この記事をまとめると
■世界各国のタクシー車両の多様化が進んでいる
「お客さん、ここで降りて」はOKだった! タクシーが迷惑客に「下車命令」を出せる状況と料金の扱い
■2017年に発売されたトヨタJPNタクシーに生産終了の噂が出ている
■JPNタクシーの後継モデルは出ない可能性が高い
登場から8年のJPNタクシーが終了するという噂
21世紀になるかならないかというころ、世界の主要都市におけるタクシーはその街の顔ともいえる「お決まり」の車両ばかりとなる都市も目立っていた。日本ではトヨタ・クラウンコンフォートやトヨタ・クラウンセダン、そして日産セドリックばかりとなっていた。ドイツへ行けばセダンまたはステーションワゴンのメルセデス・ベンツEクラス、そしてアメリカではフォード・クラウンビクトリアとなっていた。
ここ最近では、これらの都市でもタクシー車両の多様化が進んでいる。ドイツではメルセデス・ベンツEクラスよりもトヨタ・カローラツーリング スポーツ(日本でのカローラ・ツーリング)が目立つようになったが、それ一択というわけでもない。アメリカでは、全体で見ればトヨタ・プリウスが圧倒的に多いのだが、イエローキャブで有名なニューヨーク市では、トヨタ系ハイブリッドモデルを中心に、各メーカーのハイブリッド車など、かなり多彩なラインアップとなっている。
タイにおけるタクシー車両は、トヨタ・カローラアルティス(日本でのカローラセダン)がいまでも圧倒的に多いが、最近では中国メーカーのBEV(バッテリー電気自動車)タクシーも目立ってきている。気候変動抑制を意識して、環境負荷の低いモデルへの移行が進むなかで、過去のお約束モデルでのタクシー車がいなくなったり、往時の勢いを失いかけているといってもいいだろう。
ただし、イギリス・ロンドン名物の「ロンドンタクシー」は、その製造が中国の吉利(ジーリー)汽車傘下となったものの、いまもレンジエクステンダーEV仕様になるなど、進化してその存在感を維持している。
日本ではこれまでのクラウン系やセドリック系に代わる形で、2017年にトヨタJPNタクシーが発売されている。後席ドアをスライド式とした背の高いMPV(多目的車)スタイルを採用し、車いすでそのまま車内に入ることもできる「ユニバーサルデザイン」を売りとして登場した。搭載エンジンは1.5リッターLPガスエンジンベースのハイブリッドとなり、それまでのクラウン系LPガスタクシーより格段に燃費性能も向上させている。
正式発売から間もなく8年目に入ろうとしているJPNタクシーだが、ここへきて「生産終了になるのではないか」という業界の噂が筆者の耳に入ってきた。
噂によると、現状JPNタクシーのハイブリッドシステムは「THS-II」なのだが、いまのトヨタ車はTHS-III(あくまで俗称)が主流となっている。フルモデルチェンジするか否かは別としても、JPNタクシーではさまざまな理由から「THS-III」へブラッシュアップするのが困難だというのである。
発売当初はクラウンコンフォート系より100万円ほど車両価格が高いこともあり、東京など大都市の大手タクシー事業者以外は車両を入れ替えることに躊躇し、それまで使っていたクラウン系やセドリックのタクシーの継続使用に踏み切ったり、クラウン系やセドリックタクシーの中古車へ入れ替える動きも目立ち、一時、とくにクラウンコンフォートやクラウンセダンの中古車価格が高騰したこともある。
さらに、新型コロナウイルス感染拡大がJPNタクシーへの入れ替えを停滞させることとなった。全国的に行動自粛要請が政府から発せられ、それに伴いタクシーの利用も大幅に減少することとなった。タクシー会社では保有するほとんどのタクシー車両を車庫に置きっぱなしにする日々が続き、事業者の収益悪化もあるが、車両が動かない日々が続いたので走行距離も伸び悩み、定期的な車両入れ替えサイクルがきてもそのまま保有車両を使い続けるということが目立ってしまったのである。
JPNに代わるタクシー車両の開発も期待できない!?
筆者の居住地域は東京隣接県であり、首都圏でも住みたい街の上位にランクインするターミナル駅があるが、そこのタクシープールで客待ちするタクシーは、いまでもクラウンコンフォートあるいはクラウンセダンばかりとなっている。
さらに、生産終了の噂話が単なる噂では済まないのではと思わせるのが、LPガススタンドの廃業が止まらないことである。東京隣接県、つまり首都圏のある中核都市でターミナル駅を抱える某市では、その市内にLPガススタンドが1軒もなくなり大騒ぎとなっていると聞いている。それなりの規模を有する複数のタクシー事業者があるのに、遠方のLPガススタンドまで充填に行かなければならなくなったのである。
すでに地方都市では同様の出来事が起きており、そのような地域では、トヨタ・プリウスなどハイブリッドユニットを搭載する中古車を購入してタクシーとして使っているケースが目立っている。
日系メーカー内でタクシー専用ともいえる車両をラインアップするのはトヨタのみとなっている。それではトヨタはJPNタクシーに変わる車両を新たにラインアップするのかというと……、「トヨタではJPNタクシーに代わる車両の開発は行わないのではないかといわれています。となると、日本メーカー製のタクシー専用車両はなくなることになります」とは事情通。
事情通はタクシー業界内ではすでに「ポストJPNタクシー」として、トヨタ・シエンタに注目しているようだと教えてくれた。先代シエンタのときにタクシーとして導入する事業者がおり、2列シート仕様が人気を博していた。しかし、その先代、そして現行モデルのシエンタをタクシーとして使用する最大の障壁が「耐久性」にあるようだ。「シエンタを普通に自家用車として使うことについての耐久性はなんの問題もないでしょう。ただ、都市部では5年ぐらいで45万kmほど走行距離が伸びるタクシーでは、専用設計されていないシエンタではそこが大きな壁として立ちはだかっているようです」(事情通)。
日本国内でも路線バスについては全国的にBEV路線バスの導入が積極的に行われている。現状では中国・BYDオート(比亜迪汽車)を中心とした外資ブランドもしくは、海外委託生産モデルの普及が進んでいる。タクシーでも日本メーカー製で明確な選択肢がなくなると、バスのような動きが顕著となってくるかもしれない。
「BYDでは『e6』というBEVモデルがタイの首都バンコクやインドネシアの首都ジャカルタなどでタクシー車両として走っているのを見かけますし、事実それ以外の国でもタクシーとして走っています。日本でもすでにいくつかのタクシー事業者がe6を試験的に数台導入しています。JPNタクシー生産終了となれば、BYDサイドがタクシー事業者へ本格的なアプローチを仕掛けてくるのではないかとの話もあります。また、中国広州汽車もタクシーなどフリート販売向け専用のBEVセダンを、タイではタクシーベースとなるカローラアルティス(内燃機関)並みの価格で販売しており、破竹の勢いでバンコク市内でタクシーとして走り出しています。場合によっては広州汽車の日本市場参入というものを許してしまうかもしれません。韓国系ブランドも、韓国の首都ソウルではさまざまな韓国製BEVがタクシーとして走っているので、日本市場拡販の好機到来と捉えるかもしれません」(事情通)。
ただし、トランプ新大統領誕生を目前に控え、日本政府が中国製品への警戒を強めているとの情報も入っている。経済安全保障問題のほか、トランプ政権の中国政策を意識し、ある意味できる範囲で同調しようとしているようなのである。それが顕著となれば、中国メーカーが日本国内でもいまより動きにくくなってしまうことになりそうである。
世界的にBEV販売が苦戦傾向にあるとされているが、それはあくまで自家用レベルでの話。バスやタクシーなど公共輸送機関のBEV化は粛々といまもなお進んでいる。仮にJPNタクシーが生産終了となれば、しばらくは日系ブランド車のおもにハイブリッド車で各タクシー事業者は「ポストJPNタクシー」を探ることになるだろうが、中長期的に見れば日本のタクシー車両もBEVというか「脱化石燃料由来動力」は避けられないので、このままでは外資BEVタクシーの普及が懸念される。
残る一手は水素燃料車開発で存在感を見せるトヨタが水素燃料タクシーをラインアップすることを願うばかりともいえる。
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みんなのコメント
「JPNタクシー」、今一使い勝手が悪い。
記事中でも少し触れていますが、問題の要は耐久性です。
大手なら40万㌔程度で代替出来るでしょうが、中小では70〜80万㌔使わないと経営出来ません。
クラウンにしてもジャパンにしても、タクシー専用車両は耐久性が別次元。
また、修理するにしてもモデルチェンジの間隔が長いので、廃車車両から中古部品を取ったりする事も出来る。
またモデルチェンジの間隔が長ければ、車両の古さも目立たない。
実際、ジャパンでも登場から8年ですが、1年目の車両と8年目の車両を見た目で分かる人は居ないでしょう。
8年だと、自家用車なら2回位モデルチェンジしていてもおかしくない。
シエンタで2代前、1代前、現代と並んでたら、お客様に古い車両がバレバレですよね。
大手法人が自家用タイプをほとんど導入しないのは、そうした理由から。
中小が自家用を入れてまだ数年ですが、この先経営問題が出てきますよ。