安くて、楽しくて、速い。まるで牛丼チェーンのようなクルマ好きにはたまらない名車がある。その名は「アルトワークス」。軽規格の軽いボディにタフで速さのあるエンジンを積み、まさに日本のライトウェイトスポーツの真骨頂だ。歴代アルトワークスを振り返りつつ、日本の至宝の思い出を語ろう。
執筆 小鮒康一
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スズキのラインナップのボトムラインを担うアルトは、1979年に初代モデルが登場した。当時、高い物品税が課せられていた乗用車に対し、商用車登録となる軽ボンネットバンとすることで課税を回避。徹底的なコスト管理によって実現した「47万円」という車両価格も相まって大ヒットを記録したモデルだ。
初代アルト
そして、そんなアルトにはもうひとつ忘れてはならない存在がある。それこそが1987年、2代目アルトに追加されたホットモデル「アルトワークス」(トップ画像)である。
このモデルは、当時の軽自動車たちがパワーウォーズを繰り広げている真っ只中に登場。1985年に登場したダイハツ ミラターボが52PSで登場し、それまでの最強だった42PSの三菱ミニカターボを10PSも上回るパワーで話題となっていたところに、さらに10PS以上上回る64PSを引っ提げて登場したのだ。
結局、この64PSというパワーは現在に至るまで軽自動車に置ける最高出力の自主規制値となっており、その事実を見るだけでも初代アルトワークスがずば抜けた動力性能を持ち合わせていたことが分かるだろう。なお、一説によると当初はこれ以上のパワーでリリースされる予定だったが、当時の運輸省が難色を示したため64PSに抑えられたという説もあるようだ。
初代アルトワークス インテリア
この初代アルトワークスはビスカスカップリング式のフルタイム4WDを備えた「RS-R」と、その2WD版の「RS-X」のほか、エアロパーツを装着しない「RS-S」というグレードも用意されていた。
専用のエクステリアが採用された2代目アルトワークス
1998年9月にフルモデルチェンジを果たして3代目へと進化したアルト。アルトワークスも同様にフルモデルチェンジが実施され、新たに通常のアルトとは異なる丸型ヘッドライトを備えた専用エクステリアが与えられている。
2代目アルトワークス(前期型 550ccモデル)
当初は税制面で有利な4ナンバーの商用登録となっていたアルトワークスであるが、平成に入って物品税が廃止(代わりに消費税が導入)され、1990年1月から軽自動車規格も新規格となってボディサイズの拡大と排気量の660cc化が導入されたこともあり、1990年3月のマイナーチェンジのタイミングで5ナンバー化がなされた。
そして1990年7月にはエンジンをDOHCからSOHCへと置き換え、快適装備を標準装備としたマイルド仕様の特別仕様車「ワークスi.e.」をリリース。スポーティなルックスと扱いやすさが女性ユーザーなどにも支持され、のちにカタログモデルとなった。
その一方で、よりハードなモータースポーツベース車「ワークスR」も1992年6月に追加。こちらはローギヤ―ドのクロスミッションに始まり、専用タービンやECU、ビッグスロットルなどを標準装備とし、アンダーコートもレスというもので、シートなどの交換前提のものは低グレードのものが装着されるというガチ仕様だった。
アルトワークスR
キープコンセプトながら、新開発のエンジンを搭載した3代目アルトワークス
1994年11月に通算3代目となったアルトワークス(アルト自体は4代目)は、エクステリアこそ先代のイメージをほぼ踏襲したものとなっていたが、トップグレードの「RS/Z」には、アルミ製シリンダーブロックを採用した新型エンジン「K6A」型のターボエンジンが搭載されていた。
3代目アルトワークス
また先代のモデル途中で追加されたSOHCターボエンジンを搭載のマイルド仕様も「ターボie/S」と名前を改めて継続設定。こちらは先代と同じくSOHCの「F6A」型ターボエンジンが採用されていたが、こちらも自主規制値いっぱいの64PSを発生するようになっている。
なお、硬派なRS/Zは全車5速MTのFFもしくは4WDとなっており、ターボie/sはFFと4WDの5速MTのほか、FF仕様に3速ATが設定されていた(のちに4WDモデルにも3速ATが追加)。
そして1995年5月には先代にも設定されていたモータースポーツベース車「ワークスR」が登場。RS/Zの4WDモデルをベースに、先代と同じくクロスミッションや大型のインタークーラー、専用タービン&ECU、鍛造ピストンにハイカム、そしてブーストアップのために圧縮比を落とすといったチューニングがなされていた。
モデル末期の1998年1月には特別仕様車の「スズキスポーツリミテッド」が登場。これはその名の通り、当時のスズキワークスであるスズキスポーツ製のパーツが装着されたもので、フロントリップスポイラーやリアウイング、アルミホイールにサイドストライプなどが備わっていた。
ただし、ベースがRS/Zではなくターボie/sということで、ホッテストモデルを求めるユーザーには物足りないものとなっていたようだ。
短命に終わった4代目アルトワークス
軽自動車規格が再度改訂された1998年10月のタイミングでフルモデルチェンジを果たしたアルトワークス。ホットモデルのRS/Zの5速MT車のエンジンには可変バルブタイミング機構が備わり、最大トルクは歴代の軽自動車でもトップクラスの11.0kgmを誇っていた。
4代目アルトワークス
先代同様、SOHCのF6Aターボを搭載するマイルド仕様はシンプルに「ie」というグレード名に改められ、先代までは頑なにMTのみのラインナップとなっていたホットモデルのRS/Zにも4速AT仕様が追加された。さらに1999年10月には「ie」グレードが全車ワークス初の5ドアボディとなるなど、より幅広いユーザーに対応しようとする姿勢が見て取れた。
しかし、スポーツモデル冬の時代となった90年代後半の冷たい逆風はアルトワークスにも容赦なく吹き付け、先代のようにモータースポーツベース車も生まれることなく2000年12月に実施されたアルトのマイナーチェンジのタイミングでワークスが廃止。2代目アルトから4世代続いたアルトワークスの名前は途切れることとなってしまったのである。
およそ15年ぶりの伝説復活、5代目アルトワークス
2000年末に消滅してから、2世代に渡ってホットモデルから遠ざかっていたアルトだったが、2014年12月に登場した8代目モデルには登場直後に「ターボRS」というターボモデルが追加され、翌2015年末には待望のアルトワークスが復活した。
アルトターボRS
ターボRSにはMT仕様が用意されていなかったが、ワークスには専用開発されたショートストロークの5速MT仕様もラインナップ。エンジンもターボRSよりもチューニングがなされ、最大トルクが0.2N・mアップされた。
5代目アルトワークス
そして室内にはホールド性に優れるレカロ社製のバケットシートをフロントに奢るなど、ワークスの名前に恥じない仕様となっている。
残念ながら従来型のようなモータースポーツに活用できるような4WDシステムは持ち合わせていないが(4WDモデルはあるが、センターデフのない生活四駆寄りのシステムとなっている)、600kg台後半という圧倒的な軽量ボディで新たなワークスの価値を創造したモデルと言える。そしてこれまでのアルトワークスと同じくチューニング派のラブコールを受け、マーケットで大人気。カスタマイズパーツも多数リリースされ、“ワークス伝説”は最も熱を追帯びていると言っても過言ではない。
このように軽自動車でありながら、シチュエーションによっては普通車をカモるほどの実力を秘めていた歴代アルトワークス。その高いポテンシャルはもちろんのこと、比較的安価な価格設定という点もベースとなったアルトの美点を引き継いでいると言えるだろう。
まもなく登場するとウワサされている新型も豪華絢爛なモデルではなく、多くのユーザーの手が届く価格帯のホットモデルになることを切に願いたいものだ。
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みんなのコメント
筆者の個人的な希望だけかよ。