BEVであれば、どんなモデルでも新しい価値観を備えているだろうと思い込むのは早計である。たしかに、クルマが電気モーターで走ることにはまだ新鮮味があるかもしれないが、それだけではすぐに陳腐化する。クルマとしてどのような世界観を提供すべきで、それをどこまで突き詰めているのか。EQS SUVはそこを知る最適例だろう。(Motor Magazine2023年11月号より)
居住空間も動力性能もトップグレードたる余裕
2030年までに販売される新車のすべてを完全電動化すると宣言したメルセデス・ベンツが、BEV専用のサブブランドとして<メルセデスEQ>を立ち上げたのは2018年のことだった。
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そのファーストモデルとなったのは、ラインナップの中軸ともいえるSUVの「EQC」で、現在では他にSUV系のモデルが「EQA」「EQB」「EQE SUV」「EQS SUV」の4モデルがあり、そしてセダン系に「EQE」と「EQS」という、合計7車種でのBEVラインナップが完成するに至っている。
この積極的なメルセデスEQブランドの拡充を見てまず思うのは、メルセデス・ベンツは市場で自動車の電動化が進むのを待ちながらではなく、そのテクニカルトレンドを牽引していくメーカーの役割を選択した、という事実だ。
それは今回試乗したメルセデスEQの最新作「EQS 580 4マティックSUV スポーツ」に採用されたメカニズムを知ればより明らかになる。
たとえばメルセデス・ベンツ自身がエレクトリックスケートボードアーキテクチャーとも呼ぶプラットフォームの「EVA2」は、その名のとおりBEV専用の、しかも大型車に限って使用される新開発のもの。さらにそのフロアに搭載される駆動用リチウムイオンバッテリーもハイニッケル&コバルトフリーを進めることで、サプライチェーンのリスクや、同時にコストの低減を図ることにも成功している。
EQS 4マティックSUV スポーツは、EQS SUVシリーズのトップグレードとなるものだが、その駆動用バッテリー容量は107.8kWhで450+や450 4マティックといった他グレードと変わらない。
電気モーターは前後アクスルにそれぞれ1基ずつ搭載され、システム最高出力は544ps、最大トルクは858Nmを発揮。一方で一充電走行距離はWLTCモードで589kmを可能にする。0→100km/h加速は4.9秒、また最高速は210km/hというから、その運動性能は日本では余裕で事足りると想像できる。
メルセデス・ベンツのラインナップの中から、このEQS 580 4マティック SUV スポーツと車格的に並ぶモデルを探すとすれば、やはりその車名を挙げるべきはGLSということになるだろう。実際のボディサイズは全長×全幅×全高で5135×2035×1725mm。これはGLSよりもややコンパクトな数字になるが3210mmのホイールベースは、逆にGLSより長い設定だ。
実際に見るEQS 580 4マティック SUV スポーツのボディはたしかにこのディメンジョンが直接表現されたかのように、とてもスムーズなデザインに感じられる。
特徴的なのはキャブフォワードのデザインが、フロントのボンネットからリアのハッチゲートに至るまで、実に美しく描き出されていることで、それと同時にサイドビューのダイナミックな造形は、高級SUVとしてのエレガントさとともに力強さを巧みに表現しているのがわかる。
もはやフレッシュなエアを導くという従来の役割を果たす必要がなくなったフロントグリルは、当然のことながらきわめてスムーズなデザインで、センターの大径スリーポインテッドスターの他にもグリル全面に細かく星が描かれるフィニッシュからは、新しい時代の訪れというものを感じずにはいられない。
参考までに、見た目にも空力性能の高さを感じるこのモデルのCd値は0.26と、SUVとしては大いに魅力的な数字だ。
これこそがフルディスプレイ。実用的なサードシート完備
キャビンも最新のSUVらしく機能性に富んでいる。運転席に身を委ねてまず驚かされるのは、メーターパネルからセンタースクリーン、そして助手席用のスクリーンまでを統合した<ハイパースクリーン>で、短時間の試乗ではさすがにそのすべての機能を確認するまでには至らなかったが、使い慣れればその利便性は大いに評価できるものとなるのだろう。
そしてこのモデルの最大の特長は、2人用のサードシートを装備することで、前から2−3−2の7人乗りを実現していることだ。
シート座面はどの位置も横方向にワイドな印象を受けるが、ホールド感そのものには不満はない。注目のサードシートの着席には身長制限もなく、着席してしまえば短時間の移動には十分耐え得ると感じたが、乗降性はさすがに身長175cmの筆者には自然な姿勢で、というわけにはいかなかった。
そのサードシートはもちろんラゲッジルームを拡大するために収納が可能で、座席使用時に195L だったラゲッジスペースは、さらにセカンドシートまでを収納すれば、最大で2020L にまで拡大することが可能になる。
EQS 580 4マティック SUV スポーツは、先進的なBEVである以前に、機能性に優れたパッケージングを長いホイールベースやそのボディデザインによって実現したモデルであることを、まずは忘れてはならないのだ。キャビンの居住性は、サードシートを別とすれば、あるいはセダンのEQSより高いのではないかとさえ思えた。
544psという最高出力を発揮するEQS 580 4マティック SUV スポーツだが、フルアクセルでの発進加速を試みてまず印象に残るのは、BEVにありがちな過激さを一切感じさせない上品な加速感だ。それは2880kgという車重が負担となっての欠点ではない。
事実、ペダルの動きに対するレスポンスは素晴らしく、中間加速でも実に自然なフィーリングを保ったまま、目的とする速度へと達してくれるのだから。
静粛性と快適性を両立。姿勢変化は明らかに安定
走行中のノイズが小さいこと、そしてエアサスペンションを採用したことで得られた快適な乗り心地もこのモデルでは大きな魅力のひとつだが、こうなると気になってくるのはタイヤからのロードノイズの大きさだ。
試乗車に装着されていたのは21インチ径のグッドイヤー製タイヤだったが、それがもう少し収まればというのはやはり贅沢な希望なのだろうか。
フロア下にリチウムイオンバッテリーを敷き詰める低重心のBEVは、コーナリングにも有利な基本設計が可能だが、それはこのEQS 580 4マティックSUV スポーツでも変わらない。しかしながらこのようなシーンでも、やはりこれだけのサイズを持つモデルとなると、スポーツカー並みのクイックなコーナリングを楽しもうというわけにはいかない。
たしかにコーナリング時のボディの姿勢変化は明らかに安定しており、これらはエアサスペンションや前後の駆動力配分を常に最適に制御してくれる4マティック機構、そして最大で10度の舵角が得られるリアアクスルステア(後輪操舵)などの相乗効果によるもの。さすがはメルセデスEQブランドの最上位に位置するモデルだけのことはあると納得させられた。
このEQS 580 4マティック SUVVスポーツにも、ドライブモードを選択できる機能は与えられているのだが、その中でも興味深かったのは、いかにもSUVらしい「オフロード」モードが用意されていることだ。
このモードを選択すると車高がアップし、こちらもエアサスペンションやブレーキ、そしてリアアクスルステアなどの制御とともに、最高130km/hまでオフロード走行をサポートする。今回は軽く砂地を走る程度のチャレンジだったが、想像以上の走破性を見せてくれた。
そしてリアアクスルステアに関して報告するならば、やはり都市部の狭い道でも、取り回しに苦労することはほとんどなかった、ということを付け加えておきたい。
メルセデス・ベンツにおけるEQというブランドは、果たしてこれからどのように進化を遂げていくのだろうか。かつて化石燃料を使う自動車というものを発明した彼らは今、電気自動車の先駆者のひとつとして、その道を切り開いている。我々は今、歴史的な変革を目にしているのだ。(文:山崎元裕/写真:永元秀和)
メルセデス・ベンツ EQS 580 4マティック SUV スポーツ主要諸元
●全長×全幅×全高:5135×2035×1725mm
●ホイールベース:3210mm
●車両重量:2880kg
●モーター:交流同期電動機
●モーター最高出力:265kW(360ps)/5198-8786rpm
●モーター最大トルク:568Nm/0-4340rpm
●バッテリー総電力量:107.8kWh
●WLTCモード航続距離:589km
●駆動方式:4WD
●タイヤサイズ:275/45R21
●車両価格(税込):1990万円
[ アルバム : メルセデス・ベンツ EQS 580 4マティック SUV スポーツ はオリジナルサイトでご覧ください ]
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