2023年の暮れも押し迫ったころ、新型プリウスがタイのレースに初参戦、というニュースが届きました。それを聞いて思い起こしたのが、2006年と2007年の十勝24時間レースから始まった、トヨタ・ハイブリッドレーサー黎明期の思い出。タイ戦ではカーボンニュートラル燃料を使用したとのこと。水素もいいけれど、より身近なところで「王道」が見えてきたような気がしています。<2023年末~2024年1月12日版>
デビュー戦、GR86に迫る周回数を重ねたプリウス
少しばかり遅ればせながら昨年末、タイでのお話。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
かつてはスーパーGTシリーズ唯一の海外遠征サーキットだった、タイのチャーン・インターナショナル・サーキットで開催された「IDEMITSU SUPER ENDURANCE SOUTHEAST ASIA TROPHY 2023」(通称タイ10時間耐久レース)に、トヨタはROOKIE RACINGからCNF(カーボンニュートラル燃料)GR86、水素エンジンGRカローラとともに、新型プリウスを参戦させました。
マルチパスウェイを謳うトヨタではあるけれど、お家芸であるハイブリッドはやはり格別です。しかも、使用する燃料がCNFだというのですから、これはもう普通のガソリンエンジンにCNFを代替させたGR86よりもインパクトがあったんじゃないでしょうか。
3台はレースを完走しましたが、ちょっと印象的だったのが周回数の違いでしょう。GR86 CNFコンセプトは289周で総合4位、GRカローラH2 コンセプトは161周で総合55位。気になるプリウスCNF- HEV コンセプトは、272周を元気に走りぬいて総合11位。大健闘、ですよね。タイでもしっかりハイブリッドの魅力をアピールできたようで、なによりです。
トヨタにとっては電動化の代表選手たるプリウスですが、ハイブリッドカーとして初めて本格的なレース=スーパーGT(GT300クラス)に参戦したのは2012年シリーズから。以来、レースシーンを通して「走りが楽しいエコカー」をアピールし続け、その取り組みは国内のみならず海外にも舞台を広げつつあります。
そして今、プリウス以前のトヨタ・ハイブリッドのチャレンジスピリットに関して、黎明期から興味をそそられていたことが、改めて思い出されたのでした。
始まりは2006年7月の北海道十勝サーキットからになります。
当時としては国内戦でもっとも過酷と言われていたスーパー耐久シリーズ「十勝24時間レース」への挑戦が、実質的な第一歩と言えるでしょう。そこからトヨタのハイブリッドは一足飛びに、「スポーティで楽しい」イメージを醸成していくのでした。
市販車プラスアルファのGS450hで24時間に挑む
参戦決定を告げる公式リリースに掲げられた旗印は「今後の市販車両への技術的なフィードバックを前提に、24時間レースという過酷なモータースポーツの場での挑戦を通じて、ハイブリッドシステムの更なる小型軽量化や高効率化等を目指す、開発の一般と位置付けて行うものである」(2006年7月4日付リリースより)
あわせてこの時、トヨタははっきりと「ハイブリッドスポーツシステムのモータースポーツにおける可能性についても、調査を行う予定」であることを明言しています。このころFIA会長だったマックス・モズレーが「将来的には、F1のハイブリッド化もやぶさかではない」とコメントするなど、ハイブリッドは確かにレース界においても注目株となっていました。
折しも2006年と言えば少し先んじた6月、過酷なことでは十勝を凌ぐフランス ル・マンでの24時間レースで、LMP1マシン「アウディR10 TDI」が史上初のディーゼルエンジン総合優勝を果たした年です。
その快走によってディーゼルの優秀性(主に省燃費と速さのハイレベルなバランスだったようです)が印象付けられた以上、ハイブリッドのイメージ向上にレースを活用するプランはある意味、トヨタにとっても必然だったかもしれません。
もっとも、十勝サーキットの現場で取材している側には「ハイブリッドで走り切ることができるのか?」という不安も半ばありました。概ね、電気モーターの耐久性や、回生によるバッテリーの持ちに関して、懐疑的だったことは確かです。
レースマシンのベースは、レクサスGS450h。エアロで「武装」してはいるものの、基本メカは市販車をレース規定にフィットさせたレベルだったと記憶しています。当時はST-Qクラスはなく、特認車両として最大の排気量が許されるST1クラスから参戦しました。
トヨタ陣営(正確には、準ワークス系のSARDを経由)の目論見としては、省燃費性を活かしたロングスティントでの健闘を期待していたようですが、いかんせんボディの重さが裏目に。エンジンと燃料タンクに加え、モーターとバッテリーを搭載していたGS450hの車両重量は、1.5トンに達していたそうです。
おかげで実戦でのタイヤ、ブレーキ、サスペンションへの負荷は想定を超え、バッテリーへのエネルギー回生も難しく、かなり頻繁なピットインが必要になりました。それでも全完走車29台中17位、クラス4位の戦績は、そうとうな健闘と言えるでしょう。
本気だからこそ不安も抱えていたスープラ HV-R
トヨタの底力と本気は、早くも翌年の十勝24時間レースで証明されることになります。初戦の苦闘で得られたさまざまなデータを活かす形で翌年、レーシングスペックのハイブリッドユニットを搭載したニューマシン「トヨタ スープラHV-R」が投入されたのですが、なにしろこいつがいろんな意味で凄かった。
HV-Rの「ベース車両」は、前年までスーパーGTシリーズで戦っていたスープラGT500・・・つまり、レース専用車両での参戦です。しかも、ハイブリッドシステムもレース専用に開発された特別な仕様でした。わかりやすいところでは、4輪駆動システムを採用していたことからも「凄い」ことを理解してもらえると思います。
さらに驚くべきは前輪左右に、インホイールモーターを使っていたことでしょう。左右の駆動力配分こそなかったものの、GTの4.5L V8エンジンとインホイールモーター、さらに専用のキャパシタまで組み合わせていました。トヨタ モータースポーツ部は、正真正銘の「十勝スペシャル」としてHV-Rを仕上げてきたのでした。
それはまさに「スポーツハイブリッド」の未来を切り開くための、戦いでした。実際、実戦でのデータは市販車両へのフィードバックを大前提に、さまざまな課題の洗い出しを狙っていました。もっとも実はこの時、そうした野望そのものが崖っぷちに立っていたといいます。
なにしろ他のS耐マシン(2007年から「STグループ」と規定されていた)の改造範囲は限定されており、HV-Rは唯一の「GTクラス」として明らかに格上。つまり戦闘力の差は歴然。ここまで力の入った体制で無様な敗北を喫してしまえば、レースにおけるスポーツハイブリッドの研究開発という計画そのものが、頓挫してしまう可能性があったのですから。
しかもこのマシン、当初からいくつかの課題を抱えていました。そのひとつが、効率的なエネルギー回生の切り札として採用されていた、インホイールモーターそのものに起因する課題です。開発陣が苦労したのは、回生によるブレーキングタッチの違和感を解消することでした。
とくに長丁場のレース中、ヘビーウェットになった時のコントロールに不安があったといいます。加えて、GT500の強心臓にトルクフルな電気モーターを組み合わせることで、ミッションの耐久性にも「爆弾」を抱えていました。楽勝かと思いきや、チーム的にはかなりドキドキな要素があれこれ秘められていたわけです。
もしかするとエンジンの未来につながる「天下分け目」だったかも
さて、ふたを開けてみれば、HV-Rはしっかりその「任務」を全うすることができました。ストレートでの段違いの速さが、コーナーで無理をしなくてすむ余裕を生み、結果として安全マージンの高いレース展開を可能にしました。
なによりメカニカルトラブルが一切なかったというから、開発陣の心配はまさに杞憂・・・だったとは言い切れなかったようです。ペース的にはそうとうセーブしていたことに加え、大半が雨模様だったためもあって、マージンを懸命に守るべくミッションをいたわり、回生ブレーキを調整し続ける「神経戦」が展開されていたと、後から知りました。
この勝利の後、当時のモータースポーツ部でハイブリッドマシン開発の中心を担っていた村田久武氏は、取材陣に「まだ第一歩。目標は全然、高いところにある」と語っています。明言されてはいなかったけれど、「対ディーゼルなどというレベルの目線にはない」というコメントが、その目標がどこにあるのかを物語っていたような気がします。
村田氏のある意味、不敵なコメントは数年後、現実になりました。2012年から耐久レースの頂点であるル・マン24時間耐久レースにハイブリッドLMP1マシンで参戦、幾度かの悔しい結果を経ながらも、2018年トヨタのTS050 HYBRIDによってついに念願の初優勝を成し遂げたのでした。
2007年の十勝でもしもHV-Rが惨敗を喫していたら、ル・マンへの挑戦はありえなかったかもしれません。いや、スーパーGTにプリウスが参戦することすら、なかったかも。もしかすると「スポーツハイブリッド」というジャンルそのものの誕生が、より遅くなっていたかもしれない・・・などと考えると、当時のモータースポーツ部の面々には感謝しかありません。
彼らの奮闘が生んだ未来への希望の芽は、もしかすると今、トヨタが掲げる「マルチパスウェイ」という戦略にまで通じているのかもしれません。それは、TAS2024において「普通のクルマ好きのおじさん」として参加した豊田章男会長のメッセージからも感じられます。
「この時代にエンジン?逆行しているように聞こえるかもしれませんが、決して、そんなことはありません。未来にむけて必要なんです。エンジンを作ってきた皆さん、エンジンを作り続けましょう!」(「モリゾウから新年のご挨拶」リリースより抜粋)
これほどに「エンジン、あって当然!」だと自信を持って宣言できるのは理由のひとつは、ハイブリッドが単なるエコカーの心臓ではないから。スポーツカーにもプレミアムカーにも使うことができるパフォーマンスと優れた効率、そして絶大なる信頼性という「エビデンス」を、レースの世界で実証してきたからこそ、ではないでしょうか。
モリゾウと同じく、エンジン大好きな人間としては、CNFで走るハイブリッドカーが普通に市販されることを期待しています。あ、まずはなによりCNFが普通に(それなりの高価格でもしばらくは仕方ないので)買えるようになると、最高なんですけどね。(写真:井上雅行)
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みんなのコメント
人前でレーシングとか謳えないと思うんだけどw
理由は簡単で市場流通する水素はすべて化石燃料から作られていて、ガソリンや電気に比べたらあり得ないほど高価だからである。再エネ水素など作ろうものなら更に高くなる。水素を出発点とする合成燃料は尚更だ。恐らく今年あたりはセルロースバイオエタノール、来年はユーグレナの人工光合成、再来年あたりから核融合と言い出すだろう。本気でやるつもりがないから何でもいいのである。
MIRAI の発売から10年、全方位戦略の実体はハイブリッド一本足打法だ。もうこれ以上自動車産業の足を引っ張るのはやめてもらいたい。