Bentley Bentayga V8 × W12
ベントレー ベンテイガ V8 × W12
マクラーレン セナをエストリルサーキットで試す:清水和夫の全開アタック編 【Playback GENROQ 2018】
V8とW12、異なる強烈な個性を測る
W12モデルのみのラインナップだったベンテイガに、550ps/770Nmを発生する待望の4.0リッターV8モデルが導入された。ボディサイズはまったく同じV8 & W12モデルだが、その走りの違いはいかなるものなのか? 試乗を通じてモータージャーナリストの渡辺敏史がジャッジする。
「高性能=多気筒化という方程式は必ずしも正解とはいえなくなった」
2000年代に入り、二次曲線的に高い環境性能を求められるようになった自動車の世界においては、高性能=多気筒化という方程式は必ずしも正解とはいえなくなった。直噴+過給機+高演算ECUが可能にした精密な燃焼管理はダウンサイジングの波を一気に推し進め、音・振動の解析技術とバランサーやダンパー&ブッシュの進化によって2気筒や3気筒ですら振動や騒音を抑え込むことも苦ではないとあらば、コストバランスからクルマのエンジンは縮小化の一途を辿るわけである。
今やEセグメントあたりまでは4気筒で十分賄える現状を鑑みるに、6気筒や8気筒の存在意義は力強さやフィーリングといった嗜好のためということになるだろう。ましてやそれが12気筒となれば、機能的に必要とするクルマなどない、純粋な贅沢のために存在するものだ。
「8気筒の実利を取るというよりも、8気筒にしかないテイストをユーザー側は求める」
今、主要なハイエンド系モデルではこの8気筒と12気筒が併売されていることが多い。そのクラスともなれば極端にコストパフォーマンスを意識するユーザーも少ない・・・となると、8気筒の実利を取るというよりも、8気筒にしかないテイストをユーザー側は求めることになる。
そのような視点でみれば、新たにV8ユニット搭載モデルが追加されたことで、ベンテイガのラインナップは興味深いことになったと思う。それは既出のW12ユニット搭載モデルに対しての明確なテイストの違いがもたらす機微だ。
「内装に関しては形状や素材、仕立てに至るまでまったく同じクオリティ」
まず両車を並べて眺めてみる。意匠的にはまったくといっていいほど違いはない。唯一の識別点といえばエキゾーストフィニッシャーの形状が、むしろV8の側に強く抑揚がつけられている。この手法はコンチネンタル系にも用いられるが、ベンテイガの場合は嵩が天地に高いこともあってか、クワッドテールと呼ばれるそのデザインはますます目立たない。
そして内装に関しては形状や素材、仕立てに至るまでまったく同じクオリティで設えられている。もちろんトリムラインの選択次第では印象に差が出るが、基本的にはスタティックは互角、メカニズムの差異のみで売り分けるという姿勢に、V8は安売りモデルではないというベントレーの潔き自信が感じられる。
ベンテイガV8が搭載する4.0リッター直噴ツインターボユニットはアウディが設計を担当したもので、グループの縁を辿ればRS系やカイエン、ウルスなどが同等のものを採用している。とりわけウルスやカイエンはドライブトレインのアーキテクチャーも共通項が多く、基本メカニズム的には3兄弟と表することも出来なくはない。パワー的にはSUV初の300km/hオーバーを標榜するウルスが650psと突出しているが、カイエンとベンテイガは共に550psを発揮。
「動的バランスの好循環は間違いなくV8の真骨頂」
そしてベンテイガの動力性能は最高速が290km/h、0-100km/h加速が4.5秒と発表されている。これはW12に対して11km/h低く、0.4秒遅い数値だが、話がSUVとあらばほとんど誤差のようなものだろう。ちなみに組み合わせられるトランスミッションはZF製の8速AT、ドライブトレインは40対60の駆動配分となるフルタイム4WDとこちらも共に同じである。
エンジンの始動時からちょっと元気なサウンドを聞かせてくれるV8は、W12に比べれば操作に対する反応のコントラストがはっきりとしている。すなわち踏めば鋭いピックアップと若々しいエンジンサウンドと共にグッと明確な蹴り出し感のある加速をみせてくれる一方で、パーシャルスロットルで巡航するような場面では高級サルーンさながらの静けさをもって、後席との会話にもまったくストレスを感じない。
そして交差点を曲がる程度の話でも実感するのは、鼻周りの軽さだ。これがコーナリングというような領域になれば、そのキビキビ感は明らかにV8の側が際立っている。思い通りに動くという安心感もあってアクティブなドライビングに誘われれば48Vのモーターによりスタビライザーの動きを規制するオプションのダイナミックライドも活き活きと応答性を高めてくれるなど、動的バランスの好循環は間違いなくV8の真骨頂といえるところだろう。とはいえ所作にガツガツとしたところはなく、操舵や制動のフィーリングも努めてしとやかに躾けられているところがベントレーのSUVらしい。
「端的にいえば、走るならV8、慈しむならW12」
だが、そのベントレーに期待するSUVらしさを唯一無二のフィーリングや強烈なエレガンスに求め始めると、途端に際立ってくるのがW12の存在だ。やはり大きいのはとろりと柔らかなエンジンの回転フィール、それに伴っての音や振動の粒のきめ細かさといったV8との明確な差異にある。排気量的な余裕をひけらかすことなく穏やかに湧き出る清水のように滑らかなトルクを用いて、無粋なキックダウンを抑えての息の長い加速を味わえば、物量に勝る豊かさはなかなか得られないものだと心傾く自分に気づく。
そしてW12には総合力で高いダイナミクスを叶えるV8とは異なる類のプレジャーも感じられる。それはやはりエンジンに起因するものだ。継目を感じることなく吸い込まれるように深い加速とともに放たれる個性的なサウンドにSF的な浮世離れ感を抱くのは僕だけではないだろう。ともあれベントレーはこの2つのエンジンの特性を巧みに個性へと昇華させている。それは今に始まったことではないが、ベンテイガの場合、コンチネンタル系よりもその振れ幅は大きい。端的にいえば、走るならV8、慈しむならW12、そういった種別になるだろうか。
REPORT/渡辺敏史(Toshifumi WATANABE)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)
【SPECIFICATIONS】
ベントレー ベンテイガ V8
ボディサイズ:全長5150 全幅1995 全高1755mm
ホイールベース:2995mm
車両重量:2480kg
エンジンタイプ:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3996cc
最高出力:404kW(550ps)/6000rpm
最大トルク:770Nm(78.5kgm)/1960-4500rpm
タイプ:8速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前ダブルウイッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ :前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール:前285/40ZR22 後285/40ZR22
燃料消費率(EU複合モード):11.4リッター/100km
車両本体価格:1994.6万円
ベントレー ベンテイガ W12
ボディサイズ:全長5150 全幅1995 全高1755mm
ホイールベース:2995mm
車両重量:2530kg
エンジンタイプ:W型12気筒DOHCツインターボ
総排気量:5945cc
最高出力:447kW(608ps)/6000rpm
最大トルク:900Nm(91.8kgm)/1350-4500rpm
タイプ:8速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前ダブルウイッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ :前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール:前285/40ZR22 後285/40ZR22
燃料消費率(EU複合モード):13.1リッター/100km
車両本体価格:2786万円
※GENROQ 2018年 9月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。
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