ホンダは2022年9月に発売予定のスポーツモデル、新型シビック タイプRを世界初公開した。
ホンダは1964年に世界最高峰の自動車レースであるF1参戦を宣言。自動車を作り始めたばかりの無謀にも思える挑戦は、翌年のメキシコGPで初優勝を飾る快挙を遂げた。以来、今日に至るまでレースに挑み続けてきた……。そこに息づくチャレンジングスピリットとホンダ伝統のレーシングテクノロジーを注ぎ込み、レーシングカーが持つ速さと圧倒的なドライビングプレジャーを追求するモデルが「タイプR」である。
1972年の初代発売から50周年を向かえるシビック。そしてタイプRとしては1992年にNSXに冠してから2022年11月で30周年を迎えるという節目の年に誕生する新型シビック タイプR。世界的な環境負荷低減による電動化の波が押し寄せるなか、おそらく純内燃機関を搭載する最後のタイプRとなる新型がいかなる進化を遂げたのか、詳しく見ていこう。
●FF車世界最速を目指して進化
新型シビック タイプRは2021年9月に発売した11代目をベースに、タイプRの本質の価値である「速さ」と官能に響く「ドライビングプレジャー」を両立する「Ultimate SPORT 2.0」をコンセプトに開発。先代シビック タイプRのコンセプト「Ultimate SPORT」をさらに進化させ、速さと走る喜びを極めたピュアスポーツ性能を目指した。
●意外なほど“すっきり”な外形デザイン
エクステリアデザインは、現行シビックの端正かつ伸びやかなフォルムを生かしながら、タイプRならではの“圧倒的な速さ”のイメージと美しさを兼ね備えたデザインを創出。目を引くのはボディと一体となったワイドフェンダー。サイドパネルから美しく流れるような造形により、これまでのような後付け感がなく、むしろすっきりとした印象さえも与える。ぱっと見ではそれほどベースモデルとの違いを感じられないかもしれないが、かなりワイドなスタンスとなっている。現時点で詳細なスペックは明らかになっていないが、開発責任者の柿沼秀樹さんよると、ベースモデルと比べ片側で45mm(全幅で90mm)ワイド化しているという。
しかも前後フェンダーだけでなく、ドアパネルまでもタイプR専用デザインで仕立てられている。これは今回の新型タイプRから国内生産へと切り替わったことで、専用部品を用いた生産設備が整えられたことで実現した。
このボディ一体となったワイドフェンダーがもたらすものは見た目のすっきり感だけでなく、フロントからリヤに抜ける空気の流れをうまくコントロールできようになり、空力性能の向上にも寄与しているという。
フロントまわりは、ハイパワーターボエンジンのポテンシャルを遺憾なく発揮させるために取り入れた大開口のグリルデザインによるワイドなスタンスが強調される。
ロアグリル内左右にはインテークが設けられ、ホイール内の圧力を軽減しフェンダーダクトから空気をスムーズにサイドへ流している。同様にサイドシルスポイラーにもリヤタイヤまわりでの整流効果を発揮するインテークが設けられるなど、デザインと機能性を高次元で融合させた。
リヤまわりに目を向けると、タイプRの象徴とも言えるスポイラーは小型化され、まさかの黒塗り仕様だ。現行シビックの特徴でもある流麗なリヤまわりの造形を生かしながら、サイズの最適化とアルミダイキャスト製ステーの採用により、ダウンフォースの強化とドラッグの低減の両立を図っている。
また、リヤバンパー下部のディフューザーはアンダーフロアから一体化した空力的な造形処理を施すことで高いダウンフォースとスタビリティの実現に貢献。
これらタイプR専用の空力アイテムの装着によりダウンフォースはベースモデルに対して200km/h走行時で900Nmもの上乗せを実現しているという。
新型タイプRの足まわりは、19インチの鍛造アルミホイールを採用。先代の20インチに対してはインチダウンとなるが、リム部に段差のないリバースリム構造の採用により深く立体的で大径感のあるデザインとなっている。タイヤサイズは265/30ZR19で先代よりも幅広化。タイヤはミシュラン パイロットスポーツ4Sを装着、さらなるグリップ性能の向上と乗り心地のよさを両立させた。
ボディカラーは、タイプRを象徴するチャンピオンシップホワイトを軸として、新色のソニックグレーパールを設定したほか、フレームレッド、レーシングブルーパール、クリスタルブラックパールの全5色を用意する。
●鮮烈な赤いシートと黒内装のコントラスト
インテリアは、前席ドアを開けた途端に赤いシートが目に飛び込む。しかも先代よりも鮮やかさを増しているという鮮烈な赤だ。カーペットももちろん(?)赤である。前席だけでなく後席まで敷き詰められ、乗る人すべてがタイプRの乗っているという高揚感に包まれる仕掛けだ。
前席のスポーツシートは、サーキットでの限界走行からロングドライブまで姿勢の保持性とサポート性に優れる多面体の3D形状を採用。シート表皮は摩擦係数の高いスウェード調素材となる。ハニカムパターンのパーフォレーション(穴開け加工)が施されており、上下方向のグラデーション配置により視覚的にも変化を持たせている。後席にもスウェード調表皮を採用する。
運転席に座ると一転、目の前はブラック基調の落ち着いた景色に包まれる。運転に集中できるようノイズを排除した仕立てで、現行型シビックで特徴的なエアコンアウトレットのメッシュも偏光ガンメタリック塗装により上質感が感じられるものとしている。
タイプRの象徴であるマニュアルシフトノブは、先代のマイナーチェンジモデルで採用したティアドロップ型を採用。センターコンソールはシフトノブに呼応したアルミ製パネルが張られ硬質感や特別感を演出。
●「+R」専用メーターを新採用
メーターには「+R」専用画面を新たに開発。限界走行でも注視しなくても感覚的に認識できるLEDレブインジケーターやエンジン回転計をはじめ、ギヤ段などの走行に必要な情報を上段に表示。下段には冷静に状況を把握するための車両情報など表示するなど明確にゾーニングすることでサーキット等でも頼れるメーターを目指したという。
ベースモデル同様の2眼メーターもタイプR伝統の黄色の指針や320km/hの速度計、レブリミット7000回転の回転計など専用デザインを採用する。
●ドライブモードにカスタマイズ可能なインディビジュアルモードを搭載
ドライブモードについては、先代モデル同様、日常からサーキットまでより多くの人が楽しめるよう走行シーンやドライバーの気持ちに応じて選択できる、コンフォート、スポーツ、+Rという3つのドライブフィールを設定。さらに6つのドライブパラメーターをドライバーの好みに応じてカスタマイズできるインディビジュアルモードを新たに設定。自分好みの自分だけのタイプRを満喫できるようになっている。
インディビジュアルモードで設定した内容はエンジンの再始動時にも保持されるので、毎日エンジンをかけた瞬間から思いどおりのドライブフィールが楽しめるのだ。
●走りのパフォーマンスは多角的に引き上げられている
ダイナミクス性能に関しては、アルティメイトドライビングプレジャーをコンセプトに、圧倒的な速さを追求するとともに、一度運転したらやみつきになるドライビングプレジャーを目指し、FF車最速を目指す“Fastest(ファステスト)”、痛快なドライビングフィールで運転することに夢中になる“Addicted Feel(アディクテッドフィール)”、高速安定性と信頼性に満ちた“Secure Feel(セキュアフィール)”の3つ要素を軸に開発。
■Fastest
これまでのタイプRを上まわるパフォーマンスを目指し、タイプR専用の2L VTECターボエンジンを磨き上げ、より高出力・高レスポンスになるよう磨き上げるため、ターボチャージャーの翼の外径や枚数・形状を新設計。回転イナーシャを低減することでターボ回転数と応答性を向上させるなどしている。
■Addicted Feel
速さを追求するだけでなく、運転することに夢中になれるよう、思いどおりに操れるハンドリングや足裏に吸いつくようなドライバビリティを磨き上げるとともに、6速MTの操作感とレブマッチシステムを進化させることで痛快なドライビングフィールを追求。
例えば、クラッチシステムのフライホイールを徹底的に薄肉化することで慣性重量を大幅に低減。レブマッチシステムの自動ブリッピングレスポンスを先代比で10%向上させた。これによりエンジン回転差が一番大きな2→1速のシフトダウン時でも自動ブリッピングの作動を実現したという。
■Secure Feel
洗練されたデザインとしたうえでさらなる空力進化を図り、前後バランスよくダウンフォースを発生させるとともに、空気抵抗の低減を両立。軽量かつ高剛性のボディに合わせて高速走行時における高い安定性を実現した。
●「Honda LogR」でタイプRとつながる。世界ともつながる
このほか新型シビック タイプRを存分に味わい尽くすために、データロガーアプリ「Honda LogR(ホンダ ログアール)」を新たに開発。
アルティメイトスポーツ2.0として磨き上げられた、スポーツカーとしての本質の価値や進化を図ったうえで、リアルタイムに車両情報を知ることができる「Honda LogR」を活用すれば、ドライビングスキルの向上や走行映像のシェアなど、ドライバーとクルマがひとつになったドライビングプレジャーを味わえる。これは車両に搭載されるディスプレイオーディオ上で各種情報が見られるほか、スマートフォン用の「Honda LogR」アプリでも確認可能だ。
「Honda LogR」では、世界中のタイプRユーザーとのつながりも持てるというから、タイプRを所有することで今まで以上に多彩なスポーツカーライフが楽しめるというわけだ。
より多くの人が走る楽しさを味わえる新世代のタイプR。スパルタンなイメージからの転換点を迎えながらも、そこはかとなく感じられるスポーツスピリットは隠しきれない。2022年4月には鈴鹿サーキット国際レーシングコースでFF車最速となる2分23秒120のラップタイムをたたき出している。涼しい顔をしてバカッ速なんて、いったいどんな走りの世界が味わえるのか。2022年9月の正式発売が今から待ちきれない!?
〈文=ドライバーWeb編集部 写真=山内潤也〉
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