80年代の自由な発想で生まれたスマートで個性的なクルマ
2023年現在、BEV車も含めて(巻き込んで?)世の中の新型車の主流はすっかりSUVと化している。もちろんSUVもクルマとして魅力的なカテゴリーではあるが、問題なのはそのあおりを喰って、最近、SUV以外のクルマの元気がいささかなくなってしまったことだ。
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カリフォルニアのデザインスタジオ生まれ
日産「エクサ」のカタログを久しぶりに眺めながら、つくづく「ああ、なんて自由ないい時代のクルマだったのだろう」と改めて思った。日産エクサの登場は80年代半ば、1986年10月のこと。流れとしては2代目「パルサー」(N12)の世代で登場した2ドアクーペの「パルサーエクサ」の位置づけを受け継いで登場したクルマだったが、パルサーの3代目へのモデルチェンジを機に「エクサ」として独立した。当時の広報資料には「スペシャルティクーペとしての位置付けをはっきりさせることからはじめた」、「もっと自由で開放的な、そしてなにより楽しいクルマとして開発を進めた」とある。
キャッチコピーは「airy(エアリイ)」。まさに言われなくても空気のようにフワッと自由な雰囲気をもつクルマであることは、見た瞬間に伝わってきた。ちなみにデザインを担当したのは、1979年にアメリカ西海岸に設立されたNDI(ニッサン・デザイン・インターナショナル)。1983年にカリフォルニア州サンディエゴに新しいデザインスタジオが建設され、ここから初代「テラノ」(1986年8月登場)とともに生み出された。初代テラノもそうだったが、エクステリアデザインにどことなく日本車離れした空気を漂わせていたのは、そういう経緯、出自からだった。
「クーペ」と「キャノピー」を着せ替えできる、はずだった……
いずれにしても、堅苦しい文体で紹介するのが似合わないような、眺めても乗っても自由奔放で楽しげだったのがこのエクサだった。とりわけロールバー風のBピラーとその後ろの三角窓までを残し、そこから後ろにリアハッチのクーペとキャノピーという2つのボディ形状を用意。リアゲートを兼ねたこの部分が取り外し可能だったのは、このエクサの最大の見せ場だった。
いずれも窓の部分はガラス、そのほかの本体は樹脂製で、重さは資料によればクーペのリアハッチが26kg、キャノピーで30kgだったとのこと。初代「ユーノス ロードスター」の純正ハードトップが20kgほどだったことからも、決して軽いとはいえなかったはずだが、ディーラーオプションで「リアハッチ脱着キット」なるもの(つっかえ棒のようなもの?)と、さらに外した状態で使うためのキャンバスハッチも用意されていた。
日本仕様では別個の2モデルとして販売されることに
ただしここで残念だったのは、クーペ、キャノピーで形状が違うことから法規上は別のクルマと見なされてしまい、なのでクーペをキャノピーに着せ替えて1台で2通りに楽しむ……ということができなかったこと。実際にはルーフ部分をボディに止めるヒンジ部分のパーツがわざわざ違えてあって(たしかネジ山の違いと聞いた覚えがある)、物理的にも着せ替えは不可能だった(そのヒンジ部分を丸ごと輸出仕様か何かに取り換えて不可能を可能にする手段はあった、とも。筆者だったら即刻その手段を使うべく、パーツの手配に奔走したことだろう)。まあ、そうした無粋な事情にさいなまれた当時のオーナーは、ちょっと気の毒だった気もする。
とはいえエクサでは、キャビン部分もTバールーフ状になっており、左右分割でルーフが脱着可能になっていた。外したルーフはラゲッジルームの専用スペースに格納できるようにもなっていた。つまりクーペ、キャノピーのいずれのモデルもルーフを取り外し、さらにリアハッチ部分も外せば、このフルオープン状態で相当に開放的なドライブが楽しめたはずだ。なお実車は4人乗りで、一応、後席も用意されていたが、見るからに簡素なこのシートのことをカタログでは「2マイルシート」と呼んでいる。初代ホンダ「バラードスポーツCR-X」の「1マイルシート」に対抗しての表記かどうかは未確認だが……。
インテリアも先進的で走りもしっかり楽しめた
なおインテリアもさりげなく先進的なデザインが採用されており、メーターナセル左右に集中スイッチ(左:ハザード、ワイパー、右:ライト、リアデフォッガー)が設けられたり、ドアに格納タイプの空気吹き出し口を備えたりしていた。また同世代のパルサー同様にJBLのスピーカーもディーラーオプションで用意された。ヘリンボーン柄のシート表皮(共布はドアのインサート部分にも採用)など、決して軽々しくない大人のパーソナルカーの雰囲気ももっていた。
搭載エンジンはCA16DE型(120ps/14.0kg-m)の1.6Lツインカム16バルブ。当時のパルサー同様に粒立ちのいい音とパワーフィールで爽快な走りが楽しめたと記憶している。Tバールーフを前提にボディ各部に二重ボックス構造を採用するなどして、(ベースのパルサーも当時のVW「ゴルフ」並みだったから)ボディ剛性も十分な高さを確保していたことも見逃せない。今でも通用するのではないか? と思わせられる、スマートで個性にあふれたクルマだった。
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