世代を重ねるたびに、目を見張るような進化を遂げるフェラーリのマシンたち。今回テストしたV8ミッドシップの系譜も、先代488から一足飛びの進化を感じさせる。ましてやオープンスタイルのスパイダーだからこそ、絶妙にグレードアップされたさまざまな魅力の「伸びしろ」が、ひときわはっきりと伝わってくるような気がした。(Motor Magazine2021年3月号より)
澄んだバリトンのエキゾーストノートが心地いい
真冬の風をまともに受けるとさすがに凍えるが、ルーフを開け放ったF8スパイダーはキャビンにほとんど風を巻き込まない。しかも、シートヒーターの利きも強力なので、手袋などの小物さえ用意しておけばさほど寒さは感じずに済む。むしろ、ほほに当たるキリリと引き締まった冷気が、気持ちいいくらいだ。
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いやいや、この時期にあえてオープンにしたのは、その華麗なフェラーリミュージックを堪能したかったからにほかならない。丈夫なメタルトップを閉じた状態では控えめにしか聞こえなかったエゾーストノート・・・だが、スイッチひとつで開閉できるルーフを折り畳んで収納すれば、澄んだバリトンの心地いい連続音がキャビンを埋め尽くす。
同じフェラーリでも、自然吸気のV12エンジンに比べて音程は低めとなるが、ずしんと腹の底に響く重いサウンドは、同じV8でもアメリカ製とはまったく異なる。音ににごりがなく、そして洗練されている。
F8スパイダーはF8トリブートのコンバーチブルモデルだ。では、ベースとなったF8トリブートの「トリブート」とは、なにを意味するのか?ご想像のとおりトリブートは英語のトリビュートと同じ意味のイタリア語。ちなみに英語のトリビュートには「賛辞、尊敬のしるし」などの意味がある。
フェラーリはF8トリブートのことを「ミッドリアエンジン2シーター ベルリネッタのエクセレンスを称える、フェラーリ史上最強のV8オマージュモデル」と表現している。「ミッドリアエンジン」とはフロントミッドシップと対を成すフェラーリ特有の言い回し。ベルリネッタはイタリア語でクーペの意味だ。つまり、「F8トリブートはフェラーリミッドシップV8の最後を飾るモデル」と解釈できることになる。
1960年代まで、フェラーリのロードカーといえばフロントにV12エンジンを搭載するのが伝統だった。例外はV6エンジンをミッドシップにしたディーノだが、ご存じのとおりディーノには「跳ね馬」の紋章が与えられていなかった。
リッターあたりの最高出力はフェラーリ史上最強レベル
実は、史上初のミッドシップV8フェラーリは1973年デビューの308GT4だ。もっとも308GT4は2+2の4人乗りっだった。これを2シーターにしてスポーツ性を高めたのが、1975年に誕生した308GTBだった。そこから45年以上の歳月をかけ、8度のモデルチェンジを経て誕生したのがF8トリブートである。
ここで「おや?」と思った読者もいるだろう。F8トリブートがフェラーリV8ミッドシップの最後を締め括るモデルであることはわかったが、では、次は何が出るのか? V6なのか? ミッドシップ以外のレイアウトなのか? それともハイブリッドなのか? 実は、その答えはまだ明らかにされていない。そんなミステリアスなところもまた、フェラーリらしいといえる。
F8の魅力はなんといってもそのエンジンにある。排気量3.9LのV8ツインターボは720psを発生。リッター当たりの出力は185psで、これはフェラーリ製内燃機関として史上最高スペックだという。また、フェラーリが近年好んで使うゼロターボラグも達成。ターボエンジンとは思えないレスポンスの良さも売り物のひとつだ。
前作488をベースとする車体関連ではエアロダイナミクスの効率がさらに向上したほか、FDE(フェラーリ ダイナミック エンハンサー)を組み込んだサイドスリップコントロール(ver.6.1)を搭載している。限界領域でも自信を持ってドライブできるコントロール性を得たという。
ここで紹介するF8スパイダーは、前述したとおりF8トリブートのコンバーチブル版である。かつてオープンボディのスポーツカーといえば、クーペボディに比べてボディ剛性が低く、ハンドリング特性にも何らかの影響を与えてきた。だが、フェラーリV8ミッドシップモデルの場合は2世代前の458からクーペとスパイダーのポテンシャル差がぐっと縮まってきた。前作となる488シリーズにいたっては、私には違いがまったくわからないほどのレベルに到達していたと思う。
458より前のスパイダーモデルでは、不整路面などでステアリングホイールに微振動が明確に伝わってくる感覚があった。つまりは取り付け剛性が不足気味で、ハードコーナリング中にはこれが精神的な不安につながってしまったために、思い切りよく攻め切ることができなかった記憶がある。
しかし、488とF8のスパイダーであればそんな気遣いは必要ない。少なくとも公道レベルの速度では終始、クーペモデルと変わらないペースでワインディングクルージングを楽しめるまでに進化している。
なにより488からF8でもっとも大きく変わったと感じるのが、やはりステアリングホイールから伝わる安心感である。先ほど説明したのは「最近のフェラーリはスパイダーでもクーペ並みの安心感が得られるようになった」という話だが、今から述べようとしているのは「クーペ同士の比較でも、F8は488より格段に安心感が強い」という話題である。
明確な接地感が生む安心感をウエットサーキットで実感
F8トリブートの国際試乗会はフェラーリ本社にあるフィオラノサーキットで始まったのだが、このときはあいにくの雨模様。いつもであれば、フェラーリ ミッドシップをウエットコンディションで走らせるのは気が重い仕事だが、このときはなんの不安を抱くこともなく、思い切ってコーナーを攻めることができた。
その理由は、ステアリングホイールを通じてフロントタイヤの接地感が明確に伝わってくることに加え、操舵力が適度に重く、しかも操舵量と実際にコーナリングする量の関係が一定していて予想しやすいことにあった。そのうえ、フェラーリの最近の傾向でコーナリング時にはフロントが適度にロールするように調教されていて、これが強い安心感をもたらす一因となっていた。
それでいながらステアリングホイールを切れば即座にフロントが反応するレスポンスの鋭さも備えているし、これをしっかりと支えてくれるリアのスタビリティも巌のようで申し分ない。これほど安心感が強く、またコントロール性が優れたフェラーリ ミッドシップを操るのは、私にとって初めてだった。
前作488からを上乗せして720psを発生するV8エンジンは、低速域でも分厚いトルクをふんだんに生み出し、3.9Lという実際の排気量以上の力強さを味わえる。感覚的には5L以上の自然吸気エンジンのようなトルク感である。
しかも、回転数が4000rpmを越えるとエンジン音はフェラーリらしい軽く乾いた連続音に近づいていく。ミッドシップは、本来フロントエンジンに比べて排気系の取り回しに制約が大きく、とくにターボエンジンではエキゾーストノートのチューニングに困難が伴うはずだが、F8に乗ると「ついにここまできたか」という感慨を持たざるを得ない。まさに、フェラーリ ミッドシップの究極の姿といっていい。
さて、F8に続く次世代モデルではどのようなテイストで我々を楽しませてくれるのか? それがどんなテクノロジーを用いていようとも、フェラーリの神格性にいささかの揺るぎもないことは疑う余地がないだろう。(文:大谷達也/写真:井上雅行)
フェラーリF8スパイダー主要諸元
●全長×全幅×全高:4611×1979×1206mm
●ホイールベース:2650mm
●車両重量:1400kg
●エンジン:V8DOHCツインターボ
●総排気量:3902cc
●最高出力:530kW(720ps)/8000rpm
●最大トルク:770Nm/3250rpm
●トランスミッション:7速DCT
●駆動方式:MR
●燃料・タンク容量:プレミアム・78L
●EU準拠燃費:7.7km/L
●タイヤサイズ:前245/35R20、後305/30R20
●車両価格(税込):3657万円
[ アルバム : はオリジナルサイトでご覧ください ]
[ アルバム : フェラーリF8スパイダー はオリジナルサイトでご覧ください ]
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