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1億円のセナが買えない人にサーキットで乗ってほしい──マクラーレンの新型“ロングテール”600LTに試乗

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1億円のセナが買えない人にサーキットで乗ってほしい──マクラーレンの新型“ロングテール”600LTに試乗

LTの2文字はマクラーレン・ファンにとって特別な意味を持つ。そのルーツは1997年に誕生した“F1 GTR ロングテール”にまで遡る。この年、プロトタイプカーまがいのGTカーでFIA GT選手権に挑むポルシェとメルセデスに対抗するため、マクラーレンはF1ロードカーのテールをおよそ500mm延長してエアロダイナミクスを飛躍的に向上させたレーシングカーを投入した。以来、ロングテールの頭文字であるLTは、ボディの延長によって空力特性を改善するとともに、軽量化やエンジンのチューニングでハイパフォーマンス化を図った特別なモデルを意味するようになった。

これに続く形で2015年と2016年には675LTクーペと675LTスパイダーが相次いでデビュー。いずれも650Sをベースとした純粋なロードカーだが、ボディの延長による空力特性の改善、軽量化、エンジンのハイパワー化といったLTの伝統を受け継いでいた。ロードカーながらサーキットでまばゆいばかりに輝くそのパフォーマンスは多くのマクラーレン・ファンの心を掴み、500台の限定生産分はいずれもまたたく間に売り切れたことはいまも語りぐさとなっている。

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今回登場した600LTは、したがってLTとしては第4世代にあたるモデルだ。

その位置づけは675LT同様、あくまでもロードカーだが、スーパーシリーズの650Sをベースにした675LTと異なり、600LTはスーパーシリーズよりひとつ下にあたるスポーツシリーズの570Sを基本としている。

では、600LTは675LTに比べて大きくパフォーマンスが劣るモデルなのか? そう考えるのは大きな間違いだ。なにしろ加速性能では675LTに迫る速さを示すうえに、サーキットのラップタイムであれば600LTが675LTをむしろ上回るほどなのである。ベースモデルのグレードをひとつ落としながらも、たった3年間で従来型に比肩するパフォーマンスを達成してしまうところに、マクラーレン・オートモーティブの恐るべきエンジニアリング能力と開発スピードの速さが示されているように思う。

そのスペックをざっと紹介すれば、注目のエアロダイナミクスはリアオーバーハングを47mm延長してリアディフューザーを大型化するとともに570Sにはなかったリアウイングを追加、フロントにも大型のスプリッターを装着することで250km/h時のダウンフォースは570Sを100kgも上回るという。

エンジン周りではテールパイプをエンジンカバー上面に設けて排気系を短縮。これによって背圧の低減を図ったほか、過給圧の引き上げを含むエンジン・マネージメントの改良により600ps/7500rpmと620Nm/5500~6500rpmを達成。これは570Sをそれぞれ30psと20Nm上回るパフォーマンスである。さらに前後サスペンションのスプリングとアンチロールバーのバネ定数を引き上げ、タイヤをピレリPゼロ・コルサからよりサーキット向けのPゼロ・トロフェオRに改めて、クルマとドライバーのより深い一体感を実現、サーキットでのパフォーマンスを向上させた。

試乗会が催されたのはF1ハンガリーGPの舞台としても知られるハンガロリンク・サーキット。F1グランプリのなかではツイスティーなことで知られるが、コーナーが連続するためにリズミカルで流れるようなドライビングが要求される難コースでもある。

ここをまずはベースとなった570Sで慣熟走行したのち、直ちに600LTに乗り換えるというスタイルで試乗会は実施された。

ピットレーンから走り始めただけで、ステアリングから得られる600LTのインフォメーションが570Sよりはるかに豊富で、路面の感触が逐一伝わってくることが実感できた。そのいかにもダイレクトなフィーリングは、まるでレーシングカートかフォーミュラカーのようでもある。

本コースへの合流でスロットルを踏み込めば、ターボエンジンであることがまったく信じられないほどシャープな加速感が発揮されることに驚く。そのいかにも軽快な感触は100kgの軽量化が無駄ではなかったことの証明だろう。

コーナーに向かってステアリングを切り込むと、600LTはドライバーの意思に忠実に従ってみせるが、その反応は実に軽快で、ここでもレーシングカーやレーシングカートによく似た反応を示す。左右に切り返すS字コーナーや大きく回り込むタイトコーナーでもノーズの重さを一切感じさせることなく、アンダーステアは極めて軽い。そこからさらにプッシュすれば、ステアリング特性は次第にニュートラルからオーバーステアに近づき、瞬間的にステアリングを戻したくなる状況が何度か現れた。これが、もしもひとつのコーナーを捨てても次のコーナーで取り戻せるタイプのサーキットであれば、蛮勇を振るって意識的にオーバーステアを引き出そうとしただろうが、集中力を途切らせることを許さないコースレイアウトゆえ、私の技量ではとてもそこまで試すことはできなかった。

それでも600LTのレシポンシブな挙動はサーキット走行でこそ真価を発揮するものといえる。ハードコーナリングを試しても4輪がバランスよく接地している点や、超高速域からのブレーキングが極めて安定していることもまったく同様。その意味では、絶対的なパフォーマンスに大きな差はあるものの、およそ1億円で500台が限定販売されたアルティメイトシリーズのマクラーレン・セナによく似たキャラクターである。

ただし、600LTの価格はおよそ3000万円と、従来のロングテール・モデルやセナと比べて極めてお手頃。しかも675LTやセナと違って生産台数が限定されるのではなく、オーダー受付が今年の10月から来年の10月までの期間限定となる点も大きな特徴だ。マクラーレンで本格的なサーキット走行を楽しみたいと望むファンにとって、600LTほど現実的な選択肢はほかにないだろう。

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