ドイツから日本まで走破したNSU Ro80
2019年8月、ドイツ在住のクラウス・フォン・ダイレンが、ご婦人と一緒に1967年式のNSU Ro80でユーラシア大陸を横断。日本のマツダ本社まで1万1000kmを自走で訪問するという、大旅行を達成した。
NSU Ro80は1967年から1977年にかけて、今のアウディの一角をなすNSU社が製造していた、ロータリーエンジン搭載の4ドアサルーン。同じくロータリーエンジンを搭載した2ドアクーペ、コスモ・スポーツを生み出したマツダ本社を訪れるのは、必然の流れだったようだ。
これまで20年に渡って、婦人と一緒に長距離ドライブに情熱を傾けてきたというクラウス。ドイツから日本までクルマで走ろう、と考えついたのは、1908年のニューヨーク-パリ耐久ラリーから100周年記念を迎えた、2008年だった。
このラリーは、ニューヨークをスタート地点にアメリカ大陸を横断。海を渡って横浜を経由してロシアへ入り、パリを目指すという、ほぼ地球を1周するルートが設定されていた。
ニューヨークからサンフランシスコまでのアメリカ大陸横断は、2008年に長距離ドライブ愛好家や友人と、既に走破していたクラウス。2018年の8月に「今やらなければいつやるのか」という想いに駆られ、ユーラシア大陸の走破を決めた。
そこで設定したルートが、日本からドイツへ向うルート。当時と方向は逆向きだが、Ro80で走ることは当然のことだった。実現に向けて準備を進めている中で、広島のマツダ本社を訪問することを思いついたそうだ。
Ro80はNSU製でマツダのクルマではないが、珍しいロータリーエンジンという技術に、結びつきを感じたという。「NSU以外でロータリーエンジンを作った唯一のメーカーを訪問する、またとない機会を提供してくれるルートでした」と振り返るクラウス。
素晴らしい体験の連続だった
「愛車のRo80でドイツから走るため、多くの課題を克服しました。無事にマツダに到着し、素晴らしい歓迎を受けた時は、とても感激しました。Ro80がこのルートに最も相応しい選択だったと、強く感じました」
「シベリアを抜ける時に、ビザが必要でした。サンクトペテルブルグからモスクワを経てウラル山脈を越えることは、事前に決めていました。そこからは、シベリア鉄道の線路に沿って走るしかルートはありません」
ガソリンスタンドも充分にあったが、Ro80のガソリンタンクが大容量だったことも、有利に働いた。特別なハプニングもなく、クルマと自分たちの健康状態を最優先に走った。
向う先々が、すべて初めて訪問する土地。「1日に1000km走った日もありました。ナビが960km先を右折です、といった時、その地点に到着することを想像した時の気持ちは、本人でなければわからないでしょう。素晴らしい体験の連続でした」
「ロシアを1万km走った後、フェリーで鳥取県の境港まで渡りました。無事に税関手続きを終え、そこから広島への道中は、ゴールに向けての準備を整える特別な時間でした」
だが、港から一般道へ出る手続きに、少し手間取ったようだ。
広島では、 マツダミュージアム訪問のみを予約していたというクラウス。その後、マツダから正式に訪問を歓迎するという連絡があった。実際、クラウス夫妻はマツダから大歓迎されることになる。
ロータリーエンジンの開発を担当した技術者たちは、長い時間を取って夫妻を出迎えた。ロータリー固有の特徴や、技術的な話題で交流を深められたのは、クラウスも機械工学に携わってきたからだ。
ロータリー・モデルが出れば購入したい
マツダミュージアムも見学したクラウス夫妻。歴代のロータリーエンジンやロータリー搭載モデルを実際に見ることができ、大きな感銘を受けたという。
また、ロータリーエンジンの設計をした清水氏のほか、スタッフたちとマツダ本社前の駐車場でNSU Ro80を観察。クラウスは自らRo80のロータリーエンジンに改良を加えており、技術的な説明にマツダ側のスタッフも耳を傾けた。
ロータリーエンジンの、これからの可能性に期待を寄せているクラウス。「今後のロータリーエンジンについて聞きたかったのです。特にRX-8の後継モデルが出るかどうか」
具体的なことは聞けなかったという。「その答えがまだわからないとしても、マツダからロータリーエンジンを積んだモデルが出るなら、必ず購入したいと思います」とクラウスは話す。
「マツダ・クラシックの存在は最近知りました。旅のあと、マツダ・ドイツからマツダ・クラッシック・ミュージアムへの招待があり、喜んで受けましたよ」
今回の訪問を終えドイツに戻ると、マツダ・モーター・ヨーロッパから、 旅の記録をまとめた写真集がプレゼントされた。
今回の訪問によって、クラウスはロータリーエンジンへの思いを一層強くしただろう。「新たな目的地を見つけては、Ro80で旅に出たくなります。20年間、ロータリーに失望したことは一度もありません。次に向うのは、北です」
ノルウェーの北端、キルケネスかガンビクを次の旅行先として考えている。「Ro80は、氷点下40度の中でも堪えなくてはなりません。寒すぎるので、妻には家で留守番をしてもらおうと思います」
ロータリーエンジンを積んだNSU Ro80の走行距離は、まだまだ延びそうだ。
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