現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > ヤマハ「YZF-R1」などの型式指定申請時の「不適切」とは何だったのか? 国交省は何を検査しているのか

ここから本文です

ヤマハ「YZF-R1」などの型式指定申請時の「不適切」とは何だったのか? 国交省は何を検査しているのか

掲載 24
ヤマハ「YZF-R1」などの型式指定申請時の「不適切」とは何だったのか? 国交省は何を検査しているのか

型式指定申請時の不適切行為ですべての生産車両が疑われ、生産ラインが止まる

 ヤマハ発動機の型式指定申請時の不適切事案は、日野自動車、ダイハツ工業などで連続した性能試験の改ざんをきっかけに、国土交通省が他社に対して類似の事案がないか確認を求めたことに回答する形で公表されました。

衝撃!バイクの2035年問題を知っていますか?

 ヤマハ発動機は現行モデルの「YZF-R1」、生産を終了した「YZF-R3」、「TMAX」について、不適切な型式指定申請があったことを報告しました。それぞれに現行モデルがありますが、「YZF-R3」、「TMAX」の不適切事案は、生産を終了した型式に限定されます。

 型式指定とは、大量生産を前提として生産されるどの車両も、均一な安全・環境性能であるということを車両試験や工場設備の各種データで提示し、その証明として「型式」を取得する制度です。

 申請時のデータに不適切な事案があるということは、不適切な証明を前提に大量生産されていることが推測されるため、同じ型式で生産されている車両は、その疑問が払拭されるまで工場から出荷できない状態が続きます。

 それだけ自動車メーカーにとって影響が大きい制度です。

 こうした事案が発生した場合、自動車メーカーは第1に、すでに市場に出回った車両についてリコールなど回収の必要性があるかを確認します。

 ヤマハもこの点では「現在出荷を停止している対象の車両および過去に出荷済みの車両に関しては、再試験の上、実際の使用に支障は生じないことを確認済みです」ということを、合わせて公表しました。

「車両に支障が無いなら、すぐにでも生産ラインを再開できるじゃないか」「国交省は厳しすぎる」という意見も一部にありますが、ユーザーからすれば慎重に見定めてもらう必要があります。

 仮に支障があることが後々に判明すると、補償問題にも発展します。過去の燃費不正では燃費を良く見せた分のユーザーへの補償、車検時における該当部品の無償交換などをしたケースがあります。

なぜパイプジョイントの交換より、出力ダウンで試験する選択をしたのか

 では、ヤマハ発動機のケースのように、ユーザーの使用に支障が無い場合はどうなるのか。それが次の段階です。

 何が問題だったのか。現行モデルの「YZF-R1」を例にとると、同社の説明はこうです。

「騒音試験において、規定とは異なる条件で試験が行なわれていたという不適切な事案が確認されました」

 型式指定申請の要件として実施される騒音試験は、生産車両のエンジンを始動して測定するだけでなく、市場に送り出された後も騒音基準が基準内に収まっているかどうかが問われています。

 測定前に一定の条件でエンジンを回し続けて、いわゆる劣化を再現する試験準備調整(同社で言うコンディショニング)を行ない、その後に排気騒音を測定します。同社は、このコンディショニングの段階で「誤った判断をした」と話します。

「YZF-R1」のように高回転、高出力のエンジンでは高い熱を持ちます。そのためコンディショニング中の一定条件を保つための測定装置とマフラーをつなぐパイプジョイント部分が「熱によって試験器具が溶損する事態が生じた」ことで、騒音測定の見直しを迫られました。

 騒音を抑えるために、マフラーの中にはグラスウール製の吸音材が入っています。同社は説明しています。

「認証担当者はグラスウール製吸音材の耐久劣化状態に影響を与えず、排気圧力・持続時間・試験サイクル数等の試験条件を満たす範囲であれば、試験機器の溶損を避けるためにエンジン出力を変更することは問題ないと誤った判断をした」

 騒音試験を行なう前のコンディショニングでは、エンジン回転数を上げて一定の出力を保ちながら、マフラーへの加圧と減圧を2500回以上繰り返す必要があります。パイプジョイントはこの過程で損傷しました。

 本来であれば、ジョイント部分を耐熱性の高い部材に交換して再試験すれば良かったのですが、認証担当者は出力を落とすことで発熱を抑えて再試験を行ないました。その考えに至った理由をこう説明します。

「コンディショニングの条件を一部変更しても技術的にグラスウール製吸音材の飛散への影響が無ければ法令上も問題ないと誤った判断をした」

生産再開は、再発防止対策の実効性が評価された後に

 国交省は、2024年6月5日に同社に対して立入検査を実施しました。国交省は今後、誤った判断が単に不適切なだけなのか、それとも不正なのかを精査します。また、同時にヤマハに課せられたのは、今後の再発防止策です。

 過去の不祥事にも重なるところですが、再発防止策として、同社はいくつか示した対策の最上位に、次のような内容を掲げています。

「試験規程において認証業務と開発業務を明確に区別する」

 この不適切な行為の原因のひとつは、会社の体制の問題もあります。開発部門が受験生だとすると、認証部門は試験官です。ヤマハでは「一部の認証業務を開発部門に委託していた」(ヤマハ担当者)と話します。

 開発期間をできるだけ短くして、市場に車両を送り出そうとする開発部門の気持ちは、何としても合格を目指す受験生と通じるものがあります。その構造で不適切事案が発生することは、すでに過去の自動車メーカーの不正事案で明らかになっていました。

 車両の開発に従事する開発者は、誰よりも車両について熟知しているという自負があります。開発過程で多くの試行錯誤を繰り返すことで、何を変えると、どんな影響が出るかを熟知しているため、認証に対する結果が見えてしまうことがあります。

 同社は再発防止の第2に「認証業務の遵法性の担保と維持」と「試験プロセスの重要性と留意事項等を継続的に教育」を掲げていますが、優秀な学生にいくら試験の結果が見えていたとしても、受験生が試験のルールを変えて合格証書を受け取ることはできない。本来は誰にでもわかる単純な話なのです。

 しかし、ヤマハの型式指定申請における不適切事案の再発防止で本当に必要なことは、なぜ単純に理解できることが、安易に曲げられてしまったのか、という疑問です。

 生産ライン再開の道は、その説得力ある回答にかかっています。

関連タグ

【キャンペーン】第2・4 金土日はお得に給油!車検月登録でガソリン・軽油5円/L引き!(要マイカー登録)

こんな記事も読まれています

新東名「最後の区間」どこまでできた? 過去最大規模の「トンネル湧水」発生も…どんどん造ってます!
新東名「最後の区間」どこまでできた? 過去最大規模の「トンネル湧水」発生も…どんどん造ってます!
乗りものニュース
オーナーは桐島ローランドさん 葉山町にオープンした新スポット『Felicity Cafe』とは
オーナーは桐島ローランドさん 葉山町にオープンした新スポット『Felicity Cafe』とは
バイクのニュース
マジか…? 新制度導入で「車検」通らないかも!? 10月から始まった“新たな車検”何が変わった? 覚えておきたい「OBD検査」の正体とは
マジか…? 新制度導入で「車検」通らないかも!? 10月から始まった“新たな車検”何が変わった? 覚えておきたい「OBD検査」の正体とは
くるまのニュース
70年代の“GTカー”が令和に復活!? 限定100台のミツオカ「M55ゼロエディション」ついに登場
70年代の“GTカー”が令和に復活!? 限定100台のミツオカ「M55ゼロエディション」ついに登場
VAGUE
新スタイルの洗車場、個室ブースで心置きなく洗車が可能…土曜ニュースランキング
新スタイルの洗車場、個室ブースで心置きなく洗車が可能…土曜ニュースランキング
レスポンス
マンホールの”大打撃”から1年……今度こそフロントロウからラスベガス決勝に挑むサインツJr.、混戦を予想「分からないことが多すぎる」
マンホールの”大打撃”から1年……今度こそフロントロウからラスベガス決勝に挑むサインツJr.、混戦を予想「分からないことが多すぎる」
motorsport.com 日本版
【悲報】マジかよ!? ホンダ二輪スポンサーのレプソルが2024年限りで契約解消へ
【悲報】マジかよ!? ホンダ二輪スポンサーのレプソルが2024年限りで契約解消へ
ベストカーWeb
「六本木のカローラ」を乗り継ぎ4台目!…BMW「3シリーズ」が自宅ガレージにあるのが普通という親子の現在の「E30」の経歴が凄かった!!
「六本木のカローラ」を乗り継ぎ4台目!…BMW「3シリーズ」が自宅ガレージにあるのが普通という親子の現在の「E30」の経歴が凄かった!!
Auto Messe Web
【クシタニ】による「クシタニの防寒グッズまとめ」!これで寒さを乗り切れる!
【クシタニ】による「クシタニの防寒グッズまとめ」!これで寒さを乗り切れる!
モーサイ
【写真蔵】「Jeep」ブランド初の100%電気自動車は、レネゲードよりもコンパクトな「アベンジャー」
【写真蔵】「Jeep」ブランド初の100%電気自動車は、レネゲードよりもコンパクトな「アベンジャー」
Webモーターマガジン
今季最悪の路面が今季最高のスペクタクルを生む? F1ラスベガスGP、タイヤの“グレイニング”を抑えることが鍵に
今季最悪の路面が今季最高のスペクタクルを生む? F1ラスベガスGP、タイヤの“グレイニング”を抑えることが鍵に
motorsport.com 日本版
東京都に住むEVオーナーは注目!  最新設備の「アウディ・チャージング・ハブ 紀尾井町」の150kWh超急速充電を30分無料開放
東京都に住むEVオーナーは注目!  最新設備の「アウディ・チャージング・ハブ 紀尾井町」の150kWh超急速充電を30分無料開放
THE EV TIMES
「公道で操れんわw」「1.6億で仰天」超弩級のシューティングブレーク『ROCKET GTS』にSNSも熱視線
「公道で操れんわw」「1.6億で仰天」超弩級のシューティングブレーク『ROCKET GTS』にSNSも熱視線
レスポンス
新しいF1レースディレクター、ドライバーたちは好印象「これまでで最高のドライバーズブリーフィングだった」
新しいF1レースディレクター、ドライバーたちは好印象「これまでで最高のドライバーズブリーフィングだった」
motorsport.com 日本版
ノリス2番手「ロングラン・パフォーマンスの悪さに衝撃を受けた」マクラーレン/F1第22戦木曜
ノリス2番手「ロングラン・パフォーマンスの悪さに衝撃を受けた」マクラーレン/F1第22戦木曜
AUTOSPORT web
ダイハツの「“2階建て”軽トラ!?」登場! 4人乗れて4人乗れる! “広々”内装の「ステージ21 リゾートデュオ バンビーノJr」所有のインフルエンサー「さおりんご」さんに直撃!
ダイハツの「“2階建て”軽トラ!?」登場! 4人乗れて4人乗れる! “広々”内装の「ステージ21 リゾートデュオ バンビーノJr」所有のインフルエンサー「さおりんご」さんに直撃!
くるまのニュース
足が長くてシートがもっと高い! BMW Motorrad「R 1300 GS・GSスポーツ」は不慣れなライダーでも楽しめる?
足が長くてシートがもっと高い! BMW Motorrad「R 1300 GS・GSスポーツ」は不慣れなライダーでも楽しめる?
バイクのニュース
初日最速のハミルトン「なぜトップに立てたのか分からない」メルセデス/F1第22戦
初日最速のハミルトン「なぜトップに立てたのか分からない」メルセデス/F1第22戦
AUTOSPORT web

みんなのコメント

24件
  • sat********
    自国メーカーを叩き上げて外国メーカーには激甘審査だろ国交省は。国内メーカーの衰退の原因は皆国交省などの官僚のせいだ。
  • 早太郎
    不正でも不適切でもなく国交省のイチャモンにしか聞こえない。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村