開幕直後は今季もダブルタイトル獲得は間違いないと言われていたレッドブル。しかしここにきて、黄色信号が点滅している。ドライバーズタイトルとコンストラクターズタイトルの両方でマクラーレンが急接近し、特にコンストラクターズランキングは第16戦イタリアGP終了時で8ポイント差と、逆転は時間の問題とも思える。
両タイトルを防衛するためには、マシンのパフォーマンスを早急に改善する必要があることは、レッドブルも認めている。しかしそれを言うのと実際に実行することは別問題。何が悪かったのか、まだ明確には説明されていないのだ。
■レッドブルの”最速F1マシン”を”モンスター”に変えてしまった要因は? 挑戦しすぎた開発が原因との声も
FIAがマシンのレギュレーション違反を指摘したため、それを取り外したことでRB20の戦闘力が落ちたという噂もあるが、これは荒唐無稽な話。忘れてしまっても良かろう。現在の問題は、レッドブルが自ら招いたものだ。
何が起きているのかまだはっきりしたことは分かっていないが、イタリアGPの後にチーム代表のクリスチャン・ホーナーは、問題の原因になっていることについて、興味深いヒントを語った。
マシンはバランスの問題に苦しめられていると公言されているが、これについてホーナー代表は次のように説明した。
「フロントとリヤが分離してしまっている。それは分かっているんだ」
「風洞実験ではそういう結果は出なかったが、コースではそういう状況になっている。だから、それを克服しようとしているんだ。なぜならそうなってしまうと、ツールを信頼できないということになってしまうからだ。だからコースでのデータと過去の経験に立ち返らなければいけない」
では、風洞と実走行データの相関関係が、問題が生じた原因なのだろうか? それを知るために、チームがどこで苦労したのか、そしてそれをどう解決しようとしてきたか、その履歴を見てみることにしよう。
結果とマシンの挙動という点では、マイアミGPがターニングポイントだったようだ。それはレッドブルではなく、ライバルチームにも当てはまることだった。しかしマクラーレンはこのグランプリにシーズン初の大型アップデートを投入し、初勝利を収めた。そしてその後のグランプリで使いやすい、ベースとなるものを手にすることになった。
またメルセデスも、モナコでアップデートを投入したことで優勝争いに加わってくるようになった。
フェラーリもこの頃はトップグループの一角にいた。しかしスペインGPでアップデートを投入すると、高速走行中にバウンシングが発生。マシンの挙動に苦しむことになった。
レッドブルは風洞の相関関係に問題があることに気づき、パフォーマンスをあまり犠牲にせず、安全な解決策を見つけるために、これまで投入してきたアップデートパーツを、再びチェックしなおしたり、実際に走行させたりしてきた。
問題の解決だけでなく、改良にも取り組んできた。その結果オーストリアとベルギーを除く全てのレースで何らかのアップデートが投入された。
マイアミGP以降のアップデートのタイムラインをざっくり見ていくと、その期間中にRB20がどれだけ変更されたか、そのプログラムが長期的な目標と短期的な目標にどう分けられたのかが分かる。
マイアミGP以降のRB20アップデート内容
■マイアミGP
パフォーマンス:エッジウイング・サポートブラケット(エッジウイングの金属製サポートを削除)
■エミリア・ロマーニャGP
パフォーマンス:フロントウイング(エンドプレートの形状、全てのフラップの弦長、ノーズ内側のセクションを変更)
パフォーマンス:ノーズ(前述のフロントウイングの変更に合わせて、カメラの取り付け位置も変更)
パフォーマンス:フロア&エッジウイング(エッジウイング前のフロア上部のセクションを最適化し、エッジのシェディングストレーキ/巻き上げられるようになった部分をスクロースセクションに再配置)
サーキット・スペック:リヤブレーキダクト(複数のダクト出口の形状を変更し、隣接するウイングレットを最適化)
■モナコGP
サーキット・スペック:フロントブレーキダクト(低速サーキットに対応するため、開口部を拡大)
サーキット・スペック:トップウィッシュボーンフェアリング(ステアリングの舵角を増やすため、フェアリングに切り込みを入れた)
サーキット・スペック:ビームウイング&リヤウイング(ダウンフォース構成の強化)
■カナダGP
サーキット・スペック:フロントブレーキダクト(冷却出口の拡大。幅を広げ、高さも増した)
サーキット・スペック:リヤウイング(ダウンフォースレベルを引き上げるための、新しいフラップ形状)
■スペインGP
パフォーマンス:サイドポンツーン(今後のレースに向けて、ボディワークとインレットのサイズと形状を変更)
パフォーマンス:フロア(サイドポンツーンの変更に伴い、連動するように変更)
パフォーマンス:ビームウイング&リヤウイング(翼端板の下部1/4が拡大され、許容されるボックスの領域でより多くのスペースを占めるようになった。その結果、ビームウイングも拡大された)
■オーストリアGP:
アップデートなし
■イギリス
パフォーマンス:フロア&エッジウイング(側面衝撃吸収構造の周囲のフロアを再設計し、エッジウイングを有効活用できるように変更)
■ハンガリーGP
パフォーマンス:フロントウイング(4枚のフラップ全てを変更し、ダウンフォースを増加)
パフォーマンス:ロワウィッシュボーンフェアリング(改良されたフロントウイングに合わせ、ウイッシュボーンのフェアリングも変更。下流の流れが改善された)
パフォーマンス:エンジンカバー&ヘイロー(エンジンカバーが狭くなり、ショルダー部分が高くなったため、ヘイローとエアボックスの間に、損失を補うための、新しい上部吸気口が必要になった。エンジンカバーのボディワークの変更に対応するために、ヘイローのフェアリングにも調整を加えた)
パフォーマンス:リヤブレーキダクト(アッセンブリー内およびアッセンブリー周辺の気流を改善するため、エンドフェンスのジオメトリを変更)
■ベルギーGP
アップデートなし
■オランダGP
パフォーマンス:ヘイローウイングレット&ウイングミラーステー(構造物を囲む空力的なパーツは、下流域の気流に影響を与える手段としてよく使われる。そのため、数レース前に行なわれた他の変更に合わせて、この部分も変更する必要があった)
サーキット・スペック:リヤ冷却用開口部(ハンガリーGPで投入されたよりタイトなエンジンカバーに対応するため、リヤの冷却用ボディワークが小型化された)
■イタリアGP
サーキット・スペック:フロントウイング(空気抵抗削減のため、フラップの弦長を短縮)
サーキット・スペック:リヤウイング(空気抵抗削減のため、上部フラップの後端をトリミング)
レッドブルに必要なのは問題の対処だけじゃない
変更の規模が大きいことから、もし間違った方向転換を引き起こしたのがひとつのコンポーネントだった場合、それが何なのかを突き止めるのはかなり難しいだろうということは明らかだ。
レッドブルにとっても、現在の状況はかなり新しい領域であるようだ。過去3シーズン、大きな問題……ライバルチームが直面していたような問題に悩まされたことはほとんどなかったからだ。開発の成功率は比較的良好で、ほぼ予想通りの結果が出ていた。
つまり現時点での課題は、現在の問題に対処する方法を学ぶ必要があるというだけでなく、将来同じ問題を再度引き起こさないよう、それがなぜ起きたのかを理解する必要もあるということだ。そして今最も重要なのは、どのツールが信頼できるのかを、見極めることである。
ホーナー代表は、次のように語っている。
「マシンに何か不具合があると、シミュレーションツールから異なる値が得られ、それが収束しないのは珍しいことではない。その場合、CFD、風洞、実走の3つのデータセットが得られるということになる」
「もちろん、本当に重要なのはコース上を実際に走った時のデータだ。その開発は、3つの異なる時計で時間を確認するのと同じことだ。そしてその中で最も価値のある情報を提供してくれるツールに集中する必要がある。もちろん、コース上を走った時のデータが最も信頼性がある」
大きな問題は、レッドブルが答えを導き出すためにどのくらいの時間がかかるかということだろう。そして、そのためにファクトリーで行なわれた、または現在進行中の開発作業のうちどれだけを放棄する必要があるのかということも重要になってくる。
他のチームに起きたことと同様、この問題に対処するために時間を費やさねばならないということの影響度は、特に深刻である。しかも今のレッドブルは、古いパーツのデータを収集することに労力を費やしている。それは、チームがより迅速に改善を提供することに集中していないということを意味している。
しかもライバルチームは上昇傾向にある。そのため、彼らとのパフォーマンス差はすぐに拡大してしまう可能性があるし、今シーズンだけでなく今後にもその影響が尾を引く可能性すらある。
またあまり注目されていないことではあるが、一部のサーキットに合わせて、ピレリがタイヤの最低内圧を引き上げたことも、レッドブルの苦戦に拍車をかけている可能性がある。
苦戦の本質的な原因が機械的なものであれ、空力的なものであれ、タイヤの最低内圧が引き上げられることで、マシンの作動領域からさらに離れてしまうことに繋がる可能性がある。両者は互いに関連しているのだ。
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みんなのコメント
記事内容のようにヒントが分かってきたならイタリアGPで兆しが少しは見えてもよさそうなものなのに、タイヤ交換のタイミングでしかトップに立てず、交換後のノリス、ピアストリ、ハミルトンには防戦すら出来ずにあっさり抜かれていましたからね。