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ブガッティとベントレーの愛のない結婚? HEツーリッター・スポーツ(1) 100年前に5年保証!

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ブガッティとベントレーの愛のない結婚? HEツーリッター・スポーツ(1) 100年前に5年保証!

他に例がなかった5年間の新車保証

1924年8月8日、医師のケネス・ベイリー氏が真新しいHEツーリッターを受け取った。5年間という、当時では他に例がない新車保証と一緒に。創立間もない自動車メーカーとして、相当リスキーなサービスだったことは想像に難くない。

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それでも自動車黎明期の時代に、優れたスポーツカーが求められていた英国では、他社より目立つ必要があった。HE社の第1号となるモデルは、1919年の11.9hp。ツーリッターは、同社3番目の量産車だった。

HE社は、第一次世界大戦後に自動車の生産を開始。この保証制度が功を奏したのか、僅か4年という短期間に一定のシェアを獲得している。市民的なウーズレーやオースチンと、上流階級的なベントレーの中間という、ブランドの地位を築くことに成功した。

創業者は、ハーバート・マートン氏。航空機や船舶などを製造した、アームストロング・ホイットワース社で技術者として活躍後、ロンドンにブレイカー・エンジニアリング社を立ち上げた。1914年に、ハーバート・エンジニアリング(HE)社へ改称している。

当初は、バスやトラックなどを製造していたソーニークロフト社向けの、トランスミッションを製造。第一次世界大戦中の1916年には、航空機用エンジンの修理や整備も請け負った。

自動車メーカーとして技術力を劇的に向上

平和が訪れると、英国軍との契約は終了。マートンには、ロンドンの西、キャバーシャム二ある広大な工場と、600名の従業員が残された。そこで工場の管理担当だったHA.エドワーズ氏が、既存のインフラを利用し、自動車メーカーへの事業転換を提案する。

労働力を最大限に活かすため、パワートレインなどの主要な部品は、可能な限り自社で設計・製造することが決まった。当時の英国の自動車メーカーは、アンザニ社やメドウズ社などからエンジンを購入するのが一般的で、相当に野心的な判断といえた。

1923年までの4年間で、HE社は自動車メーカーとしての技術力を劇的に高めていった。設計に革新的なものはなかったものの、完成度は高く、見た目も美しく、お手頃なベントレーのようにみなされていたらしい。

ツーリッターが搭載したサイドバルブの4気筒は、排気量が1982ccと小さく抑えられ、購入税の優遇を得られた。シリンダーの直径、ボアは72.5mmで、ストロークは120mm。ロングストローク型で、充分なトルクが引き出された。

バルブの直径は太く、ピストンはアルミニウム製。ローラーカムシャフト・フォロワーや、コイル点火などを採用する、先進的なユニットでもあった。

アルミ製のシリンダーヘッドは、外部のリカルド・エンジニアリング社による設計。サイドドラフト・レイアウトで、ゼニス・キャブレターが組み合わされた。多板クラッチを採用した、4速のトランスミッションも独自ユニットだ。

驚くほどハンサムなツーリッター

これらの動力系の設計を率いたのは、航空機用エンジンの検査官だったローランド・サリー氏。ドライバーとしても有能で、その頃のブルックランズ・サーキットでは、時速83.85マイル(134.9km/h)という、クラス最高速記録を11.9phで残している。

彼はブガッティのオーナーで、トランスミッションの設計はこれから影響を受けたようだ。当時では珍しく、水平に2本並んだシャフトへギアを配置する構造が取られている。ドライバー右側のシフトレバーと、Hパターンのオープンゲートを備える。

リアアクスルへ駆動力を伝えたのは、トルクチューブで覆われたプロペラシャフト。ウォームギアのファイナルギアを介し、104km/hの最高速度を叶えた。

今日、Jスミス&Coモーター・エージェンツ社の敷地で見るツーリッターは、驚くほどハンサム。ラジエターグリルは卵型。エンジンはシャシーの低い位置に載るが、ボンネットは高い。アルミ製ボディは細身で、無駄なラインがなく、優雅なカーブを描く。

詩的なレーシングドライバーで、HEのオーナーだったWH.チャーノック氏は、「とりとめのない、ブガッティとベントレーによる愛のない結婚のようなもの」。と過去に評している。

魅了された初代オーナー 輸入車に匹敵した価格

今回のツーリッターは、ラインオフ以来、1度もレストアを受けていない。エンジンやトランスミッションだけでなく、スポーツツーリング 3シーター仕様のボディまで、100年前に作られたまま。内装は流石に傷んでしまい、数年前に新調されているが。

エンジンルーム後方のスカットル部分には、ヒンジで開くパネルが付く。ダッシュボードの裏から、メーターや電気系統へ簡単にアクセスできる。ツールキットの収納場所にちょうどいいが、5年保証を前提にした、整備性を高めるための配慮だろう。

シャシーは、スチール製のチャンネル材とパイプで補強した、プレス構造。サスペンションは、後ろが4分の3楕円のリーフスプリング、前は通常の半楕円リーフが支える。

初代オーナーのベイリーによって、このツーリッターは改良を受けている。その1つが、アンドレ・ハートフォード社製のダンパー。オリジナルは、HEの自社製だった。

彼は、このツーリッターへ深く魅了されていたのだろう。新車時の英国価格は595ポンドと、同等クラスの一般的なモデルよりかなり高価だった。関税のかかった、ルノーやフィアット、スチュードベーカーなどの輸入車に匹敵したほど。

ベイリーは24年間所有し、2代目のオーナーへ引き継がれるが、どちらも大切に乗っていたことは間違いない。現オーナーのニール・ゴフ氏が2019年に購入した時の走行距離は、6万9200kmだったという。運転を好む彼により、今は10万600kmへ伸びている。

この続きは、HEツーリッター・スポーツ(2)にて。

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