり、XC60はボルボ車のベストセラー・モデルのひとつとしての役割を今後も継続していきます」
単にラインナップを広げるのではなく、ひとつずつの製品を丁寧に造りあげていくボルボ。新型XC60の登場によって、世界中にボルボファンが増えるのは間違いないことだ。
なお、ボルボXC60の情報を余すところなく紹介している、モーターファン別冊「ボルボXC60のすべて」は、三栄書房から好評発売中だ。
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