映画『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』が只今、大ヒット上映中だ。この007シリーズで見どころのひとつとなっているのがボンドカー。その代表格がアストンマーティンだろう。最新作ではDB5をはじめ、4台ものアストンマーティンが登場している。
このアストンマーティン、実際にはどのような高級車なのか? その歴史や現行モデルの魅力などを紹介する。
※本稿は2021年10月のものです
文/西川 淳 写真/ベストカー編集部 ほか
初出:『ベストカー』2021年11月26日号
[gallink]
■アストンマーティンとはどんなクルマなのか?
1959年にル・マン24時間レースを制覇したDBR1
起源となる組織の設立は1913年にまで遡る。当初から高性能車を生産し、レース活動を積極的に行うなど、いかにも黎明期の高級ブランド的であったが、例に漏れず戦争と過剰投資で経営困難に陥った。
第二次世界大戦後にそんなアストンマーティンを救ったのがデイビット・ブラウンで、イニシャル「DB」が今も車名として残っている。
この時、ブラウンはラゴンダ社も買収しており、当代一級のエンジニアでベントレー社を創設したW・O・ベントレーも同時に移籍している。
2013年にはザガート50周年を記念したV12ヴァンテージ・ザガートが登場
白眉は1959年のDBR1によるル・マン24時間レース制覇(1・2フィニッシュ)で、フェラーリを抑えての勝利によりDBシリーズの名声が一気に高まった。さらに、DB5がボンドカーとして使われた1960年代半ばにアメリカ市場で大いに人気を博し、第一次絶頂期を迎えた。
1960年代後半にDBが経営から離れると再び低迷。オーナー変遷を重ねて1980年代後半にフォード傘下へ。PAGの一翼を担い、12気筒モデルの開発やDBシリーズを復活させるなど第二次絶頂期を迎えた。
その後、フォード傘下から独立。メルセデスAMGとの提携を経てパワートレーンと電子プラットフォーム供給の道筋を作ると、2020年にはF1チームを運営するローレンス・ストロールが大株主となった。
■イタリアンスーパーカーとは何が違うのか?
60年ぶりにF1に復帰したアストンマーティンはF1セーフティカーにヴァンテージを投入。そのノウハウを生かしたF1エディションを発売中
現代のアストンマーティンはFRベースの豪華なグラントゥーリズモを得意とするブランドだ。
美しいスタイリングとユニークでかつラグジュアリーなインテリアデザインのイメージどおりに、その走りもまたGT寄りと言ってよく、例えばフェラーリのFRモデルに比べると、加速やハンドリングにおいてより抑制の効いたパフォーマンスをみせる。攻めるというより、心地よく流すほうが気持ちいいモデルが多い。
もっとも最近ではサーキット性能に磨きをかけたモデルも意欲的にリリースしており、イタリアンスーパーカーとの違いは以前より小さくなりつつある。今後は2シーターミドシップをラインナップの中軸に据える。F1参戦と市販ミドシップカー。ビジネス的にはフェラーリのそれに近づくことだろう。
次項からは、最新のアストンマーティンのラインナップを見ていこう
■アストンマーティン 最新ラインナップ
●DBS/スーパースポーツでありフラッグシップ
5.2L V12ターボエンジン(725ps/91.8kgm)+8速ATを搭載
自社開発の5.2L 12気筒ツインターボエンジンをフロントに積むリア駆動のフラッグシップGTだ。このところのアストン最上位モデルの名にはヴァンキッシュとDBSが順繰りに使われており、特に現行モデルは当初、DBSスーパーレッジェーラと名乗っていた。
現在はシンプルにDBS。ボディタイプはクーペとソフトトップのヴォランテ(コンバーチブル)がある。
スタイリングはほかのシリーズに比べて筋骨隆々としており、グラマラスに膨らんだ前後フェンダーと大きなグリルが見るものを圧倒する。
その走りはどうか。ブランドのイメージどおりに上質なGTでありながら、ひと度モードをスポーツ系に変えたなら、リアフェンダーの膨らみが象徴するように獰猛なマシンへと変貌する。
迫力ある12気筒サウンドは圧巻だ。大柄であるにもかかわらずハンドリングも良好で、特に高速域においては秀でた空力性能の恩恵もあり、FRマシンらしいパフォーマンスを存分に楽しむことができる。
●DB11/アストンマーティン伝統の優雅なクーペモデル
5.2L V12ターボ(639ps)、4L V8ターボ(510ps)を搭載
現時点でブランドの中心軸はクラシカルに美しいFRのグラントゥーリズモであり、そのイメージに合致するモデルがDB11だ。それゆえ最新アストンマーティンに用意される2種類のエンジン、4L V8と5.2L V12の両ツインターボからチョイスできる(ただしコンバーチブルのヴォランテはV8のみの設定)。
DB11の魅力はなんと言っても典型的なロングノーズ&ショートデッキの流麗なクーペスタイルにある。今後はさらに空力重視になるため、味わい深い古典的スタイルは現行モデルで見納めかも。
走りはどうか。12気筒モデルは典型的なグラントゥーリズモだが、V8モデルではハンドリングも良好でリアルスポーツカーの片鱗もみせる。バランスのいい本格FRスポーツとしても評価できよう。いずれにしても優雅なスタイルにふさわしいライドテイストで、大人のための洗練されたGTスポーツカーである。
●ヴァンテージ/ピュアスポーツでありアストンの中核モデル
4L V8ターボエンジン(510ps/69.9kgm)+8速ATを搭載
ブランドの中核を担う4L V8ツインターボエンジン搭載の2シーターFRスポーツカーだ。ヴァンテージとは昔からV8を積む高性能モデルに与えられてきた称号で、先代モデルよりブランドの主力となっている。
現行型のパワートレーンはメルセデスAMGとの協業によるM177エンジンを搭載したことがニュースに。8ATもしくは7MTを組み合わせていたが、現在では3ペダルがラインナップから落ちている。
クーペとロードスターを用意。後者は他モデル同様にエレガントなソフトトップ(といってもかなり硬い)とする。ボンドカーとして活躍したDB10がデザインスタディモデルで、DB11のデビュー前から次期主力モデルのカタチとして話題を集めていた。
その走りは他のシリーズに比べてスポーツ性が高く刺激的だ。重量バランスに優れ、実にFRらしいスポーツカーとして振る舞う。なかでもペースカーベースのF1エディションはそのスパルタンさにおいてブランド史上最高の市販ロードカーだと言っていい。
●DBX/アルミボディ採用のスーパーSUV
4L V8ターボ(510ps/69.9kgm)を+9速AT搭載
アストンマーティンが独自に開発したSUVだけあって、そのスタイルもパフォーマンスも優れてユニークだ。まずはそのサイズ感が面白い。遠目で見るとさほど大きさを感じない。フォルムとしてはワイドでSUVにしては背が低いからだ。けれども実際にはかなりデカい。全長5mはともかく幅が2mもあるのだ。
メルセデスAMG製の4L V8ツインターボエンジンを搭載。4WDとエアサスの組み合わせでSUVとしての機動力を確保した。
注目すべきはその走りだ。オンロード性能の高いSUVは今や珍しくもなんともないが、スポーツカーのヴァンテージに遜色のない走りをみせるという点でDBXの動的パフォーマンスはほかの高級SUVと一線を画す。
元ロータスのエンジニアが開発の指揮を取ったというだけあって、ガレージから飛び出した途端、SUVらしくないドライブフィールに驚くことだろう。加速もハンドリングも、まさに背が高いだけのアストンマーティンである。
【番外コラム】今年7月に発表された『ヴァルハラ』とは?
今年7月に市販モデルが発表されたヴァルハラ。750psを発生する4L V8ツインターボのプラグインハイブリッドをミドに搭載した新スーパーカー
限定車ヴァルキリー(コスワースV12ハイブリッド)に続くブランドのミドシップ化戦略第2弾がヴァルハラ。V8に2つの電気モーターを組み合わせたPHEVで、フェラーリSF90の対抗馬だ。
アストンマーティンはこの後、ヴァンキッシュ相当のミドシップモデルもリリースする予定で、F1イメージを最大限に活用するスーパーカーブランドへと転身することになる。
お手本はズバリ、フェラーリだ。おそらく電動化に適したレイアウトということでFRからMRへの転換がなされようとしているのだろう。DBシリーズの行く末が気になるところだが……。
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みんなのコメント
歴史薄っ! 駄記事決定!
ベストカーなら仕方ないか。
てっきり、この作品に出てきたモデルはと、紹介があるのかと思いましたが。