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カーボンニュートラル燃料深掘り バイオマスガス編【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

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カーボンニュートラル燃料深掘り バイオマスガス編【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

車の最新技術 [2024.09.13 UP]


カーボンニュートラル燃料深掘り バイオマスガス編【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】
文●池田直渡 写真●スズキ、池田直渡

内燃機関をアップデートするマセラティNettuno【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】

 バイオマスという単語、何だかわかった様なわからない様な言葉だと思う。平たく言ってしまえば「生物由来の」という意味で、バイオマスガスと言えば「生物由来のガス」ということになる。

 今回の記事では、おそらくスズキが実証実験中の牛糞由来のメタンガスが主役になる。スズキのメインマーケットであるインドには、牛が3億頭もいる。この牛糞を発酵させて得られるバイオマスガス(メタンガス)は自動車の燃料として使える。3億頭の糞から実に3000万台分の燃料が生成できる。インドの車両保有台数は4000万台なので、実にその75%を賄えることになる。


インド市場向けのワゴンR CBG(圧縮バイオメタンガス)車。スズキは2022年からCBG事業に取り組んでいる
 スズキはそもそもインドでのカーボンニュートラル実現手段を複数用意している。マルチパスウェイである。2024年度のスズキの販売内訳を見ると、HEVが14.8%、CNGが27%を占めている。地域によってはこの他にバイオエタノールにも対応している。

 CNG(Compressed Natural Gas・圧縮天然ガス)は、天然ガスを高圧に圧縮したものだ。実はスズキは、インドにおけるこのCNG車のシェアの7割と最多で、トップブランドなのである。そもそもCNGは化石燃料の一種だが、ガソリン比でCO2排出量が少ない上、燃料コストが安い。そのランニングコストの安さが好まれて、CNG車はヒット商品になっているわけだ。

 さて、このCNGエンジンは、牛糞由来のバイオマスガスにそのまま転用できる。つまりスズキは今絶好調に売れているCNG車がそのままCNF対応車両になるというある意味出来過ぎのストーリーとなっている。

 牛糞は地上の食物連鎖の一部なので、当然カーボンニュートラルなのだが、バイオマスガスにはそれ以上のメリットがある。農場で放置された牛糞は発酵してメタンガスを発生するが、このメタンガスはCO2の28倍の温室効果がある。つまりこのメタンをエンジンで燃やしてCO2化すると、差し引きゼロのカーボンニュートラルではなく、温室効果を1/28に引き下げるという意味でマイナスエミッションの効果がある。


スズキによるインドにおけるバイオガス実証事業のフロー
 BEVを作るとなると、化学メーカーの出番であり、先端系の企業の仕事になるが、新興国での主力産業は農業だ。牛糞の商品化は全国の農業従事者の所得にプラスの働きがある。長期的にはともかく、今のインドにとって必要なのがどちらかと言えば現在の主力産業に寄与するバイオマスガスはとても魅力的に映る。

 もちろん広大なインドで牛糞の集積をどう行うのか、そしてそれを効率良くバイオマスガス化するにはどうするかなど課題が残るが、これだけメリットの大きいメソッドを放置する手はないだろう。


2024年7月、スズキはインドで5つ目のバイオガス生産プラント設置に基本合意。同時に農村向けモビリティサービスについても取り組みを推進している
 さて、ここまで牛糞由来のバイオガスの話をしてきたが、すでに勘の良い読者ならお気づきの通り、バイオガスは自由度が高い。要するに有機物が発酵すればいいのだから、当然ながら牛糞には限らない。人糞でも構わないし、鶏でも豚でも羊の糞でも問題ない。畜産業との連携で全く同じことができるのである。さらに言えば、残飯や生ごみ、草刈りのゴミや製材のクズを始め、食品加工の残滓、例えばサトウキビや大豆の搾りかすも材料になる。

 「要するに食物連鎖関係なのだな」と思うのは半分当たりだ。そこから半分外れた材料も使える。例えば下水の汚泥。生活排水によって富栄養化した汚泥もまた原材料になる。しかも汚泥は下水というシステムですでに集積ルートができており、下水処理場で簡単に採取することができる。

 現在福岡市では、この下水処理の過程で出たバイオマスガスから水素を生成する実証実験を行なっている。実証実験中の福岡市中部水処理センターでは1日に約3300Nm3≒295kg(燃料電池車約65台分:福岡市の資料ママ)の水素を製造に成功している。筆者の計算によると、燃料電池車がMIRAIを指すなら59台分で微妙に計算が合わないがまあ、あくまでも実証実験なので細かいことを言っても仕方がない。今後消化槽の改築によってさらに処理量が増える予定だ。

 2015年に下水道法が改正され、下水道管理者に対して下水汚泥のエネルギー利用について努力義務規定が盛り込まれた。今後同様の事業に取り組む自治体は増加が見込まれる。

 途上国では農業とセットで、先進国では下水とセットでこうしたバイオマスガスの利用が進めば、無理の少ない形でCNFの調達ができる様になる可能性がある。

 さて、6回に渡ってお届けして来たこのCNF深掘りシリーズだがひとまず今回で終了である。現在の取り組みの内主要なものは網羅したつもりだが、CNFは今回取り上げた方法以外でも作れる可能性は高い。また新たにスポットの当たる製造方法が出て来たら、追加で書くことがあるかも知れない。

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